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第2章
番外編5 「To Be the God」を救済する会
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VRを外して、ふうとため息をつく。
最初はずっと見守るつもりで初めて冒険者モードで「To Be the God」にログインした俺だけど、ついにクリスを気持ちが通じ合う仲になった。
そうなるまでにだいぶ葛藤した。「To Be the God」は3月いっぱいでサービス終了だし、何よりクリスはゲームの中の存在だ。現実世界にクリスが出てくるなんて、ロボット技術がまだ発展途上の現在では望めない。
ゲーム内のクリスはすでに俺にとっては現実の一つだけれど、簡単に消えてしまう儚いデータでもある。
それでも。
クリスはただのデータじゃなくて、自分で考え、意思をもち、俺を愛してくれる…大事な人だ。
そう感じることはやっぱり現実のもので、それが仮想か現実かなんて関係ない。そう、クリスが好きなことは現実なんだ。
だから、葛藤が完全に無くなった訳ではないけれども、クリスとともに生きることを決断した。純粋に俺を心配し、愛してくれるクリスの想いに応えたい。
俺はまず「To Be the God」で自分と同じような思いを抱えて困っている人がいないか、SNSで探してみた。
すると結構な人数で、この問題に向き合いなんとかしようとしている人たちがいることがわかった。
「俺だけじゃないんだ…同じ気持ちの人は。それなら、何か解決策がないのかな?」
SNSの中には「To Be the Godを救済する会」というコミュニティがあって、そこに迷わず俺も参加した。
そこではゲーム制作の技術を持つ人も参加していて、実際にセーブデータをどうするか、閉鎖後再び稼働するにはどうするか、著作権がどうかなどなど、自分たちが想像した世界をどうやってこれからも存続させるのか話し合われていた。
『初めまして、タケルです。俺も絶対To Be the Godを続けたいので、できることはしたいです!よろしくお願いします!』
と自己紹介のコメントをコミュニティに初めて残す。すると次々と『ようこそ~』『若い!』などのコメントがポップする。
現役高校生が加入したということで、コミュニティの参加者の皆さんに歓迎された。
俺は自分が気になっていることを質問した。
『今のセーブデータを残すにはどうすればいいですか?』
と質問したら、コミュニティ内のコメントでセーブデータを保存するための方法を詳しく教えてもらうことができた。そのままデータを今と同じところに置いておくと、ある日突然削除されてしまう可能性もあるらしい。
特に親切な極楽パンダさんというハンドルネームの人が、親切に教えてくれる。この人はこのコミュニティの管理人のような立ち位置の人で、技術的なことにもだいぶ詳しいようだ。
『他にも何かあるかい?一緒にこの危機を乗り越えよう!』
陽気なスタンプと共にメッセージが表示される。何歳の人かわからないけど、優しい人のようでよかった。
『サービス終了後に再びこの世界に入るにはどうしたらいいですか?』
と質問した。しばらく間があいて、極楽パンダさんの回答が表示される。
『それが今のところの一番の難題なんだよねえ…今現在有料サービスも停止されていて、運営の採算が取れないらしい。さらにはゲームの仕様にかなり残虐な部分もあったり、変なバグの報告もあるから、再び稼働するにはそういう問題も解決しないといけないだろうしね…』
『かなり難しいということでしょうか?』
『本気でなんとかするには、色々な問題をクリアしないといけない。一般人だけでは難しいかも。』
他にもコミュニティの皆さんから次々とコメントが書き込まれる。どれも極楽パンダさんの書いたことに近いような内容だ。どうやら「To Be the God」を再稼働するにはかなり高いハードルがあるらしい。
別の会社で稼働するにしても、開発した会社の著作権の問題もある。こうした問題の一つ一つを解決するには数年単位で取り組まないといけなさそうだと、ただの高校生の俺でもわかる。
ただ極楽パンダさんのコメントに気になる記述があったのでもう一つ質問する。
『バグってなんですか?プレイしててバグったことはないんですけど…』
『ああ、わかりにくいバグなんだよ。ゲーム内の世界に発生したバグ的なキャラクターが、プレイヤーの権限を超えた能力を持っていて、世界の維持を妨害してくるんだ。これってゲームの趣旨に反するだろ?』
『そうそう。どうやっても倒せないモンスターとか、変な魔法とかあったりするんだよな。』
『神でものぞけない情報遮断ってなんよ?って話だよな。万能じゃねーし』
