俺の事が大好きな○○君

椿

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授業で急に「はーい、二人組になってー」とか言われるやつ。あれ、いらないと思う。

化学実験の授業で今正に教師からその言葉を言われ、俺はチベットスナギツネにも劣らない程据わった目つきをしていた。

いやわかる。二人組になるのは別にいい。でもその組み合わせを生徒に任せる行為に俺は異議を申し立てたい。そっちで決めてくれよ。職務怠慢なんじゃないのか?出席番号順とかでいいんだよこんなのは。自主性とかをこんなとこで育てようとしないでくれ。もっと別のとこで育つから俺の自主性は!!

ぞくぞくと周囲でペアが決まっていく状況に、俺はどうすればいいのか分からず立ち尽くすばかり。
──こういう時も、前は瀬川が「一緒にやろう」と誘ってくれて、俺はそれに甘えていた。
何も考えずに、好きな人とペアになれることを馬鹿みたいに単純に喜んでいた。

思い出して、しかしそれをかき消すように俺はブルブルと激しく首を振る。
あれだ。余りが出るのを待とう。後はもし相手がいなくて先生と組むことになってもそれはそれでいい。ちょっと怖いけど、色々教えてくれるはずだし。ワイワイと賑やかな周りをあまり意識しないようにして心を落ち着けていると、

前の席の瀬川が、随分と久しぶりにこちらを振り向く。
パチリ。視線が、ぶつかった。

ドキッと無意識に心臓が跳ねて、自分で自分に「(ドキッ、じゃねー!)」と怒りのツッコミを入れて俺は平静を保つ。
瀬川は敵。瀬川は敵…。

「小崎、一緒に組まない?」

「えっ、」

まさかのペアのお誘いだった。
瀬川が俺にそう言ったことで、瀬川と組むのを狙っていたのであろう女子達が「「えー!?」」と一斉に不満の声を出す。いや、女子だけじゃなかった。そこには男の声も混じっていたから。そしてその中の1人が、「ほんと優しいよね、瀬川って」と少し呆れた風に、そしてなぜか誇らしげに呟いた。
瀬川はそれに対して、「そんなこと無いよ?」と謙遜したように控えめにはにかむ。

俺は、目の前で交わされたその一連の会話に、
──強い苛立ちを覚えた。

「……ぃ」
「ん?」

「も、もう、俺に無理して構ってくれなくて、いっ、いいからっ…」

「は?何あいつ、やば」だとか、「せっかく睦月が、」だとか、明らかに好意的ではない言葉が騒めきと共に俺の耳に届く。
俺はそれ以上何も言えなくて、ただぎゅうっと拳を強く握りながら俯き、時が過ぎるのを待った。早くお前らはお前らでペアを作れと、そればかり祈っていた。

言って、しまった。瀬川本人に。
言ってやった。瀬川に、本心を!
もしかしたら今後、瀬川や瀬川の友人ら(を称する信者達)から叩かれる可能性もあるけど、それでもいい。
嫌われているとわかっているのに、お情けで優しくされるのは、
そしてそれに「少しでも好かれているんじゃないのか」と勘違いしてしまいそうになる浅ましい自分を直視させられるのは、酷く惨めで苦しいとわかった。わかって、そして、腹が立った。まだ瀬川に期待しようとする、縋ろうとする自分自身に。


「こさ、」

瀬川が何か言いかけて、しかし次の瞬間、首あたりにガッと力強い衝撃が走って意識がそちらに向く。

「あーもーお前ら知らねーかんな! 俺こいつと組む!!」
「!?」

馴れ馴れしく肩を組んできたのは、プリン頭の樫谷だ。相変わらず喧しくペア決めをしていた隣席のグループから飛び出して、どういう話の流れか不明だが、俺は巻き込まれてしまったらしい。
目を白黒させたまま俺はグイッと引き寄せられて、樫谷によって捕獲された獲物か何かみたいに彼の友人達へと見せつけられる。何なんだ??展開が謎過ぎるんだけど??


「どうせお前陰キャだから組む奴いねえだろ? よろしくー、えーっと、…コイちゃん?」
「は…?」

唐突に失礼なことを言われ、そして名前すらもまともに呼ばれないという侮辱に脳が処理を拒み、俺はただ唖然と樫谷を見る。樫谷の友人らは、「お前課題全部やらせる気だろ!? ずりーぞ!」「えー誠也私と組むって言ってたじゃんー!」などと好き勝手言ってまた更に騒ぎ出した。騒いでないと死ぬの?

いやちょっと待って。情報を整理したい。
瀬川とは組まなくてよくなったけど、代わりに俺、最低な奴と組むことになったってこと?
それって結局、………いや、もうここでどちらがより最悪だったかを考えるのはやめよう。
泥仕合になる。

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