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第1章

22話 キーレンと打ち合わせる俺

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王都のギルドは規模が大きく情報収集には専用のコーナーが設置されている。
カツールでは大きいフロアに全部のコーナーが集まっているのだが、おそらく王都では集まる冒険者の数が段違いに多いのだろう。
機能ごとにフロアが分かれていて、1階は案内と報告のコーナー、2階には情報と依頼受領のコーナー、3階には応接室と事務員のフロアがあるらしい。4階はギルド長の執務室がある以外はよくわからない。

3人で先ほど言われた通り情報コーナーに向かうと、入り口付近にフードを被った男が話しかけてきた。
風貌は洗練された剣士という感じだ。すらりとした長身でクリスと同じくらいの身長、フードの陰から金髪がチラリと見える。

「君たちがカツールからきた冒険者か?」
「そうだが、あなたは?」

クリスが俺を守るように一歩前に出て応対する。

「ギルバートから聞いていると思うが、君達への協力者だ。王都のことは詳しいから力になれると思ってね。」
「あたしたちが何の依頼を受けているか知っているの?」
「もちろん。私も今回の事件は無関係ではなくてね。ぜひ、捜査にも協力させて欲しい。」

お互いに自己紹介をして、情報コーナーに入る。
情報コーナーではいくつか個別に話ができるブースがあり、それぞれ扉がついていて声が漏れる心配もなさそうだ。

「この部屋は防音魔法で音は遮断されているから、どんな内容でも会話ができる。安心してくれ。」

先ほど会った男はキーレンと名乗った。それ以上のことは話さず、そのまま事件の情報についてすり合わせが始まった。

「ギルバートからあらかじめ君達が来ることは聞いていたから、俺が関連する情報を集めておいた。私から簡単に説明するがいいか?」

3人ともキーレンの申し出に頷く。キーレンはギルド長のギルバートが言っていた通り、仕事が早いようだ。またギルド長を呼び捨てにしていたことからよほどの信頼関係があることがわかる。
しかし…この感じどっかで見たことある気がするなあ…。神としてこの世界を見ていたときに該当する人物がいたような気もするけど、人を覚えるのが苦手な俺は思い出せなかったので、そのまま話を聞くことにした。

「まず、誘拐事件の状況だが王都でもかなり頻発している。特に魔力が高めの子供が攫われていてその数はすでに100を超えている。騎士団も捜査をしているが、いずれのケースも一瞬にして姿を消すので具体的な手がかりは掴めていないようだ。」
「おそらくカツールでの事件と同じ手法だろう。タケルが見たっていう…」
「うん。マジックバッグでさらっているんだと思う。」
「ギルバートからその話は私も聞いている。初めに聞いた時は冗談かと思ったが、本当にマジックバッグを見たのか?」
「はい。犯人の男がマジックバッグを魔族の男に返すところを見ました。」

俺はもう一度自分が攫われた時の状況をキーレンに説明した。その後の騎士団の対応も。
話した後にキーレンは顎に手をあてて考え込むような仕草をした。

「いくらマジックバッグが伝説級のアイテムだからといって、有力な証言を無視する騎士団の反応はやはりおかしいな。やはり騎士団は魔族と繋がりがあると考えるのが妥当か。」
「さらにその後犯人の男は死に、俺たちは黒装束に襲われた。まずは騎士団を調査するべきだろう。」
「でもどうやって騎士団を調べるんだい?そんなに易々と尻尾を掴ませるとは思えないんだけどねえ…」
「そうだな…騎士団の者が魔族と関わっている現場が掴めれば、何とかなるのだが…」

キーレンがつぶやいて沈黙が訪れる。騎士団が十分疑わしいことははっきりしているのだが、どうやってその情報を得るのかが一番の問題だ。本当だったら、神権限で個人のステータスを見れば何を考えているのかなどは簡単にわかるけど、それではどうやってその情報を得たか説明が難しいしなあ…。

神権限を使えば、個人の性格や思考をどうこうする事以外は大体何とでもできる。でも起きたことに対して人々がどのように感じるかが一番大事だ。
これから先も人類が平和に生活していくためには、あくまで彼らが主体だということを徹底する必要がある。神に依存してしまうと人は途端に弱くなる。自分の努力も成果も神次第だと思ってしまえば、自ら努力することもしなくなる。かといって一度そういう風潮になってしまってから見放すと、彼らは絶望してとんでもない事態になる。俺は今まで崩壊してしまった世界を思い出しながら、どうやってこの事態を打開するするか考えた。

しばらくの沈黙の後、キーレンが口を開いた。

「まあとりあえず、ギルドからの協力要請を騎士団に出しておいて直接話を聞きに行ってみるか。何も掴めない可能性もあるが、何もしないよりはいいだろう。それにつついてみたら何か反応があるかもしれないしな。」
「そうだな。タケルもそれでいいか?」
「うん。僕もそれで。」
「あたしもそれでいいと思う。今日一度騎士団に行ってみて、夜もう一度今後の動きについて話し合おうじゃないか。」

全員の意見が一致し、ひとまず騎士団の庁舎にこれからいくことになった。
確かにこのまま手段を考えるよりも騎士団に行ってステータスの確認をしてみよう。案外情報がすぐ得られるかもしれない。

「だがその前にランチでも食べないか?まだ食べてないんだろう?」
「そうだな。ここにきてまだ何も食べてない。」
「せっかく王都に来たのだから、私のおすすめの店に連れて行こう。」


キーレンは王都の案内をするという名目通りおすすめの店も紹介してくれるという。
3人で彼の後についていくと、目の前には大きなレストランが立っていた。

「ここは大体のものが美味しいんだが、中でも牛肉のタルタルとポテトフライはちょっとした名物なんだ。もちろん魚もあるぞ。」
「個室の部屋など高いのではないのか?」
「気にするな。ある程度の資金をギルバートから預かっているから。」

大きなレストランに入ってそのまま個室へと連れて行かれた。キーレンは手慣れた様子で個室に入ると着席して、俺たちに席に着くように促した。
何だか高級そうなんだけど、キーレンは手慣れているように見える。何度も思い出そうとしたが、全く思い出せなかった。
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