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第1章

25話 大聖堂で「お告げ」をする俺

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王都デレトニアにはファーレン王国の国教である統一教の総本部であるサクリア大聖堂がある。この大聖堂には統一教の頂点に立つ教皇マルヴィンが住んでおり、ファーレンを初め同じように統一教を信仰する大陸の全ての人にとって聖地でもある。

あのあと急いでギルドを出た俺たちは大聖堂に向かった。
大聖堂は俺の記憶では建立して100年は経つ荘厳な建物だ。この国の人たちの信仰心が現れるように、いつでも綺麗に管理されているため、王都を訪れる人々ーー信仰に関わらずーー必ず訪れる観光地でもある…はずなのだが。

「ずいぶん荒れてますね…」
「そうだな。王都のサクリア大聖堂といえば王都を誇る荘厳な建物として有名なはずだが。」

俺とクリスは大聖堂の荒れた様子に呆気に足られていると、キーレンが事情を説明してくれた。

「恥ずかしいことだが、ここ数年議会で大聖堂の整備予算が下りなかったり、お布施が減少しているようなんだ。この国の国教である統一教の総本部でもあるので、しっかりと保護する必要があるのだが…世論が政教分離に流れていてね。おかげで他国の統一教信者や古くからの信仰の篤いものから多くの陳情が寄せられているらしい。このままでは王族の支持も下がるばかりであろうな。」

キーレンは事情にやたらと詳しいようだが、それだけ公然の事実ということなのだろう。
確かに必ずしも神として全ての人を助けてきたわけではないが、この世界を創造主として人類を導いてきたことを思うと、このような扱いをされることには寂しさを感じる。
人は身近に神の存在を感じないと進行が薄れることはわかっているつもりなのだけど。

「タケル?顔色が悪いようだが大丈夫か?」

大聖堂の寂れ具合にやや気持ちが落ち込んでしまった俺にクリスが心配げに声をかけてくれた。
こんなところで落ち込んでいるわけにはいかない。何より今は子供達を一刻も早く助けることが先決だ。

「いえ、大丈夫です。ちょっと大聖堂が寂れてるのが悲しいなって。」
「俺たちに取っては身近な存在なのだが、王都ではそうでもないのだろうな…。大丈夫。きっと今回も神様が力をお貸しくださるよ。」

そう言ってクリスは優しく背中を撫でてくれた。

「今はとりあえず「お告げ」が必要なんだろ?急がなくていいのかい?」

大聖堂で立ちすくんでいた俺たちにベレッタが声をかける。

「ベレッタさんのいう通りですね。急ぎましょう!クリスさん!」


大聖堂に入り受付で事情を話すと、受付にいた職員が慌てて「少々お待ちください!」と言って奥に引っ込んでしまった。
10分ほどその場で待っていると、慌てて職員が戻ってきた。

「お、お待たせしました!まさか急にウーヌス村の生きる奇跡、クリス殿がお越しになるとは!こちらに小規模ですが神像を奉る礼拝所がありますのでそちらをご利用ください!」
「いや、急なお願いで申し訳ない。感謝する。」
「いいええ!とんでもございません!ではこちらへ!」

壮年の女性の職員が大きな声で恐縮しながら、道案内をしてくれる。やや興奮気味で周りの人に聞こえてしまってるんじゃないかと心配したが、大聖堂を訪れる人もまばらでそのような心配は必要なかった。

関係者専用の入り口より入り通路を進む。大聖堂の入り口にはある程度の人数が大聖堂を訪れていたが、職員専用の通路であるようで、他に人はほとんどいない。
内部は簡素だが、綺麗に掃除が行き届いている。現状を維持できているのは職員たちの努力もあるのだろう。
職員の案内でしばらく通路を進むと、豪華な扉が目の前に現れた。

