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「何か用?」
放課後、俺は空き教室の一つに誠也を呼び出した。
「──うん。ちょっと」
事前に誠也のセフレ達に情報は得ていた。こいつは最近、美人で有名な2組の久木さんと(不健全な方の)オトモダチになりたくて仕方がないらしいのだが、今のところ連絡先を交換することすら断られているとのこと。反吐が出る程に爛れた青春だが、この際どうでもいいし、むしろ誠也のその女癖の悪さに今は感謝すべきかもしれない。
「突然なんだけどさ、2組の久木さんの連絡先教えてあげてもいいよ? それとは別に、もし誠也が望むなら直接良いように紹介してあげることも出来る。 …でもその代わり、」
「あー……、わりっ。 今はいいわ」
は???
「……久木さんだよ?」
「おー、でもちょっとそれどころじゃねーから、紹介されて相手できなくても可哀想じゃん?」
「それどころじゃないってどういう意味」
「コイちゃんと遊ぶのに忙しいんだよ。 今はそっちが楽しいから、久木ちゃんにはいつか自分でアピるわ」
「……こい、ちゃん…」
「知らね? 俺の隣の席のー、…本名なんだったかな。 コイ崎? とかそんな。 黒髪で陰キャの、」
「知ってるよ小崎でしょ」
誠也が余りにもふざけた名前で呼ぶから、つい食い気味に言ってしまった。
知らないわけないだろ。少なくともお前よりは確実に小崎について詳しい自信がある。
誠也はアホっぽく手を打って、
「あーそうそうそんな名前! まあコイちゃんの名前は出さなくていいけど、時間できたら絶対遊ぼうねって久木ちゃんに言っといてー」
一方的に伝言を押し付けてくる幼馴染に、どうしようもなくイラッとさせられて、申し訳程度に上げていた口角がヒクリと痙攣する。コイツの自分本位なところ、俺の怒りメーター着火剤オリンピック金メダルものだわ。クソムカつく。
「…そう言えば、最近小崎と仲が良いね。 何でいきなり? 特に接点とかないよね」
「…あ、あれだよ。 ……共通の趣味、みたいな」
「へえ。 それって何? 俺も知りたいな。 誠也と小崎の共通の趣味」
「…俺らの秘密だから無理」
人差し指を唇に当てて吐息の代わりに口笛を吹くと、誠也は少し居心地の悪そうな感じでそそくさと教室を後にしようとする。
扉に手をかけた誠也を、「待て」と、俺は声だけで制止して──、
「駄目だよ。
他の全部はよくても、小崎だけは駄目」
その表情に、もう笑みなど欠片も残っていなかった。
複数の感情がドロドロと重く混じった瞳を、睨むでもなく、ただただまっすぐに向けられた誠也は、それとはまるで空気間の異なる能天気な顔をして、
「──ダメって何が?」
「……そういう察せないところ、死ぬほど嫌い」
後であれは冗談だったんだー、なんて言って笑っても信じて貰えないくらい本気の声色でぶつけた言葉。
それを受けた誠也は、教室の扉を開けてからヒラリ、と軽やかに振り返る。
「ははっ、言うと思った」
憂鬱さなど1つも無い、カラッと夏の青空のように晴れ渡った気持ちのいい笑顔が、教室内に佇む俺へと向けられて──、
「言うと思った」 ──じゃねえよ。
バンッッ!!!
ベッドに激しく叩きつけられた枕がバウンドし、テンテンと床に転がり落ちる。
その場で立ち尽くす俺は、自分で投げつけたそれを目だけで追い、動かなくなった後もしばらく眺め続けていた。
身体中が沸騰しそうな程の怒りが収まらない。
何で、よりにもよって小崎なんだよ。どうせお前は誰だっていいんだろ。隣に居るのが小崎でも、小崎じゃなくても、同じようにへらへらしていられるんだろ。
ああ、クソ。クソ、クソ、クソッ、……腹が立つ。
誠也は救いようのないアホでクズだが、そのくせ周りの人間に好かれる愛嬌だけは人一倍ある。複数人居るセフレの件も公言しているように、恥の概念が無いのか何なのか、アイツには基本的に隠し事は無い。つまり弱みと言えるものもほぼ無いのだ。人望が厚いから、下手に手を出すと俺の方が不利益を被りかねないし。学内でも1、2を争う程目障りかつ厄介な相手だと言える。
そのため、今日の放課後には無難な交換条件で済ませようと思っていたのだが、まさかの不発。下半身バカなので、女の話で釣るのが最適解だと踏んだが、読み違えてしまった。というか、アイツの小崎に対する優先度合いを甘く見積もりすぎていた。
『コイちゃんと遊ぶのに忙しいんだよ。今はそっちが楽しいから──』
何で小崎なんだ。
小崎も、何で、誠也なんかを…。
…小崎は、もう俺の事が好きじゃなくなった?
