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第3章

75話 「神殺し」

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外の異変に気がついたキーレンと各国の代表者は本陣のテントをでて目の前の宰相と対峙する。
何人かその姿の異形さにヒィ!と悲鳴をあげるのが聞こえた。
テントから出てみたら巨大な顔が現れたのだから驚くのも無理はない。

「これは最近開発した映像魔法というものでしてねぇ?私を拡大して映し出しているだけですから、何も怖くないですよぉ?さてさて、早速本題に入りましょう…。あなたたちは帝国に隷属するか、否か、…どっち?」

巨大な宰相の顔からはどうかはわからないが、宰相の声もこの平原に響き渡っているほどよく聞こえる。
ニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、表情を変えずにこちらを見つめている。
気味の悪い宰相の声が、この平原に広がるだけで徐々に汚れていく気がした。

グラファイトの問いに対して代表者たちの返答は早かった。

「当然拒否する!」
「我が国もです!徹底抗戦します!」
「我が国も拒否する!」

そして4カ国の考えをまとめるようにキーレンが最後に返答をする。

「もちろん我がファーレンも帝国には従わない!宰相よ。このまま双方の戦力で争っても互いに被害が広がるだけだ。即座に停戦交渉に入った方が被害が少ないのではないか?」

各国の代表はそれぞれが首脳から全権を委ねられている。彼らの返答は国の返答ということで間違いはなかった。

返答があってからしばらくグラファイトは最初と変わらない笑みを浮かべている。
そして突然大声で笑い始めた。

「あーはっはっはっ!ヒーヒッヒッヒ!あ~面白い。まさに想像していた通りの返答でした!まあ、私も流石に大人しく隷属するとは思ってはいません。それに…素直に敗北を認められても…困る。」
「強がりをいうな!いくら帝国が世界一の戦力を持っていようと、4カ国の連合軍を前に早々簡単に勝てると思うな!」

グラファイトの発言を失礼だと感じたのか、代表者の一人が顔を真っ赤にしてグラファイトの顔に向かって叫んだ。
当然この状況はグラファイトはわかっていたはずだ。さて、狂気の宰相はどんな手を使ってくるのか。
奴は黙ったまま、ただニヤニヤしているだけだ。

すると周辺にいる兵士たちが急に騒々しく何かを叫び出した。
「なんだあれは!?」「おい、上をみろ!」

その声を聞いて俺も頭上を見上げた。すると暗闇だった空には紫色の巨大な球体がいつの間にか浮いていた。
なんだあれは?いつからあそこにあった?
しかし見るからに禍々しいあの球体が良いものではないことは俺にもわかる。
あの色…神が破壊するように言っていたあの六角柱に似ている。

「おやぁ?気がつきましたか?…ふふふ。いやあ、まさか大陸の戦力が一斉にこの平原に集まるとは!…お陰でそんな条件にぴったりの、おあつらえ向きの、最高の一手を打つことができる。」

クフフ…とこちらを嘲笑いながら、指を口にあててニンマリと笑う宰相。

「何をするつもりだ!」
「何を?それはもちろん隷属しない者どもを一気に殲滅する大魔法…もっと魔力を集めることができれば、怨念が集まれば、もっと巨大なものになったのですが…。ご紹介しましょう!これぞ究極!我が帝国の叡智が誇る最終決戦大規模殲滅魔法!その名も「神殺し」!いい名前でしょう?神をも滅ぼす最上の魔法!一気に滅べ!ギャハハハハ!」

そういうとグラファイトが映っていた映像魔法がぷつりと切れた。
あいつは元々交渉などするつもりはなく、各国が徹底抗戦すると踏んで一気に殲滅するつもりでいたのだろう。
さらに一度魔物に襲わさせて、疲労が溜まったところで平原から逃げ出す体力がないものが大勢いる。
これでは全力でここから逃げ出すにも時間がかかる。

走れる者は走って逃げるか、走れない者を庇って一緒に死ぬか。そのどちらかを選択しなければならない。
俺もキーレンや疲れ果てていたベレッタを見捨てて逃げることはできない。
宰相は狂っていると思ったが、冷静に淡々と、合理的に、より多くの者を物理的に消滅させる方法を選んだ。

「走れる者はわき目も降らずに平原から離れよ!」

恐慌状態に陥りつつあった平原に冷静に言い放つキーレンの元に走り寄った。そばにはジェレミアもすでにそばにいる。

「殿下!殿下だけでもお逃げください!」
「多くの兵を見捨てて逃げるわけにはいかない!ジェレミアこそ逃げよ!」
「そんなことはできません!殿下をお守りすることが私の使命!どうか!」

キーレンはここに集結させることを決定した代表の一人でもあるから、責任を感じているのだろう。
だがこのあと予想される悲劇の後、大陸の国々をここまでまとめてきたキーレンをも失うことはそれこそ大きな損害になるだろう。

俺もそう説得したが、キーレンは頑なにその後も逃げられる者は即時退避せよと指示を飛ばし続けていた。
ここに最後までとどまることは彼の固い意志のようだ。
それでもジェレミアの必死の説得は続いている。涙を流しながら…彼があんな顔をするとは思わなかったが、彼にとってキーレンは保護対象以上の存在なのかもしれない。

そんなことを考えていたらタケルの顔がふっと浮かんだ。
「僕は死にませんから!大丈夫ですから!絶対死なないで!」
必死な顔で俺をみながら「死なないで!」と叫ぶタケル。

今彼がここにいなくて本当によかった。彼はたとえこの世界が滅んでも害が及ばないところにいる。そう考えると感じていた距離もありがたいものに思えてきた。

「ごめん、タケル約束は守れそうにない…。」

頭上を見上げると先ほどよりもさらに一回り大きくなった紫色の球体が、先ほどよりもますます地表に近づいてきているように見えた。



※タケル視点
『動画ですか?』

あれから俺は某SNSで必死にNo.32の世界の惨状をスクリーンショットを添付して投稿し続けていた。
返って来た言葉は同情する声や、諦めの声も多かったけど、キツかったのはゲーム会社の演出だと思われたことだ。
「演出乙」
みたいなコメントにいちいち怒っていても仕方ないけれど、それでも伝え続けていくしかもう俺には方法はない。
運営会社にメールも電話もしてみたが、今のところバグ修正の予定はございません。の一点張りで何も動いてくれるような気配はなかった。

俺が投稿したもののうち、いくつかはバズったものもあるけれど、反応は一過性のものでまだ実際の解決につながるようなものはない。
諦めかけていたその時、「救う会」のグループチャットで「To Be the God」の動画のことが話題になっていた。

『最近話題になっている動画なんだけど、やけに真に迫っていて、必死さが伝わる上に愛も感じるような印象的な動画だったよ。』
『終了間近で「To Be the God」が話題作りのために新しい広告打ったって噂もあるけどね。』
『いやあ、それでもなかなか胸を打つ動画だから是非みてみて。』

そのコメントに貼られていた某巨大動画サイトのリンクをクリックしてみると、すぐに動画が開く。
その動画を見て一瞬心臓が止まりそうになった。
目の前の動画にはクリスが映っていたのだ。

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