上 下
47 / 91
第2章

番外編5 「To Be the God」を救済する会

しおりを挟む
VRを外して、ふうとため息をつく。
最初はずっと見守るつもりで初めて冒険者モードで「To Be the God」にログインした俺だけど、ついにクリスを気持ちが通じ合う仲になった。
そうなるまでにだいぶ葛藤した。「To Be the God」は3月いっぱいでサービス終了だし、何よりクリスはゲームの中の存在だ。現実世界にクリスが出てくるなんて、ロボット技術がまだ発展途上の現在では望めない。
ゲーム内のクリスはすでに俺にとっては現実の一つだけれど、簡単に消えてしまう儚いデータでもある。

それでも。
クリスはただのデータじゃなくて、自分で考え、意思をもち、俺を愛してくれる…大事な人だ。
そう感じることはやっぱり現実のもので、それが仮想か現実かなんて関係ない。そう、クリスが好きなことは現実なんだ。
だから、葛藤が完全に無くなった訳ではないけれども、クリスとともに生きることを決断した。純粋に俺を心配し、愛してくれるクリスの想いに応えたい。

俺はまず「To Be the God」で自分と同じような思いを抱えて困っている人がいないか、SNSで探してみた。
すると結構な人数で、この問題に向き合いなんとかしようとしている人たちがいることがわかった。

「俺だけじゃないんだ…同じ気持ちの人は。それなら、何か解決策がないのかな?」

SNSの中には「To Be the Godを救済する会」というコミュニティがあって、そこに迷わず俺も参加した。
そこではゲーム制作の技術を持つ人も参加していて、実際にセーブデータをどうするか、閉鎖後再び稼働するにはどうするか、著作権がどうかなどなど、自分たちが想像した世界をどうやってこれからも存続させるのか話し合われていた。

『初めまして、タケルです。俺も絶対To Be the Godを続けたいので、できることはしたいです!よろしくお願いします!』
と自己紹介のコメントをコミュニティに初めて残す。すると次々と『ようこそ~』『若い!』などのコメントがポップする。
現役高校生が加入したということで、コミュニティの参加者の皆さんに歓迎された。
俺は自分が気になっていることを質問した。

『今のセーブデータを残すにはどうすればいいですか?』
と質問したら、コミュニティ内のコメントでセーブデータを保存するための方法を詳しく教えてもらうことができた。そのままデータを今と同じところに置いておくと、ある日突然削除されてしまう可能性もあるらしい。
特に親切な極楽パンダさんというハンドルネームの人が、親切に教えてくれる。この人はこのコミュニティの管理人のような立ち位置の人で、技術的なことにもだいぶ詳しいようだ。

『他にも何かあるかい?一緒にこの危機を乗り越えよう!』
陽気なスタンプと共にメッセージが表示される。何歳の人かわからないけど、優しい人のようでよかった。

『サービス終了後に再びこの世界に入るにはどうしたらいいですか?』
と質問した。しばらく間があいて、極楽パンダさんの回答が表示される。
『それが今のところの一番の難題なんだよねえ…今現在有料サービスも停止されていて、運営の採算が取れないらしい。さらにはゲームの仕様にかなり残虐な部分もあったり、変なバグの報告もあるから、再び稼働するにはそういう問題も解決しないといけないだろうしね…』
『かなり難しいということでしょうか?』
『本気でなんとかするには、色々な問題をクリアしないといけない。一般人だけでは難しいかも。』

他にもコミュニティの皆さんから次々とコメントが書き込まれる。どれも極楽パンダさんの書いたことに近いような内容だ。どうやら「To Be the God」を再稼働するにはかなり高いハードルがあるらしい。
別の会社で稼働するにしても、開発した会社の著作権の問題もある。こうした問題の一つ一つを解決するには数年単位で取り組まないといけなさそうだと、ただの高校生の俺でもわかる。

ただ極楽パンダさんのコメントに気になる記述があったのでもう一つ質問する。

『バグってなんですか?プレイしててバグったことはないんですけど…』
『ああ、わかりにくいバグなんだよ。ゲーム内の世界に発生したバグ的なキャラクターが、プレイヤーの権限を超えた能力を持っていて、世界の維持を妨害してくるんだ。これってゲームの趣旨に反するだろ?』
『そうそう。どうやっても倒せないモンスターとか、変な魔法とかあったりするんだよな。』
『神でものぞけない情報遮断ってなんよ?って話だよな。万能じゃねーし』
『なぜか、俺たち創造者を排除しようとする動きもあるし。せっかく快適な世界を作ったのに維持するのは本当に難しいんだよ。』

極楽ぱんださんのコメントの後に次々とバグの情報が書き込まれる。
倒せないモンスターや変な魔法…は身に覚えがないが、情報遮断には身に覚えがある。
ヘレンさんの現在位置が表示されない不具合。あれがそうだったのか…。

『みなさんはそのバグはどうやって解決してるんですか?』
『解決するには直接プログラムをいじらないといけないから、解決しようがないんだよ。もしやってしまうと違反をしたプレイヤーとして管理側からBANされちゃうよ。』

BANとはアカウントが停止される処置のことだ。バグを無くそうとしてBANされるとは、なんだか理不尽な処置のような気がする。

『ええ!?ひどいですね』
『まあ、色々事情があってね…』

そう書いたのは扁平足さんだ。彼(彼女?)は「To Be the God」の運営会社に関わる人らしく、『ここだけの話』として社内事情を色々教えてくれた。
「To Be the God」はすでにサービス終了も決まっていて、採算も取れないコンテンツなので運営は現状維持のためだけの少人数がつけられていて、プログラムの修正をする人もいないらしい。製作側の主力は全て新しいゲームの制作に回されているのだとか。
再び極楽パンダさんのコメントがポップする。

『だから完全な解決には「To Be the God」の著作権買取、プログラムの修正、新しい運営方法の構築なんかが最低でも必要になってくるかな。』
『個人では無理ですね…』
『そうだね。だからこういったコミュニティが必要なんだ。海外にもあるんだよ。』

「To Be the Godを救済する会」の本部は日本にあるが、今は海外にも多くの支部があるらしい。どこの国にも自分の創った世界を救済したい人がたくさんいるのだとか。

『俺にできることはないでしょうか?なんとしても「To Be the God」を残したいんです!』
『君もTo Be the Godに大切な人がいるのかい?』
『はい…』
『僕もだよ。これからもよろしく。一緒に救済しよう!』

最初は何気なく始めた「To Be the God」だけど、あの世界で大切な人を守るために自分の人生を投げ出してでも、絶対に再稼働させたい。
俺はこのコミュニティを通じて、共通の目的に向けて色々な方法を模索することになった。

あとはゲーム内の世界の問題も同時に解決していかないとな。
俺はSNSのチャットを閉じると、VR機器をつけて再びゲーム内世界にログインした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

トリッパーズ!

有喜多亜里
BL
清々しいまでに無知な高校生と、知識はあるが毒も吐く眼鏡男子な同級生の、不本意で理不尽な異世界トリップ話。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...