一瞬そんな考えがよぎって、すぐさま いや、そんなはずはない、と両手で顔を覆う。
そんなはずない。小崎が好きなのは俺だ。
誰よりも何よりも、小崎は俺が好きなはずなんだ。
──誠也を遠ざけるより、俺が小崎の傍に戻って誠也の付け入る隙を与えないのが現時点で一番効果が見込める方法。そのためには兎にも角にも俺が小崎に避けられるようになった原因を把握して、…何とか、しないと。
そんなことを考えて、以前よりもずっと小崎の一挙一動に神経を割くようになった俺は、
ある日、到底聞き逃せない単語を小崎の口から聞くことになる。
「……俺の家、…来る?」
今なんて?
家に?
誠也を??
何考えてるの小崎?俺だってまだ招待してもらったことが無いのに。つい最近ちょっと話す回数が増えた程度のそいつを誘うのは何で??
手に持ったペンから、ギシッと変な音がする。
──もう我慢出来ない。いや、我慢なんて、最初からするべきじゃなかった。
俺は、引きつる頬を一生懸命自然に見えるように上げて、気付いたら話に割り込んでいた。
「なんの話?」
初めて招かれた小崎の家では、浮かれることなく真面目に勉強することを第一に考えた。行動を起こすのは誠也を帰して2人きりになってからだと、最初から決めていたから。
途中、こっそりと自分の教科書を小崎のそれに紛れさせるだけで準備は整った。
後は簡単だ。一旦小崎に見送られた後、忘れ物をしたと言って1人だけで小崎の家へ戻り、それっぽい理由をつけて再び私室へ入る。面白いほどスムーズに進んだそれに喜ぶと同時、天もようやく俺の味方になる気になったのか、小崎の両親の帰りが遅いという願ったり叶ったりな情報を伝えられて、心の中でガッツポーズする。
そうして俺は、『邪魔の入らない小崎の私室』という最高の空間で、部屋の主を押し倒した。
最初からこうすればよかった。何故小崎が俺を避けるのか、その原因が分からなければ避けている本人に聞くのが一番手っ取り早いし正確なのだ。…まぁ、それはそうなのだが、中々実践されることはないだろう手段なのは分かる。
小崎は俺の下で、目を白黒させて酷く混乱していた。可愛いなあ…。っていうか、こんなに近づいたの久しぶりかも。最近はずっと小崎のことを考えてたけど、実際に話したりとかは出来てないままだったから。
そういうのは今までの俺の人生には無かったことで、ちょっと大変だけど刺激的で悪くない。2度目があると言われたら勿論遠慮したいが。
早速俺を避けている理由を聞こうと思い、最初は少し威圧感が出る様に真顔で問い詰めたけど、小崎が怯えている風なのを見て即方針転換。多分小崎にはグイグイと圧をかけて無理矢理情報を吐き出させるより、弱った姿を見せて自分から言わせる方が早そうだな。そう判断した俺は、「じゃ、泣き落とすか」と、俳優顔負けの嘘泣きを小崎に馬乗りになりながら恥ずかしげもなく披露した。
小崎が驚くほど思い通りに慌ててくれて可愛い。でもちょっとチョロすぎるよ?騙されないように気をつけなきゃ。まあそんな相手そもそも今後近づけさせないけどね。
それで、どんな理由が飛び出してくるのかと頬を濡らしながら待っていたら、
「…前、放課後に、俺のこと可哀想だって言ってただろ。 …陰キャだって言って、仲間内で笑ってたの、偶然、聞いたんだ。
──俺はそれ全部知ってるから…。 だからもう、本当に、無理して構ってくれなくていい。 優しく、してくれなくていい。
そんなことしなくても、…瀬川は、とっくにいい奴だよ」
ああ、なんだ。
──原因は、俺か。
それが分かった瞬間、ゾクゾクと、得も言われぬ感覚が身体中を走り抜けた気がした。
堪えきれず、高揚からくる笑いが漏れ出る。興奮で思ったことがそのまま口から出るのが止められない。これじゃあさんざん馬鹿にした理性のない誠也と同じじゃないか、なんて頭の隅の冷静な部分で思ったが、その考えは即座に切り捨てられた。こんなに嬉しい時にあのヤリチンのことを考えるなんてしたくない。今は小崎だけに集中していたかった。
だって、歓喜せずにはいられない。小崎は、最初から最後まで俺の事を基準にして動いていたのだ。俺の事しか考えていなかった。俺の事だけを意識していた。
俺の発言を聞いて漸く思い至ったのか、小崎は「俺のことが好きなのか」 とやけにあっさり問う。しかしそれは意図しないものだったようで、小崎はすぐ後に一瞬で顔を蒼白にさせ、怯えたようにこちらを見つめた。