『なぜか、俺たち創造者を排除しようとする動きもあるし。せっかく快適な世界を作ったのに維持するのは本当に難しいんだよ。』
極楽ぱんださんのコメントの後に次々とバグの情報が書き込まれる。
倒せないモンスターや変な魔法…は身に覚えがないが、情報遮断には身に覚えがある。
ヘレンさんの現在位置が表示されない不具合。あれがそうだったのか…。
『みなさんはそのバグはどうやって解決してるんですか?』
『解決するには直接プログラムをいじらないといけないから、解決しようがないんだよ。もしやってしまうと違反をしたプレイヤーとして管理側からBANされちゃうよ。』
BANとはアカウントが停止される処置のことだ。バグを無くそうとしてBANされるとは、なんだか理不尽な処置のような気がする。
『ええ!?ひどいですね』
『まあ、色々事情があってね…』
そう書いたのは扁平足さんだ。彼(彼女?)は「To Be the God」の運営会社に関わる人らしく、『ここだけの話』として社内事情を色々教えてくれた。
「To Be the God」はすでにサービス終了も決まっていて、採算も取れないコンテンツなので運営は現状維持のためだけの少人数がつけられていて、プログラムの修正をする人もいないらしい。製作側の主力は全て新しいゲームの制作に回されているのだとか。
再び極楽パンダさんのコメントがポップする。
『だから完全な解決には「To Be the God」の著作権買取、プログラムの修正、新しい運営方法の構築なんかが最低でも必要になってくるかな。』
『個人では無理ですね…』
『そうだね。だからこういったコミュニティが必要なんだ。海外にもあるんだよ。』
「To Be the Godを救済する会」の本部は日本にあるが、今は海外にも多くの支部があるらしい。どこの国にも自分の創った世界を救済したい人がたくさんいるのだとか。
『俺にできることはないでしょうか?なんとしても「To Be the God」を残したいんです!』
『君もTo Be the Godに大切な人がいるのかい?』
『はい…』
『僕もだよ。これからもよろしく。一緒に救済しよう!』
最初は何気なく始めた「To Be the God」だけど、あの世界で大切な人を守るために自分の人生を投げ出してでも、絶対に再稼働させたい。
俺はこのコミュニティを通じて、共通の目的に向けて色々な方法を模索することになった。
あとはゲーム内の世界の問題も同時に解決していかないとな。
俺はSNSのチャットを閉じると、VR機器をつけて再びゲーム内世界にログインした。
最初はずっと見守るつもりで初めて冒険者モードで「To Be the God」にログインした俺だけど、ついにクリスを気持ちが通じ合う仲になった。
そうなるまでにだいぶ葛藤した。「To Be the God」は3月いっぱいでサービス終了だし、何よりクリスはゲームの中の存在だ。現実世界にクリスが出てくるなんて、ロボット技術がまだ発展途上の現在では望めない。
ゲーム内のクリスはすでに俺にとっては現実の一つだけれど、簡単に消えてしまう儚いデータでもある。
それでも。
クリスはただのデータじゃなくて、自分で考え、意思をもち、俺を愛してくれる…大事な人だ。
そう感じることはやっぱり現実のもので、それが仮想か現実かなんて関係ない。そう、クリスが好きなことは現実なんだ。
だから、葛藤が完全に無くなった訳ではないけれども、クリスとともに生きることを決断した。純粋に俺を心配し、愛してくれるクリスの想いに応えたい。
俺はまず「To Be the God」で自分と同じような思いを抱えて困っている人がいないか、SNSで探してみた。
すると結構な人数で、この問題に向き合いなんとかしようとしている人たちがいることがわかった。
「俺だけじゃないんだ…同じ気持ちの人は。それなら、何か解決策がないのかな?」
SNSの中には「To Be the Godを救済する会」というコミュニティがあって、そこに迷わず俺も参加した。
そこではゲーム制作の技術を持つ人も参加していて、実際にセーブデータをどうするか、閉鎖後再び稼働するにはどうするか、著作権がどうかなどなど、自分たちが想像した世界をどうやってこれからも存続させるのか話し合われていた。
『初めまして、タケルです。俺も絶対To Be the Godを続けたいので、できることはしたいです!よろしくお願いします!』
と自己紹介のコメントをコミュニティに初めて残す。すると次々と『ようこそ~』『若い!』などのコメントがポップする。
現役高校生が加入したということで、コミュニティの参加者の皆さんに歓迎された。
俺は自分が気になっていることを質問した。
『今のセーブデータを残すにはどうすればいいですか?』
と質問したら、コミュニティ内のコメントでセーブデータを保存するための方法を詳しく教えてもらうことができた。そのままデータを今と同じところに置いておくと、ある日突然削除されてしまう可能性もあるらしい。
