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第2章

65話 実験体たちと戦う俺

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洞窟内部に入った俺たちは物音を立てないように内部の洞窟を捜索する。牢屋の様…というか牢屋には女性たちが捉えられていた。俺たちの姿を見た女性たちは最初警戒していたが、救助のためにきたとわかるとわっと歓声を上げてしまった。

「シー!シー!」

指に人差し指を当てて静かにするようにジェスチャーするとふっと静かになるが、外の犯人たちに気づかれてしまったかもしれない。
そんな中慌てた様子で一人の女性が牢屋の奥から前に進み出てきた。

「今すぐ逃げなさい!間も無く化け物たちがやってくるはずです。いくら強そうなあなたたちでも叶うかどうか…」

彼女の顔を見てあっと思った。
うっすら茶髪かかっていて、後ろ髪に青リボン。長らく捕まっていてやつれた顔をしているがラルスに見せてもらった娘のエラに間違いなかった。

「あなたがエラさんですか?」
「はい、そうですが…。どうして?」
「あなた方を助けにきました!」
「ありがとう。でも…」



そうエラが言いかけたところで通路奥の重たい扉がギィィィと開く音がする。
シューシューと言う声なのだか、呼吸音なのだかが聞こえてきた。

「タケル!後方に下がるんだ!」
「作戦開始だ!待機組に合図を!」

クリスが俺の襟首を持って自分の方に引き寄せると同時に、キーレンはまだ通路に残っていた騎士たちに指示を出した。
程なくして開いた扉からは高さが2m以上はある巨人が現れた。左手が異常に大きく、それぞれの指が大きな鋭利な鍵爪の様になっている。あれに殴られたら一撃で致命傷をおいそうだ。久しぶりの実験体との対峙に体が強張る。
気を取り直して、俺はすかさず心の中でライブラリーとつぶやいた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
異形なる者No.003
属性 闇 LV 65

魔族による人体実験により肉体改造された人間だったもの。
元の人間のときの倍の筋力と魔法抵抗力が身に付いている。
身体の一部が鋭利な武器になっており、素早く行動し獲物を狩る。

物理攻撃無効
迅速

弱点:聖属性攻撃
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

よかった。聖魔法攻撃はまだ弱点の様だ。俺はすかさず聖魔法ビームを放って、実験体に通用するところをパーティに見せる。
実験体はまともに魔法を受けて苦しそうに後退する。こいつは聖属性でも物理攻撃より魔法攻撃が効きやすい。

「こいつも聖魔法が弱点みたいです!」
「タケル、奴とは俺が相対するから前に出るな!」

クリスが必死に俺を後方に下がるように前に出る。
それと同時にキーレンは騎士団や冒険者たちに指示を出した。

「この化け物は私たちが請け負う!お前たちは牢屋にいる人たちを救助してくれ!」

騎士団と冒険者の選抜メンバーたちは俺たちの後方にある牢屋に向かい、鍵を次々と開けて開放していく。
そのさらに後方には俺が作った通路がある。ひとまずはそこまで彼女たちを逃げさせれば、作戦の第一目的は成功だ。



俺たちがのっぽの実験体と主に聖魔法や聖魔法属性で戦っていると、急に実験体の前にバリアのようなものができて魔法を弾かれてしまった。そのことに驚いていたら、奥からもう一体化け物が出てきた。
高さはそれほど大きくないが、全身がヒルの様な触手をしていて、見るからにグロテスクな姿をしている。

こちらにも「ライブラリー」とつぶやいて、やつのステータスを覗くことにした。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
異形なる者No.004
属性 闇 LV 55

魔族による人体実験により肉体改造された人間だったもの。
全身に吸血ヒルが移植されており、直接人間からエネルギーを吸収する。
魔法攻撃や魔法防御が得意なのは元の人間であった時の特性である。
通称は「ヒル女」。