そんな小崎を安心させるように笑って、俺は彼の質問に肯定を返す。
「うん好きだよ。 大好き」
小崎はすぐに首まで真っ赤に染め上げて、心臓なんか明らかに早く動き出して。俺の事を好きだって、全身で教えてくれている。
俺の気持ち、知れてよかったね。両想いで嬉しいでしょ?まあ今更隠すもの無理があるけどね。
歓喜、驚愕、怒りと悔しさ、…嫌い?それでもいいよ。いや、むしろそれがいい。小崎の感情全部、全部、受け取るのは俺でありたい。
この数週間、俺も小崎のことで沢山悩んだんだから、その分小崎も全身全霊で、四六時中、休む暇もないくらい俺のことだけを考えてよ。他の誰かになんか、一時も思考を割いてやらないで。
──言わなくても、小崎はどうせ俺のことしか考えてないんだろうけど。
小崎ってば、
俺の事、大好きだなあ。
ふふん♪と上向く機嫌のままに、俺は目の前の唇に吸い付いた。
くっついて離れるだけの短いそれは、俺の胸を多福感で満杯にする。なんだそれ。秒で世界一幸せになれるなんて、コスパ最強どころの話じゃない。
熱っぽい視線で俺の唇を追う小崎に、「同じ気持ちだったらいいな」なんて恋する乙女のような事を考えて、俺は有り余る幸福に喉を震わせた。
『俺の事が大好きな小崎君』
放課後、俺は空き教室の一つに誠也を呼び出した。
「──うん。ちょっと」
事前に誠也のセフレ達に情報は得ていた。こいつは最近、美人で有名な2組の久木さんと(不健全な方の)オトモダチになりたくて仕方がないらしいのだが、今のところ連絡先を交換することすら断られているとのこと。反吐が出る程に爛れた青春だが、この際どうでもいいし、むしろ誠也のその女癖の悪さに今は感謝すべきかもしれない。
「突然なんだけどさ、2組の久木さんの連絡先教えてあげてもいいよ? それとは別に、もし誠也が望むなら直接良いように紹介してあげることも出来る。 …でもその代わり、」
「あー……、わりっ。 今はいいわ」
は???
「……久木さんだよ?」
「おー、でもちょっとそれどころじゃねーから、紹介されて相手できなくても可哀想じゃん?」
「それどころじゃないってどういう意味」
「コイちゃんと遊ぶのに忙しいんだよ。 今はそっちが楽しいから、久木ちゃんにはいつか自分でアピるわ」
「……こい、ちゃん…」
「知らね? 俺の隣の席のー、…本名なんだったかな。 コイ崎? とかそんな。 黒髪で陰キャの、」
「知ってるよ小崎でしょ」
誠也が余りにもふざけた名前で呼ぶから、つい食い気味に言ってしまった。
知らないわけないだろ。少なくともお前よりは確実に小崎について詳しい自信がある。
誠也はアホっぽく手を打って、
「あーそうそうそんな名前! まあコイちゃんの名前は出さなくていいけど、時間できたら絶対遊ぼうねって久木ちゃんに言っといてー」
一方的に伝言を押し付けてくる幼馴染に、どうしようもなくイラッとさせられて、申し訳程度に上げていた口角がヒクリと痙攣する。コイツの自分本位なところ、俺の怒りメーター着火剤オリンピック金メダルものだわ。クソムカつく。
「…そう言えば、最近小崎と仲が良いね。 何でいきなり? 特に接点とかないよね」
「…あ、あれだよ。 ……共通の趣味、みたいな」
「へえ。 それって何? 俺も知りたいな。 誠也と小崎の共通の趣味」
「…俺らの秘密だから無理」
人差し指を唇に当てて吐息の代わりに口笛を吹くと、誠也は少し居心地の悪そうな感じでそそくさと教室を後にしようとする。
扉に手をかけた誠也を、「待て」と、俺は声だけで制止して──、
「駄目だよ。
他の全部はよくても、小崎だけは駄目」
その表情に、もう笑みなど欠片も残っていなかった。
複数の感情がドロドロと重く混じった瞳を、睨むでもなく、ただただまっすぐに向けられた誠也は、それとはまるで空気間の異なる能天気な顔をして、
「──ダメって何が?」
「……そういう察せないところ、死ぬほど嫌い」
後であれは冗談だったんだー、なんて言って笑っても信じて貰えないくらい本気の声色でぶつけた言葉。
それを受けた誠也は、教室の扉を開けてからヒラリ、と軽やかに振り返る。
「ははっ、言うと思った」
憂鬱さなど1つも無い、カラッと夏の青空のように晴れ渡った気持ちのいい笑顔が、教室内に佇む俺へと向けられて──、
「言うと思った」 ──じゃねえよ。
バンッッ!!!
