【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

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第3章

76話 微かな希望

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動画を開くとそこにはクリスが映っていた。
どうして!?俺のセーブデータにしかいないはずなのに…別人なのだろうか?
でも一緒に映っている人物はキーレンに教皇猊下だ。クリスの両脇に神妙な顔をして立っている。
なんで…?俺はこんな動画とった覚えない…。

混乱する俺を尻目に動画は続く。
誰かが「どうぞ。喋ってください。」と言っていたが、それもなんだか聞いたことがあるような気がする。

『俺はファーレン王国のクリスという。』
『私は第2王子のキール』
『私は統一教教皇のマルヴィンと申します。』

3人の自己紹介ではっきりと確信した。絶対俺のクリスじゃん!なんで?
画面でキーレンの顔がアップになる。正真正銘の王子であるキーレンの顔はドアップにすると余計にその容姿端麗さが際立つ。美しい彫像がしゃべっているようにも見える。

『これを見ている皆様にどうかお願いがあります。私たちでは解決できない問題がこの世界に発生しています。大地は割れ、水は乾き、風も止みました。このままでは私たちの世界は崩壊する一途を辿るでしょう。』

彼の話の後映像が切り替わり、おどろおどろしい音楽をバックミュージックに殺伐とした世界の様子が映し出されている。まさしくあの惨状は俺も創造者モードで確認した通りのものだ。
この動画を作成したのは…もう一人しか考えられない。でも、こんなことができるのだろうか?
ゲームの中の人物が動画を作成して、リアルに勝手に投稿するなんてこと可能なのか?

画面はまた3人の映像に戻る。今度は厳かな装飾で飾られた僧衣を纏った教皇が話し始めた。
切実な思いが3人の様子からありありと伝わってくる。

『この世界を作った神もまたこの惨状を乗り越えるべく、すでにみなさんに訴えかけている、と聞き及んでおります。どうか。お願いです。我らが神の想いに応え助けていただきますよう皆様のお力をお貸しください。』

彼らは俺のために自ら訴えかけてくれているのだ。いや、自分たちの世界のことだからかもしれない。でもこの援護射撃は俺の胸を熱くさせた。
最後にクリスが話を締める。クリスのアップが表示されて、涙が出そうになる。いますぐ会いたいよ…クリス。

『事態はそれだけでなく、今や暴走した帝国が世界侵略を目論み進出しようとしている。これに対抗するために俺たちは最後まで戦う。どうか神々よ。我らが神が創ったこの世界をお救いください。…○○○。』

最後の3文字はなんて言っているのか聞き取れなかったが、きっと口の動きからして「タケル」って呼んでキレたんだと思う。俺は涙で画面が見えなくなったが、最後まで見なくてはいけないので涙を急いでふく。
3人の姿が消え、悲しげな音楽とともに黒画面にテロップだけが表示された。

『この世界は原因不明のバグにより間も無く消滅してしまいます。どうか皆さんの声を運営に届けてください。』

動画事態は3分もない短いものだったが、胸が締め付けられる思いがした。
この動画はすでに再生回数が100万回を超えていることにびっくりする。




俺は一旦SNSを閉じた後、VRを装着して「 To Be the God」にログインする。
創造者モードでナビーを呼ぶと、彼女はすぐに現れた。
彼女はいつものビジネススーツにメガネをつけて、なおかつ妖精のような羽がある。いつもながらのシュールだな…と思いつつ、彼女に質問した。

「ナビー。もしかして…動画出したの君?」
「タケル様の許可なく、No.32ファイル内の人物を表示させてしまい申し訳ありません。」

俺が彼女を非難すると思ったであろうナビーは頭を下げる。
俺は慌てて彼女に頭をあげるようお願いした。

「いいよ、いいよ。本当にびっくりしたけど、反響は大きそうだったから。もしかしたら流れが変わるかもしれない。」
「それなら良いのですが…」
「ところで、僕がいない間に何か起きた?」

俺がそう質問すると彼女は世界地図を表示してくれた。世界地図にはわかりやすいように円や矢印が点滅している。
大陸の3カ国からファーレンに向けて大きな矢印が向かっている。
丸の大きさは戦力の大きさらしい。帝国側にも大きな丸が表示されている。

「現在大陸北方にあるギルデラン北方共和国、東部のカイレン連邦、西部のエルグランド魔法王国の3カ国がファーレンの首都近郊にある平原に向け集結しているところです。」
「これで帝国は世界侵略を諦めたりするかな?」

多分この世界が始まって以来の大集結だ。帝国がどんなに強くったって、この戦力に正面から太刀打ちすることは難しいだろう。それにしても思った以上に早い動きだ。これならしばらくは時間稼ぎにもなるかもしれない。

「それはない、と推測いたします。」

ナビーは首を横に振って否定する。「なぜ?」と問うと即座に返答が返ってきた。

「帝国宰相グラファイトはバグを内包する物質を活用して、大規模な殲滅魔法を発動しようとしています。その魔法が発動した場合の予測被害範囲はちょうどあの平原を覆う規模となります。その場合、ここに集結する予定のおよそ70%が消滅、13%は戦闘不能状態となることが予測されます。」

そんな、とんでもない!それじゃみんなが、クリスが…。

「じゃ、すぐに移動するように言わないと!」
「それは今はできません。」
「なんで!?」
「神の権限が大きく制限されていて、タケル様自身が声を届ける方法がありません。」
「でも!ナビーはあの動画撮るのにログインしたんだろ?それだったら!」

ナビーの声があの動画には入っていた。きっとなんらかの方法であの世界にログインしてあの動画を撮ったんだ。
だったら同じようにナビーが俺の代わりに声を届けることができるはずだ。

「それは…今はできません。私があの世界にログインできたのは、緊急の召喚であちら側に呼ばれたからです。こちらから私自身があの世界に入る権限がありません。」
「そんな…それじゃこのことを伝える方法は…」
「ありません。申し訳ありません。」

そんな…もう打つ手がないじゃないか。俺が気落ちして肩を落としているとナビーが付け足して話し出した。

「グラファイトは今から3日後までに帝国に隷属するかどうかの返答をするよう、各国に通達しています。おそらく攻撃があるとすれば、その時かと。ちょうどその頃にはこの大軍も平原に集結します。」

それはつまり、3日後がリミットということか。
3日後までにこのバグを消すことができなければ、あの世界は崩壊していく。クリスと共に。
なんなことは絶対に受け入れられない。
しかし、ナビーの機転で投稿された動画の反響が思った以上に大きい。もしかしたら…運営会社を動かす力になるかもしれない。

「ナビーのお陰であの動画すごく見られているから、もしかしたらもしかするかもしれない!3日後までになんとかしてもらえるよう僕もたくさん発信するよ!」
「お力になれたのでしたらよかったです。もはや解決するとしたらそれしか方法は考えられません…。タケル様に祝福がありますよう。」

ナビーが頭を下げて消えていった。あれ?ナビーが「祝福がありますよう。」なんていうの初めて聞いたな…
彼女は本当に人工知能なのかってくらい、話しているとプログラム上の存在であることに違和感が出てくる。
でも今はそのことは置いといて、俺ができることをやらないと。
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