上 下
54 / 91
第2章

48話 ベレッタの変貌に驚く俺

しおりを挟む
静まり返った議場で議長の声だけが響く。

「さて、大方議員のみなさんの意見は固まってきたかのように感じられますが…キール殿下は他に何か主張することはございますかな?」
「はい。議長。さらに議員の皆様に聞いていただきたいことがございます。」
「では、発言を認めます。」


キール殿下…キーレンは議長に感謝の意を伝え、発言席に立った。

「今回の件、そもそもおかしな話なのです。先ほど証人として立ったクリス殿、タケル殿の話す通り、私は誘拐された子供たちを救出する最前線におりました。そのことは王宮からも発表があったはずです。誘拐の主犯が実行犯と戦い子供達を救出することに一体どれだけの意味があるのでしょうか?人気取り?いやいやあまりにもリスクが高すぎます。そう考えれば今回のような疑いが湧き上がるはずもないのです。しかし事実は歪められ、ここまでの事態に至った。」

議場はシーンと静まり返り、皆キール殿下の話を聞いていた。

「そこでまず今回の事態の中心人物について秘密裏に調査しました。そう、フリスト伯爵がなぜこのような大それたことを計画したのか。調べて見るとその背後関係が明らかになりました。ジェレミアの発言をお許しいただきたく。」
「認めます。」


議長が発言の許可をすると、再びジェレミアが発言席に立ち、調査の報告を始める。

「ジェレミア議員の周辺を調査した結果を報告いたします。ジェレミア議員の邸宅で勤務している複数の使用人からジェレミア邸に何度も魔族の男が出入りしているとの証言がありました。これはその時の発言を記録したものです。」

するとジェレミアは懐から1つの緑色をした石を取り出した。風の魔法石である。
風の魔法石はその石の内に風の魔力を溜め込む性質があり、短時間ならば会話内容を記録することができる。
本来ならば希少なものなのだが、役に立つと思ってジェレミアに渡しておいたのが功を制した。
あまり多く出すのも変なので、ジェレミアだけに渡しておいたのだ。本当ならいくらでも創造できるのだけれども。

『私は本当にびっくりしましたよ。何度も魔族の男にお茶を出しましたとも。ええ、ええ、旦那様は何度も会っているようなご様子でしたわねえ…』
『たまたま通りすがりに聞いてしまったんですがね。「謝礼は…」とか「王家の転覆…」とか聞こえてきて、ここで働いていたらやばいって思って、仲間達で早めに転職しようって言っていたところなんです。』

魔法石からは女性の声と男性の声で証言が再生された。その音は議場に響くくらいの大音量であったので、その証言は全ての議員が聞いていたことだろう。

「再生された方達の他にも証言をするので匿ってほしいという使用人が多くおりました。家の主人が何か大それた悪事に手を染めていることをわかっていただけに、彼らも不安だったのでしょう。」

ジェレミアはそこまで話すと、発言席を降りた。今議場の全員から注目を集めているフリスト議員は顔を赤くさせたり青くさせたりしながら、呆然としていた。彼からしたら使用人たちが反抗するなど考えもしなかったのだろう。


「議長。さらにフリスト議員の最近の行動について、証言があります。ベレッタ殿の発言をお許しいただきたい。」
「認めましょう。」

それまで袖で俺たちと静かに待機していたベレッタが腰を上げ、優雅に発言席へと向かった。彼女が今回の審査会での大トリを飾ることになる。普段のガサツな女魔導士はなりを潜めて、まるで貴族のような優雅な足取りだった。

「発言をお許しいただき、恐悦至極に存じます。私は誘拐事件の時にキール殿下とともに子供達の救出に参加したベレッタと申します。」

口調までまるで貴族のような立ち振る舞いに、驚きを隠せない。もう出会ってから何ヶ月も経つのに、あんなベレッタは初めて見た。

「私は街中でのフリスト伯爵の評判を聞いて回りました。するとフリスト伯爵は本当に本当に大人気でしたわ。主に宝石店と色街の中ででしたけれども。」

にっこりと微笑みながら、フリスト議員の方を見るベレッタ。ベレッタの嫌味にフリスト議員は怒りで爆発しそうなのを必死に耐えているように見える。

「ここ最近のフリスト伯爵は本当に羽振りが良くて、宝石も毎週のようにお買い上げくださる上に、色街でも毎回大盤振る舞いされているとかで大変な人気のようでした。みなさんが言うにはとてもいい商売をしているとご本人から聞いたそうでしたわ。おかしいですわね?つい最近まで伯爵家の家計は火の車で、大きな借金もあったそうなのですが。」

先ほど真っ赤だったフリストの顔色は今度は真っ青になって俯いている。まるで信号みたいだなあ…とそれを見て思った。

「ちなみにこれらの発言をした者たちも身柄を保護しています。正式な証言としてお話いただけるようですので、必要があればいつでもお連れすることができます。私からは以上です。」