ベッドに激しく叩きつけられた枕がバウンドし、テンテンと床に転がり落ちる。
その場で立ち尽くす俺は、自分で投げつけたそれを目だけで追い、動かなくなった後もしばらく眺め続けていた。
身体中が沸騰しそうな程の怒りが収まらない。
何で、よりにもよって小崎なんだよ。どうせお前は誰だっていいんだろ。隣に居るのが小崎でも、小崎じゃなくても、同じようにへらへらしていられるんだろ。
ああ、クソ。クソ、クソ、クソッ、……腹が立つ。
誠也は救いようのないアホでクズだが、そのくせ周りの人間に好かれる愛嬌だけは人一倍ある。複数人居るセフレの件も公言しているように、恥の概念が無いのか何なのか、アイツには基本的に隠し事は無い。つまり弱みと言えるものもほぼ無いのだ。人望が厚いから、下手に手を出すと俺の方が不利益を被りかねないし。学内でも1、2を争う程目障りかつ厄介な相手だと言える。
そのため、今日の放課後には無難な交換条件で済ませようと思っていたのだが、まさかの不発。下半身バカなので、女の話で釣るのが最適解だと踏んだが、読み違えてしまった。というか、アイツの小崎に対する優先度合いを甘く見積もりすぎていた。
『コイちゃんと遊ぶのに忙しいんだよ。今はそっちが楽しいから──』
何で小崎なんだ。
小崎も、何で、誠也なんかを…。
…小崎は、もう俺の事が好きじゃなくなった?
一瞬そんな考えがよぎって、すぐさま いや、そんなはずはない、と両手で顔を覆う。
そんなはずない。小崎が好きなのは俺だ。
誰よりも何よりも、小崎は俺が好きなはずなんだ。
──誠也を遠ざけるより、俺が小崎の傍に戻って誠也の付け入る隙を与えないのが現時点で一番効果が見込める方法。そのためには兎にも角にも俺が小崎に避けられるようになった原因を把握して、…何とか、しないと。
そんなことを考えて、以前よりもずっと小崎の一挙一動に神経を割くようになった俺は、
ある日、到底聞き逃せない単語を小崎の口から聞くことになる。
「……俺の家、…来る?」
今なんて?
家に?
誠也を??
何考えてるの小崎?俺だってまだ招待してもらったことが無いのに。つい最近ちょっと話す回数が増えた程度のそいつを誘うのは何で??
