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黒猫と白猫の国
第四話
しおりを挟む昨日の猛吹雪がウソのように、
今日は朝からいい天気だった。
太陽が顔を出し、
積もった雪もゆっくり溶け出している。
全てが元の状態に戻っていく中、
一カ所だけ、
いつもと様子が違う場所があった。
黒猫国と白猫国、
二つの国を分け隔てている大きな川。
冬でも凍ることのなかった川の水が、
今はパリンパリンの氷漬け。
川面にぽかぽか日の光が
当たり続けているというのに、
氷が溶ける気配がまったくない。
川の上を歩いても、
分厚い氷は割れることなく、
まるで地面のよう。
おかげでレンガの橋を渡ることなく、
二つの国を行き交うことが
出来るようになった。
橋の真ん中にある小さなお城が、
所在なさげに頼りなく、
さらに小さく見えていた。
メラミは、お城の自分の部屋に戻ると、
荷物の整理を始めた。
朝起きたとき、
隣にいたトラばあちゃんがいないことを
寂しく思ったが、
旅に出たことはわかっている。
それなら、私も旅に出掛けよう、
と思いついたのだ。
旅の途中できっとまた、
トラばあちゃんに会えるかもしれない。
何を持って行こうかにゃあ、
と考えてみたけれど、
トラばあちゃんからもらった、
『旅日記』さえあれば、他に大事なものは
特に思い浮かばなかった。
しばらくして、
メラミが戻ってきたことに気付いた
パパとママが部屋に入って来たが、
いつものように、
それぞれ勝手なことを言い出した。
顔以外は全部黒いのだから
黒猫国で剣士になれとか、
天気を操れるのだから
白の魔女として白猫国を継ぎなさいとか、
ぎゃあーぎゃあーと
言い争いのケンカが始まり、しまいには、
「メラミはオレの子だぞ!」
「私の子ですわっ!」
と言うものだから、
ついにメラミは大声を上げた。
「メラミは、メラミのものにゃ!」
「メラミ?」
メラミから出た、初めてのくちごたえに、
二人は驚いて顔を見合わせる。
「メラミは、
パパとママのオモチャじゃないのにゃ!」
メラミは、
パパとママに仲良くして欲しかった。
メラミは、黒と白、
二つの国にも仲良くして欲しかった。
そして、その役目は、
自分が果たすものと考えていた。
自分が何とかしなくては、
と考えていたのだ。
でもそれは、
どうでもいいことだと気がついた。
パパとママがケンカをするのも、
黒と白、二つの国が言い争うのも、
好きなようにすればいいことなのだ。
それでも、パパとママは、
「メラミに黒と白、
どちらかの国を継いでもらわないと」
「パパは、困るんだ」
「ママは、困るのよ」
二人同時にぼやいたのだった。
けれど、メラミの心は、
今日の天気のように晴れやかだ。
何も迷うことなく、
あっさりこう言い返した。
「どうでもいいにゃ」
さらに続けて、
「パパとママが、メラミのことを
気にかけないのとおんなじで、
メラミも、パパとママがケンカしようが、
どうしようが、
気にしないことにしたのにゃ」
二人は、これまでにない
メラミのはっきりとした物の言い方に、
しばらくぼう然としていたが、
メラミが部屋を出て行こうとしたので、
「どこに行くの?」
と尋ねると…。
「どこに行こうかにゃあ」
メラミは、にっこりほほえみほうきに乗る。
そして、来たときと同じように窓を開けて、
そのまま空高く飛んで行った。
~黒猫と白猫の国~ 完
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