特に親切な極楽パンダさんというハンドルネームの人が、親切に教えてくれる。この人はこのコミュニティの管理人のような立ち位置の人で、技術的なことにもだいぶ詳しいようだ。
『他にも何かあるかい?一緒にこの危機を乗り越えよう!』
陽気なスタンプと共にメッセージが表示される。何歳の人かわからないけど、優しい人のようでよかった。
『サービス終了後に再びこの世界に入るにはどうしたらいいですか?』
と質問した。しばらく間があいて、極楽パンダさんの回答が表示される。
『それが今のところの一番の難題なんだよねえ…今現在有料サービスも停止されていて、運営の採算が取れないらしい。さらにはゲームの仕様にかなり残虐な部分もあったり、変なバグの報告もあるから、再び稼働するにはそういう問題も解決しないといけないだろうしね…』
『かなり難しいということでしょうか?』
『本気でなんとかするには、色々な問題をクリアしないといけない。一般人だけでは難しいかも。』
他にもコミュニティの皆さんから次々とコメントが書き込まれる。どれも極楽パンダさんの書いたことに近いような内容だ。どうやら「To Be the God」を再稼働するにはかなり高いハードルがあるらしい。
別の会社で稼働するにしても、開発した会社の著作権の問題もある。こうした問題の一つ一つを解決するには数年単位で取り組まないといけなさそうだと、ただの高校生の俺でもわかる。
ただ極楽パンダさんのコメントに気になる記述があったのでもう一つ質問する。
『バグってなんですか?プレイしててバグったことはないんですけど…』
『ああ、わかりにくいバグなんだよ。ゲーム内の世界に発生したバグ的なキャラクターが、プレイヤーの権限を超えた能力を持っていて、世界の維持を妨害してくるんだ。これってゲームの趣旨に反するだろ?』
『そうそう。どうやっても倒せないモンスターとか、変な魔法とかあったりするんだよな。』
『神でものぞけない情報遮断ってなんよ?って話だよな。万能じゃねーし』
『なぜか、俺たち創造者を排除しようとする動きもあるし。せっかく快適な世界を作ったのに維持するのは本当に難しいんだよ。』
極楽ぱんださんのコメントの後に次々とバグの情報が書き込まれる。
倒せないモンスターや変な魔法…は身に覚えがないが、情報遮断には身に覚えがある。
ヘレンさんの現在位置が表示されない不具合。あれがそうだったのか…。
『みなさんはそのバグはどうやって解決してるんですか?』
『解決するには直接プログラムをいじらないといけないから、解決しようがないんだよ。もしやってしまうと違反をしたプレイヤーとして管理側からBANされちゃうよ。』
BANとはアカウントが停止される処置のことだ。バグを無くそうとしてBANされるとは、なんだか理不尽な処置のような気がする。
『ええ!?ひどいですね』
『まあ、色々事情があってね…』
そう書いたのは扁平足さんだ。彼(彼女?)は「To Be the God」の運営会社に関わる人らしく、『ここだけの話』として社内事情を色々教えてくれた。
「To Be the God」はすでにサービス終了も決まっていて、採算も取れないコンテンツなので運営は現状維持のためだけの少人数がつけられていて、プログラムの修正をする人もいないらしい。製作側の主力は全て新しいゲームの制作に回されているのだとか。
再び極楽パンダさんのコメントがポップする。
『だから完全な解決には「To Be the God」の著作権買取、プログラムの修正、新しい運営方法の構築なんかが最低でも必要になってくるかな。』
『個人では無理ですね…』
『そうだね。だからこういったコミュニティが必要なんだ。海外にもあるんだよ。』
「To Be the Godを救済する会」の本部は日本にあるが、今は海外にも多くの支部があるらしい。どこの国にも自分の創った世界を救済したい人がたくさんいるのだとか。
『俺にできることはないでしょうか?なんとしても「To Be the God」を残したいんです!』
『君もTo Be the Godに大切な人がいるのかい?』
『はい…』
『僕もだよ。これからもよろしく。一緒に救済しよう!』
最初は何気なく始めた「To Be the God」だけど、あの世界で大切な人を守るために自分の人生を投げ出してでも、絶対に再稼働させたい。
俺はこのコミュニティを通じて、共通の目的に向けて色々な方法を模索することになった。
あとはゲーム内の世界の問題も同時に解決していかないとな。
俺はSNSのチャットを閉じると、VR機器をつけて再びゲーム内世界にログインした。
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