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「何故泣いている。俺を失望させるな。君が泣いていいのは俺との挙式のときだ」
へ?
リュカ王子さま。今、何て?
「リュカ王子! こちらへ!」
近衛兵がたくさん集まってきた。
「俺のことはいい! 魔物討伐が優先だ。招待客の誰一人として傷つけさせるな!]
そ、そうね。私も泣いている場合じゃないわ。リュカ王子の挙式の話は、きっと聞き間違いよね。うん。そうよ。こんな緊急時にそんな呑気な話をするほど、リュカ王子は馬鹿じゃないもの。
「アミシア。君もさっきみたいに魔法で戦うのはやめてくれないか。俺と結婚するまでに怪我の一つでもしたら大変だ」
「え? えええ? ちょっとリュカ王子。冗談が過ぎますよ」
あはは、駄目ねこの人。呑気だったわ。その日の気分で結婚を考えられてもねぇ。
とにかく、王子と共に屋内に戻る。同行した近衛兵が「舞踏会会場が一番被害を受けています」と報告する。やっぱり。クリスティーヌ、許さないんだから!
大広間へと続く階段で前から駆け降りてくる貴族たちとぶつかる。まだ避難できていない。逃げ惑って、階段の手すりから飛び降りる人もいた。雪崩降りてくる貴族に逆らうように階段を突き進む王子。「王子! 一人では危険です!」と近衛兵の制止も聞かずに。
私もやっとの思いで階段を登り切った。近衛兵の人と同時に舞踏会会場にたどり着く。
食器もテーブル席もめちゃくちゃに壊れて散乱している。私が使ったピアノや見捨てられた弦楽器の数々もへし折れたり、穴が空いたりしている。足元には血しぶきの痕。だけど、入ってすぐに耳に聞こえてきたのはリュカ王子と騎士ミレーの愉快気な笑い声。鳥肌が立った。部屋の中心には成敗された魔物。すぐ傍に白銀の剣を持ったクリスティーヌが佇んでいる。
「では、結界も張っておきますね、リュカ王子さま」
「君がいて助かったよ! クリスティーヌ。怪我人はもういないか? 全て治療し終わったな」
リュカ王子の上機嫌な声にミレーの笑い声が重なる。
「僕の出番は丸きりなかったですね。クリスティーヌさまが、お一人で魔物を倒されるとは。恐れ多い。さすが聖女さま!」
「あら、お姉さま。心配して来て下さったの?」
……違う。彼女は魔物を倒してなんかいない。魔物を侵入させたのよ! 私は震えて立ち尽くすことしかできない。
「やっと来たかいアミシア。君の妹のことをさすがに見直したよ。いや、失礼。まさか剣術の嗜みもあるとは思わなくて。聖女クリスティーヌ。歌なんかやめて騎士にならないか?」
「おおリュカ王子。いいですね。僕も思いましたよ。女騎士団を結成させるのはどうでしょう?」
「そこまでは言ってない」
リュカ王子とミレーのやりとりは、どこまでもお気楽なものだった。完全にクリスティーヌの策略に二人ははまっている。
「まあ、冗談はさておき。聖女クリスティーヌ。もう一仕事頼みたい。逃げ帰った貴族たちの中にも怪我人がいるだろう。手当てして欲しい。それからミレー、使いの準備を進めてくれ。怪我人は無償で手当てを受けられる旨を伝えたい]
騎士ミレーはすぐに行動に移った。しかし、クリスティーヌはリュカ王子に取り入ろうとする。
「リュカ王子さまもお怪我を。治します!」
「駄目!」と、私は怯えてつい口が滑ってしまった。
「アミシアどうしたんだい?」
「お姉さま。王子は血を流しているじゃありませんかっ!」
そう言ってリュカ王子の腕に手を触れる。あっという間。その時間僅か数秒で王子の腕の傷は傷痕すら残さず完治した。クリスティーヌの回復魔法が上達してる。
「早いな。流石だ。君も来賓たちのところへ行って怪我人を探してくれ」
クリスティーヌが去り際に、天上の人のように最大級の人を包み込む優しい微笑を見せた。
何よ、それ。駄目よリュカ王子。みんな……私以外みんな、騙されてる。騙されてるのよ!