「こちらになります。どうぞお進みください。」

職員が扉を開いてくれて部屋の中に入る。すると一人の聖職者が神像の傍にたっていた。
その聖職者は質素な神官服に身を包みながらも、その身から溢れる気配が高位の人物であることを示していた。
彼はもしや…。

「クリス殿。あなたの噂はかねがね聞き及んでおります。なんでも神のお告げに従い世界を救うため旅に出ておられるとか。よくぞサクリア大聖堂にお越しくださいました。」
「わざわざありがとうございます。あなたは…?」
「申し遅れました。私はこの大聖堂を預かるマルヴィンと申します。」
「マルヴィン様…もしや教皇猊下でいらっしゃいますか?」
「いかにも、神より教皇の職を戴いております。」

教皇の指定は俺が神の立場で毎回指定するようにしている。特にこの世代はクリスが生まれるので、俺の影響を与えやすい教会を指揮する人間が不埒な人間でいるわけにはいかない。候補の中から最も信仰に篤く、公平な判断が下せる人物を指定した。
そのためにやや若いながらも教会で信仰心も篤く、自己顕示欲が少ないながらも多くの人に慕われている彼は強硬であるにもかかわらず、人一倍現場に出て活動している。

自己紹介もそこそこに事情をマルヴィン教皇に説明し、神に「お告げ」を乞うことをクリスが伝えた。
すると教皇も「そういうことでしたら、私も協力しましょう。子供の救出は神も望むところ。必ずお応えくださるはずです。」と答え、一緒に願ってくれるようであった。
まあ今ここにいる俺が「お告げ」をするんだけどね。

クリスと教皇が神像の前に跪き、神に祈りを捧げ始める。残ったキーレン、ベレッタ、俺の3人はその少し後ろにある長椅子に腰をかけて祈るポーズを取った。
よし。
側から見ても祈りを捧げているようにしか見えないよな?この状態ならログオフしても疑われないはずだ。
俺はこの状態のまま一旦ログオフして、久しぶりに創造者モードに切り替えた。


一度咳払いをして、気持ちを切り替える。
視点を大聖堂の礼拝所に移し、祈りを捧げているクリスと教皇を指定して、「お告げ」モードを開始した。

『2人とも、祈りは届いている。』
「神よ、願いを聞き届けていただきありがとうございます。」
教皇が感謝の弁を述べる。
『何を聞きたいかはわかっている。連れ去られた子供たちは港から帝国へ明日には連れ去られるであろう。対応を急ぐのだ。』
「神よ。ありがとうございます。子供たちは無事でしょうか。」

おっとそこまでは調べていなかった。一度時間を止めてナビーを呼び出す。

「ナビー。若干曖昧な条件で人物指定して、ステータスを確認する方法はある?」
「キーワードによっては絞り込めない可能性はありますが、可能です。この創造者モードでのみ可能です。」
「それはいいんだ。今すぐ王都で港に捉えられている子供達が無事かどうかはわかる?」
「やってみましょう…「現時刻 ファーレン港 誘拐 子供」で検索してみます。130名ヒット…。衰弱した子供はいるようですが、この130名は今のところ生存しています。」
「ありがとう。また何かあったらお願いするよ。」
「これが私の仕事ですので。またいつでもお呼びください。」

そういうとナビーは再び虚空に消えていった。なんとナビーは検索とかも手伝ってくるのか。初めて知った。
説明書を読むのが苦手な俺はちょいちょいこういうことがあるんだよなあ…一度説明書を一通り読んでみた方がいいかもしれない。

さて知りたい情報も得たことだし、「お告げ」モードに戻る。

『今のところは無事だ。』
「神よ、奇跡をお与えいただきありがとうございます。」
『毎回答えるかどうかは約束できぬが、これからも身守ることとしよう。さらばだ。』
「「ありがとうございます。」」

クリスと教皇が再び祈りのポーズに戻ったことを確認して、「お告げ」モードを終了する。
慌てて再び冒険者モードにもどり、ログインした。


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