上 下
17 / 91
第1章

16話 騎士団に出頭する俺

しおりを挟む
翌日、ギルドは昨日捕らえた男を騎士団に引き渡した。
そこに俺は付き添いはしなかったが、ギルド長であるレオナルドがそう言っていたので多分実行されたのだろう。
そしてクリスと二人で遅めの朝食を取っていたところに、騎士団からの伝達役の者がやってきた。

「これからすぐですか?」
「はい、いますぐ私とともに騎士団に出頭いただきたく。」
「わかりました。すぐ準備します。」

クリスにいますぐ来るように呼ばれたと伝えて、2人で急いで準備をして騎士団の庁舎に赴く。
外ではすでに誘拐事件が解決されたことで町は沸き立っていた。

新聞屋はどこで情報をもらって、いつ書いているんだかわからないな。
そう思いながら10分ほどで騎士団の庁舎に到着した。

騎士団の庁舎は堅実な3階建てで、所々鉄格子がついているのが見える。
現実世界での警察署を思い出して、やや緊張する。

「タケル、大丈夫か?俺が代わりに話してもーー」
「大丈夫ですよ。さあ行きましょう。」

そう微笑みながら返すと、クリスは「隣にいるから」と肩を叩いてくれた。
こういうさりげない心遣いも本当に心が温かくなる。

別に自分が何か悪いことをしたわけではないから、安心して全部話そうと心に決めたのだが…。


「それで?魔族がなんだって?」
「だから!この男に指示をしている魔族の男が一緒にいたんですってば!」

さっきからこのやりとりを何度しただろうか。
俺から事情聴取を受ける騎士はポリポリと頭をかきながらあくびをかく。

「はぁ~そんな証拠もないのだろう?お前の見間違えなんじゃないのか?」
「そんなわけないですよ!例え暗くても特徴的な耳の形とか雰囲気はわかります!」
「犯人の男だってその魔族の男からマジックバックを借りたって言ってたでしょう?」
「そんなことは言ってなかったぞ?方法については全く不明なのだ。」
「いや、だからそれは…」
「これ以上しつこくいうようなら幻覚持ちとして病院に強制収容することも検討するぞ」
「なっ!」
「タケル、その辺にしておこう」

俺の供述を聞きながら書いている調書には魔族のまの字も書かれてはいなかった。
完全に魔族のところだけ意図的に無視されているところを見て、黙っているわけにはいかずに声を荒げたがクリスに止められてしまった。

「クリスさん!」
「タケル、これ以上言っても無駄のようだ。もう帰ろう。」

目の前で不正が行われているのに、何もできないなんて…
こんな状況で神の権限を使ったところで、なんの解決にもならない。
クリスに諭されて振り上げそうになった拳をぐっと下げた。

「そうだ、それでいい。今回の件は君たちのおかげで多くの子供が救われた。騎士団としてもちろん感謝しているよ。ただし、思い込みで魔族を貶めるのはやめた方がいいぞ。」

見下した態度で男が言い放つ。このーー!

「それでは私たちはこの辺で失礼していいですね。」

クリスが俺の腕を取って取調室から出ようとすると、男は帰れ帰れと手をふった。
俺は心中では怒りで煮え繰り返っていた。


「あいつ~~!すっごい腹立ちます!」
「きっとあの男だけの話ではないだろう。騎士団が相手をしてくれないというベレッタの話は本当だったようだな。タケルの気持ちはとてもわかるが、あそこで食い下がっても良くないと思ったんだ。」
「はい…止めてくれてありがとうございます。クリスさん。」

きっとクリスがいなかったら、とことん食い下がっていたかもしれない。
俺よりも精神的に大人であるクリスについてきてもらって本当によかった。


俺たちは昨日レオナルドに言われていたように騎士団から出てそのままギルドに顔を出した。
昨日保護した子供達の親御さんたちに会うためだ。

ギルドに入るとすでに概ね集まっていたようで、ちらほら子供の姿も見える。
まだショックで本調子でない子もいるのだろう。

ベレッタの姿はまだ見えない。

「ああ!あなたがたが!うちの息子を助けてくれてありがとうございます!」

集まった人の一人がこちらに気がついて感謝の言葉を口にすると、その他の人たちも次々と感謝の言葉を述べる。
俺は現実世界であまり人を助けた経験はないけど、こういうのは本当に嬉しいものだな。

人のためにと思ってやったことが、素直に感謝されないことも世の中にはたくさんある。
この世界を作ってからも何度もそうした失敗を繰り返してきたし。

しばらく俺とクリスは親御さんたちに囲まれて繰り返し感謝の言葉を告げられたが、そのうちに彼らは家にいる子供が心配なので…と早々に切り上げ家に戻っていった。
まああんなところにしばらく拘束されていたのだから、心のケアも必要だしな…。早く子供達には元気になってほしいな…。

なんて思っているところで、ギルド長から呼び出しを受けていると職員から声をかけられて、そのまま応接室へと二人で移動した。


応接室ではギルド長であるレオナルドとベレッタがすでに着席していた。

「あれ?ベレッタさんどうしてこちらに?」
「ああ、私はああいうのはちょっと…苦手でな。それに昨日活躍したのはほぼタケルだろ。私は裏から入ったんだ。」

まあ…戦うまもなく鎮圧してしまったからな…苦々しい顔をして俺は着席した。

「それで、どうだった?騎士団の反応は?」

レオナルドが口を開く。まあ多分聞く前からどういう反応かはわかっているんだろう。

「昨日ベレッタさんが言っていたように「魔族は関係ないだろう」で取り付く島もありませんでした。」
「やはり、そうか…」

レオナルドが顔を渋くさせて、腕を組み考え込んでいる。

「実はな、あのあとギルドでもあの男を事情聴取したんだ。」
「え!そうなんですか!?」
「その時言っていたのがな…」

レオナルドの話によると、犯人の男は元々借金で困り果てていたところに、魔族の男に金になる話があるときいて飛びついたらしい。それでなんのために攫っているのかはわからないが、この後王都に子供たちを移送する予定でもあったという。男はそれ以上のことは本当にわからないようだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...