へ?
リュカ王子さま。今、何て?
「リュカ王子! こちらへ!」
近衛兵がたくさん集まってきた。
「俺のことはいい! 魔物討伐が優先だ。招待客の誰一人として傷つけさせるな!]
そ、そうね。私も泣いている場合じゃないわ。リュカ王子の挙式の話は、きっと聞き間違いよね。うん。そうよ。こんな緊急時にそんな呑気な話をするほど、リュカ王子は馬鹿じゃないもの。
「アミシア。君もさっきみたいに魔法で戦うのはやめてくれないか。俺と結婚するまでに怪我の一つでもしたら大変だ」
「え? えええ? ちょっとリュカ王子。冗談が過ぎますよ」
あはは、駄目ねこの人。呑気だったわ。その日の気分で結婚を考えられてもねぇ。
とにかく、王子と共に屋内に戻る。同行した近衛兵が「舞踏会会場が一番被害を受けています」と報告する。やっぱり。クリスティーヌ、許さないんだから!
大広間へと続く階段で前から駆け降りてくる貴族たちとぶつかる。まだ避難できていない。逃げ惑って、階段の手すりから飛び降りる人もいた。雪崩降りてくる貴族に逆らうように階段を突き進む王子。「王子! 一人では危険です!」と近衛兵の制止も聞かずに。
私もやっとの思いで階段を登り切った。近衛兵の人と同時に舞踏会会場にたどり着く。
食器もテーブル席もめちゃくちゃに壊れて散乱している。私が使ったピアノや見捨てられた弦楽器の数々もへし折れたり、穴が空いたりしている。足元には血しぶきの痕。だけど、入ってすぐに耳に聞こえてきたのはリュカ王子と騎士ミレーの愉快気な笑い声。鳥肌が立った。部屋の中心には成敗された魔物。すぐ傍に白銀の剣を持ったクリスティーヌが佇んでいる。
「では、結界も張っておきますね、リュカ王子さま」
「君がいて助かったよ! クリスティーヌ。怪我人はもういないか? 全て治療し終わったな」
リュカ王子の上機嫌な声にミレーの笑い声が重なる。
「僕の出番は丸きりなかったですね。クリスティーヌさまが、お一人で魔物を倒されるとは。恐れ多い。さすが聖女さま!」
「あら、お姉さま。心配して来て下さったの?」
……違う。彼女は魔物を倒してなんかいない。魔物を侵入させたのよ! 私は震えて立ち尽くすことしかできない。
「やっと来たかいアミシア。君の妹のことをさすがに見直したよ。いや、失礼。まさか剣術の嗜みもあるとは思わなくて。聖女クリスティーヌ。歌なんかやめて騎士にならないか?」
「おおリュカ王子。いいですね。僕も思いましたよ。女騎士団を結成させるのはどうでしょう?」
「そこまでは言ってない」
リュカ王子とミレーのやりとりは、どこまでもお気楽なものだった。完全にクリスティーヌの策略に二人ははまっている。
「まあ、冗談はさておき。聖女クリスティーヌ。もう一仕事頼みたい。逃げ帰った貴族たちの中にも怪我人がいるだろう。手当てして欲しい。それからミレー、使いの準備を進めてくれ。怪我人は無償で手当てを受けられる旨を伝えたい]
騎士ミレーはすぐに行動に移った。しかし、クリスティーヌはリュカ王子に取り入ろうとする。
「リュカ王子さまもお怪我を。治します!」
「駄目!」と、私は怯えてつい口が滑ってしまった。
「アミシアどうしたんだい?」
「お姉さま。王子は血を流しているじゃありませんかっ!」
そう言ってリュカ王子の腕に手を触れる。あっという間。その時間僅か数秒で王子の腕の傷は傷痕すら残さず完治した。クリスティーヌの回復魔法が上達してる。
「早いな。流石だ。君も来賓たちのところへ行って怪我人を探してくれ」
クリスティーヌが去り際に、天上の人のように最大級の人を包み込む優しい微笑を見せた。
何よ、それ。駄目よリュカ王子。みんな……私以外みんな、騙されてる。騙されてるのよ!
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