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 以前、クリスティーヌがお父様に提案した、道に祠を設置すること。その事業は国の認可も降りて実現してるのよね。きっと、女神の加護以外に何か意味があるはず。建立されたののは街道。ミレーさまと馬車で訪れると、周囲は人気もなく閑散としている。

「ここですかアミシアさま? 僕は空間の魔力濃度を測定魔法で測りますね」
「お願いしますね」
「アミシア。ここって以前クリスティーヌさまが設置を命じたという場所ですか?」

 侍女コラリーが女神をかたどった像を訝しく思って見つめる。

「ええ。街道沿いよ。あなたも不思議に思うでしょ。クリスティーヌは女神さまのこと、女神だと思って尊敬しているかも怪しいわ。魔物召喚の小道具にしたっておかしくないと思うの」と、私はミレーさまに聞こえないように小声で話す。侍女フルールも祠に接近したとたん、私の元に引き返してきた。

「ただならぬ何かがありますね。気のせいでしょうか。気温があそこだけ違います。ミレーさまはあんなに近づいて大丈夫なんでしょうか」

 魔力濃度が高いと気温が上昇するはず。

「ミレーさま、熱くないですか?」

「え? 言われてみれば」

「女神像には触れないようにして下さいね。念のため聖水を一振りかけてもらってもいいでしょうか?」

「確かに暑くなってきましたね。魔力濃度が高そうだ。だけど、聖水ですか。一応魔物退治で使うこともありますけど、それをどうして女神像に?」

 ミレーさまは信じられないと言う顔をする。そりゃそうでしょうね。女神さまの像が穢れているなんて誰が想像するっていうの。

 しぶしぶとミレーが懐から常備している聖水を取り出し、さっと一振りする。すると一瞬にして聖水は女神像から弾かれるようにして蒸発した。

「これはどういうことでしょう。まさか女神像が穢れているのか? あり得ない」

 きっと、これでもクリスティーヌが犯人だとは信じないでしょうから、浄化だけでもやってもらおう。

「この祠は各地に点在しています。ミレーさまもご存じですよね。クリスティーヌが計画しました。祠を国家結界師の巡回ポイントに加えていただけませんか? 妹がせっかく建立した祠が穢されて、心苦しいの」

 すると、コラリーが目に涙まで浮かべた演技をする。

「アミシア、なんて美しい心の持ち主なの!」

「ああ、アミシアさまの考えはいつも抜きん出ている。素晴らしいですね。しかし、どうして女神の像が。ここが魔物の出現ポイントだとすると、魔物は女神を恐れていないということですね」と、ミレーさまは驚愕する。

「そうでしょうね。でなければ、王宮という神聖な場所を襲わないと思いますよ」

「アミシアさまは、ここだとはじめから目星をつけておられたんですか?」

「なんとなく勘です」

 少しはぐらかした。どうせ信じてくれないでしょうから。

「クリスティーヌが設置の案を出したことは僕も知っていますよ。彼女は人を驚かせるのが好きですからね。だけど、彼女は一度も僕といっしょにいるときに女神像に祈らないのです。ずっと変だと感じていました」

 ミレーさまが少し気まずそう。

「いや、こんなこと言ったらいけないですよね。聖女が敬虔な信者ではないと告げ口しているようなものです。お恥ずかしい」

「いいんですよ。ミレーさま。クリスティーヌもきっと忙しいんですよ」

 魔物を侵入させるのに忙しくて女神なんて崇拝してられないわよね。でも、この鈍いミレーさまが感づくぐらいだから相当ね。

「そういえば、ミレーさまは最近クリスティーヌと一緒によく出掛けていると聞きますが」

「そうですね。挙式の日程は延期したんですけどねえ。でも、リュカ王子と三人での日帰り旅行みたいなものが多いですよ。国中の隅々まで見て回っています。そ、それにお恥ずかしいですが、今夜も逢瀬を」

「まあ、ミレーさまったら。正直なこと。でも、楽しんで下さいね」

「いやだなアミシアさま。夜のデートですけれど、彼女はまだ未成年。僕は夜遅くなりすぎないよう送り返しますよ。でないと、伯爵にどやされますから」

 確かに、あの優しいお父さまでも夜遊びにはうるさいからね。どんな様子でクリスティーヌが出かけるのか見張った方がよさそうね。

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