俺の事が大好きな○○君

椿

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「小崎? ああ…。
──だって、独りぼっちの陰キャとか、 可哀想でしょ」

その一言で、俺の儚い恋は、木っ端微塵に砕け散ったのだった。




小崎とは──小崎こさき順平じゅんぺいとは、まごうこと無き俺の名前だ。
そして、この高校にまともな友人1人すら居ない、言い表された通り独りぼっちで根暗な陰キャである。
反して、俺の事をそのように形容した人物、瀬川せがわ睦月むつきは、明るく温和な性格で、優等生然としているが決してまじめすぎることは無く男子高校生らしいバカ騒ぎも出来るような、どんなタイプの人からも好かれる類いの陽の人間。

俺が思いを寄せていた人でもあった。

日光を浴びると明るく透ける直毛と、整った容姿、とっつきやすい人柄で、入学当初から瀬川はいい意味で目立っていた。クラスが同じだった俺は、最初そんな彼を羨み僻んだ見方しか出来ていなかったのだが、そんな感情は実際に瀬川と接して即塵となって消えた。手の平返しが鮮やかとはきっとこのことを言うのだろう。でも、こんな俺なんかにも優しく話しかけてくれて、構ってくれて、小崎おれと話すのが楽しいって笑いかけてくれて、
そんな瀬川を嫌いになる方が無理だった。
嘲るように俺を見る他の奴らとは全然違う。特別な人だったんだ。

だから──、


ある日の放課後、帰宅途中に忘れ物をしたことに気付いた俺は、仕方なしに教室へと引き返すことに決めた。その忘れ物というのは、普段学校の机の中に置き去りにしている教科書で、課題に必要ということをすっかり忘れてしまっていたのだ。よりによって数学…。俺の最も苦手とする教科でありながら、我が校では神経質そうな先生が怖すぎる事で有名なあの科目。教科書を持ち帰った程度で正解の数が増えるとは思えないが、まあやる気を見せておくことは重要である。なんたって俺のテストの点は救いようがないくらい絶望的なので、そういうところで媚びを売っておくことが必要なのだ。売れているのかは定かではないが。
しかし、そんなことを考えながら戻った教室は無人ではなかった。
キャラキャラと不必要なくらいの大声で笑い声をあげる男女が、それぞれ適当な席に座って何やら話しているのを目に留めて、俺は咄嗟に扉の陰に隠れる。

えええ、何でこんなとこで集まってんだよ!陽キャは陽キャらしくカラオケとか行っとけよーー!!

運の悪いことに、俺の席があるのは教室の中心付近。行けばどうあがいても注目は免れない。それこそどこか別のところで爆発でも起きない限り。
サッと入ってサッと出て行けばいいのだが、一瞬でもシーンとなって陽キャ共の視線が突き刺さるだろう教室は、俺の精神の負荷を尋常じゃなく増幅させることになるので非常に避けたいものだった。

うう、覚悟を決めるのに時間がかかる…。誰も居なかったらこんな事で悩まなくて良かったのに!……というかそもそも俺が教科書を持って帰ればよかったって話か…。ああもうー!!

と、その時。
陽キャ達の会話の声の中に、瀬川の心地よい美声が混じっていることに気付く。
聞き間違えるはずもない。瀬川の声は、それこそ入学当初からこれでもかというくらい意識して聞いていた声だ。

「(! 瀬川も、居るんだ…)」


だから──、
そのまま帰らなかったのだ。
あわよくば、友人たちとの会話で彼のプライベートを覗き見たいなんて、そんな邪な欲があった。

中からはこちらが見えないのを良い事に、教室の扉に背を預けて、俺は息を潜める。

今になってみれば、なぜあんなことをしてしまったのかと、後悔の念しか湧かないが。


『小崎? ああ…。──だって、独りぼっちの陰キャとか、可哀想でしょ』

どういう話の流れだったかはもう忘れてしまったが、急に俺の名前が出て来たかと思えば、瀬川の嘲笑混じりのこの台詞。直後、俺の頭は真っ白になってそのまま全力で家まで走った。数学の先生から叱られることなど、もう俺の頭には存在していなかった。瀬川の言った言葉だけが、何度も耳元で繰り返されるように脳内を延々と回り続けていたのだ。

…本当は、俺の事をあんな風に思っていたなんて。
正直物凄くショックだった。瀬川は、あの誰にでも平等で優しい瀬川だけは、他の奴らみたいに俺を悪く言わないと信じていたのに。
裏切られた気分になって、悔しくてしょうがなくて、俺は一晩中さめざめと涙で枕を濡らした。そして涙が出切ったその後、湧き上がるのは怒りだった。

くそ…、結局瀬川も俺の事を貶すような奴だった!!聖人君子な自分を演出するために、『ボッチで陰キャでいかにも可哀想』な俺に優しくしてただけなんだ!!騙された!!
やっぱりこの世にはろくな人間が居ないんだ!もう誰も信じないからな…。瀬川とも二度と話すもんか!!
あんな猫被り野郎、こっちから願い下げだ!!

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