ベレッタは発言を終えるとゆっくりと優雅に礼をして、きた時と同じ様に戻ってきた。
ベレッタは俺たちと別行動をとっている間、街中の酒場やお店などを回って聞き込みをしていたらしい。
「もののついでだよ」と本人は言っていたけれど、彼女の行動力には恐れ入る。

思わず俺はベレッタに話しかける。

「ベレッタさん、優雅でしたねえ!あんなこともできるんですね。」
「うるさいよ!…まあ、作法は昔ちょっとかじったことがあるんだよ。」

恥ずかしそうに顔を赤くしたベレッタがガツガツと足音をたてて袖にある席に戻る。
この時初めてベレッタって可愛いところもあるんだな…と思ったが表情には出さないようにした。

視点を議場に戻すと、キール殿下が締めの言葉を話しているところだった。

「はっきりとした証拠があるわけではありません。しかし、使用人の証言、宝石店や色街外での評判…そして今回の顛末を考えれば、点と点がつながり一筋の線になると思いませんか?事実はぜひ、フリスト議員本人からお話いただきたいと思います。」
「フリスト議員は何か申し開きすることはありますか?」


議長がフリストに話を振ると、顔を真っ赤にして立ち上がり叫ぶように反論した。

「こ、こんな、こんなことがあって良いのでしょうか!この審査会はキール第2王子を審判する場のはず!なぜ私が、なぜ私が責められているのですか?こんなのは無効です!私は何も知らないし、何も関係ない!無効です!誰がなんと言おうと無効です!」

フリストは取り乱し、支離滅裂な発言を繰り返す。もはや審査会の最初に見た威風堂々とした彼の面影はすでになく、ただ発狂して叫ぶだけの男がそこにいた。
彼が取り乱した様子を見て、もはや意味の議論はないと判断した議長が採決を取ろうとして、木槌を振り上げた瞬間、議長のそばに騎士が走り寄り耳元に話しかける。
伝言を聞いている最中に議長はハッとした顔をしたかと思うと、議場全体に大きく響く声で訪問者の来訪を告げた。


「全員、起立!ケント・デレトニア・ファーレン国王陛下の御成りです!」

そういうや否や、議長含めその場の全員が座席から立ち上がり直立する。
なんとこの国の王様が議場に突然来ると言うのだ。今は空席だが、議長席の後方、一段上がったところに立派な飾り立てのされた椅子がおいてある。そこに国王陛下が悠然と歩きながら入場してきた。
国王は自身の玉座に腰をかけると、右手を上げながら「楽にせよ」と指示する。それと同時に全員が席についた。

「私もことの成り行きを袖で見守っておったが、…フリスト伯爵…見苦しい真似はやめよ。お前も貴族の一席を守る立場なれば、その誇りを捨ててはならぬ。今のお前の態度はこの国の品位を貶めるものになろう。」
「ですが…」
「一人の王族を確かな根拠もなく陥れるは、国家叛逆にも等しい謀である。それを踏まえ、私は王として、この場の議員たちになすべきことを委ねる。私たちが目を曇らせては国民を守れない。そのことを議員全員は心せねばならない。」

そういうと国王はまた席を立ち、袖へと戻っていった。
国王が玉座にいる間、議場には張り詰めた緊張感があった。国王とはあのように全身の威厳で人々を圧する力があるのだろう。
予期せぬ国王の来訪のおかげで、ここでフリスト議員を追い詰めることができそうだ。そうすれば他にもいるだろう親帝国派閥の勢力も一気に勢いを失い、議会と王宮が力を合わせて帝国に対抗することも可能になるだろう。


議長が改めて木槌を振り上げ、ガベルを打ち鳴らす。

「それでは採決を取ります!」

この審査会も終わりを迎えようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

美少年(腐)の僕は、イケメンかつ絶倫巨根を所望する

つむぎみか
BL
ーーーユーリは美少年だった。 しかしその中身は、無類のイケメン好き かつ 犯され願望があるド変態(腐)である。幼少期に同じく腐女子の姉と結んだ同盟により、王道学園※十八禁を目指し奮闘するものの、なかなか挿入まで至らない悶々とした日々を過ごしていた。 「あーもうっ、はやくイケメンで絶倫の巨根に、お尻の孔をぐちゅぐちゅになるまで犯されたーーい!」 ユーリの願いが叶う日は来るのだろうか?乞うご期待! 見た目は超絶美少年な主人公が、欲求不満な身体を持て余しつつ、選りすぐりのイケメンをハニトラで誘惑しようと奮闘します! (ビッチな彼には複数のターゲットがいますが、本編中に本番があるのは一人のみです/番外編予定あり) ※予告なしにR18表現が入ります。 ※表紙絵はTwitterで遊んだ時のものです。今のところ本編で表紙の格好はしていません!笑

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

処理中です...