手に持ったペンから、ギシッと変な音がする。
──もう我慢出来ない。いや、我慢なんて、最初からするべきじゃなかった。
俺は、引きつる頬を一生懸命自然に見えるように上げて、気付いたら話に割り込んでいた。
「なんの話?」
初めて招かれた小崎の家では、浮かれることなく真面目に勉強することを第一に考えた。行動を起こすのは誠也を帰して2人きりになってからだと、最初から決めていたから。
途中、こっそりと自分の教科書を小崎のそれに紛れさせるだけで準備は整った。
後は簡単だ。一旦小崎に見送られた後、忘れ物をしたと言って1人だけで小崎の家へ戻り、それっぽい理由をつけて再び私室へ入る。面白いほどスムーズに進んだそれに喜ぶと同時、天もようやく俺の味方になる気になったのか、小崎の両親の帰りが遅いという願ったり叶ったりな情報を伝えられて、心の中でガッツポーズする。
そうして俺は、『邪魔の入らない小崎の私室』という最高の空間で、部屋の主を押し倒した。
最初からこうすればよかった。何故小崎が俺を避けるのか、その原因が分からなければ避けている本人に聞くのが一番手っ取り早いし正確なのだ。…まぁ、それはそうなのだが、中々実践されることはないだろう手段なのは分かる。
小崎は俺の下で、目を白黒させて酷く混乱していた。可愛いなあ…。っていうか、こんなに近づいたの久しぶりかも。最近はずっと小崎のことを考えてたけど、実際に話したりとかは出来てないままだったから。
そういうのは今までの俺の人生には無かったことで、ちょっと大変だけど刺激的で悪くない。2度目があると言われたら勿論遠慮したいが。
早速俺を避けている理由を聞こうと思い、最初は少し威圧感が出る様に真顔で問い詰めたけど、小崎が怯えている風なのを見て即方針転換。多分小崎にはグイグイと圧をかけて無理矢理情報を吐き出させるより、弱った姿を見せて自分から言わせる方が早そうだな。そう判断した俺は、「じゃ、泣き落とすか」と、俳優顔負けの嘘泣きを小崎に馬乗りになりながら恥ずかしげもなく披露した。
小崎が驚くほど思い通りに慌ててくれて可愛い。でもちょっとチョロすぎるよ?騙されないように気をつけなきゃ。まあそんな相手そもそも今後近づけさせないけどね。
それで、どんな理由が飛び出してくるのかと頬を濡らしながら待っていたら、
「…前、放課後に、俺のこと可哀想だって言ってただろ。 …陰キャだって言って、仲間内で笑ってたの、偶然、聞いたんだ。
──俺はそれ全部知ってるから…。 だからもう、本当に、無理して構ってくれなくていい。 優しく、してくれなくていい。
そんなことしなくても、…瀬川は、とっくにいい奴だよ」
ああ、なんだ。
──原因は、俺か。
それが分かった瞬間、ゾクゾクと、得も言われぬ感覚が身体中を走り抜けた気がした。
堪えきれず、高揚からくる笑いが漏れ出る。興奮で思ったことがそのまま口から出るのが止められない。これじゃあさんざん馬鹿にした理性のない誠也と同じじゃないか、なんて頭の隅の冷静な部分で思ったが、その考えは即座に切り捨てられた。こんなに嬉しい時にあのヤリチンのことを考えるなんてしたくない。今は小崎だけに集中していたかった。
だって、歓喜せずにはいられない。小崎は、最初から最後まで俺の事を基準にして動いていたのだ。俺の事しか考えていなかった。俺の事だけを意識していた。
俺の発言を聞いて漸く思い至ったのか、小崎は「俺のことが好きなのか」 とやけにあっさり問う。しかしそれは意図しないものだったようで、小崎はすぐ後に一瞬で顔を蒼白にさせ、怯えたようにこちらを見つめた。
そんな小崎を安心させるように笑って、俺は彼の質問に肯定を返す。
「うん好きだよ。 大好き」
小崎はすぐに首まで真っ赤に染め上げて、心臓なんか明らかに早く動き出して。俺の事を好きだって、全身で教えてくれている。
俺の気持ち、知れてよかったね。両想いで嬉しいでしょ?まあ今更隠すもの無理があるけどね。
歓喜、驚愕、怒りと悔しさ、…嫌い?それでもいいよ。いや、むしろそれがいい。小崎の感情全部、全部、受け取るのは俺でありたい。
この数週間、俺も小崎のことで沢山悩んだんだから、その分小崎も全身全霊で、四六時中、休む暇もないくらい俺のことだけを考えてよ。他の誰かになんか、一時も思考を割いてやらないで。
──言わなくても、小崎はどうせ俺のことしか考えてないんだろうけど。
小崎ってば、
俺の事、大好きだなあ。
ふふん♪と上向く機嫌のままに、俺は目の前の唇に吸い付いた。
くっついて離れるだけの短いそれは、俺の胸を多福感で満杯にする。なんだそれ。秒で世界一幸せになれるなんて、コスパ最強どころの話じゃない。
熱っぽい視線で俺の唇を追う小崎に、「同じ気持ちだったらいいな」なんて恋する乙女のような事を考えて、俺は有り余る幸福に喉を震わせた。
『俺の事が大好きな小崎君』
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