魔法攻撃無効
吸血

弱点:聖属性攻撃
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ヒル女」?と言うことは元々は女性だったらしい。
この状態になって元に戻るかどうかはわからないけれど、できることなら戻してあげたい。
のっぽの実験体が魔法防御による援護を受けたことで急に勢いづいた。

もしかしたらこの2体は対で戦うことが前提なのかもしれない。
キーレンやクリスは前面に出て戦っていたが、相手の動きは素早く俺の前にまで進んでくる。

「タケル!」

気がついた時には避けられないところにまでのっぽが近づいていて、身動きが取れなかった。
その瞬間、黒い糸の様なものがのっぽの体に大量に突き刺さり、急に動きが止まる。俺の鼻先まで鉤爪が届きそうになっていた。
え?一体何が起きた?
呆然としていた俺に声がかかる。

「捕まっていた女性たちはすでにここから連れ出すことに成功した。私も共に戦おう。」

ただ驚いていた俺の隣に漆黒の髪の女性が現れた。オルガさんだ。
今動きを止めたのはオルガさんのスキルだったわけか。彼女幅広いなあ…。
そんなオルガさんが戦いに加わってくれたのはとても心強い。

と思ったが、まだ戦況は好転したわけじゃない。
相変わらず、ヒル女がのっぽに魔法防御を施しているせいで、俺とベレッタの魔法が効かないのだ。
だから物理攻撃のできるクリスとキーレン、妨害スキルが使えるオルガしか応戦できない。

そうこうしているうちにのっぽを足止めしていた黒い糸が破られてしまった。
動きが自由になったのっぽが鉤爪を大きく振りかざして、クリスたちに襲いかかる。
案の定、クリスたちに施した魔法防御がのっぽの鉤爪を弾く。

完全に膠着状態に陥っている。俺はこの状態を打開するため、意を決してみんなに声をかけた。

「あのヒルみたいなやつには物理攻撃が効きます!まずはあいつを仕留めないと攻撃が効きません!」
「わかったタケル!」
「では私はあのデカブツの動きを止めよう。」

すぐに連携が始まり、クリスとキーレンがヒル女に攻撃を仕掛ける。そのおかげでヒル女の魔法防御が解け、のっぽに攻撃する好きができた。
オルガは先ほどの黒い糸や見た目にはよくわからない攻撃を繰り出して、のっぽの動きを封じている。

「デカブツの魔法防御が解けた!魔法が効くぞ!」

オルガの声を合図に俺とベレッタで聖魔法を集中してのっぽに撃ち放つ。
魔法防御を失ったのっぽには俺たちの聖魔法を防ぐ術はもはやなく、ただの的になっていた。
しばらく全身に聖魔法の攻撃を受けたのっぽはそのうちに焼け爛れて、うめくような声を出したがらそのままその場に倒れた。倒れたのっぽが身動きしないことを確認して俺は叫ぶ。

「のっぽは倒せました!」
「よし!あとはこいつだけだ!」

のっぽが沈黙した今、倒すべき相手はヒル女だけになった。
自分が劣勢に立たされたことに気づいたのか、「キィィィィィィ!」と甲高い鳴き声で叫ぶ。
思わず耳を塞いでいる間にもクリスとキーレンが聖剣で攻撃を絶え間なく当てている。

ヒル女もさまざまな魔法を駆使して応戦するが、俺の魔法防御によって2人にはダメージがいかない。
あいつを倒せるのも時間の問題だろう。



そう思っていたら、急に体から力が抜けていった。
倒れそうになったところで、体を誰かに受け止められる。

「危ないところだったな。タケル。」

なんだオルガさんか…。ほっと思って、「ありがとうございます」と言おうとしていたら、彼女は想いもよらないことを口にした。

「くくっ。流石に神といえど、呪いの石の力には抗えないようだ。」

ニヤリと歪んだ笑みを見せるオルガの顔は、見たこともないほど邪悪だった。

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