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「ちょっと乱暴に開けないでよ。いいところだったのに。」
ああ~誤解されるようなことを…
「いいところとはどんなところだったのだ!はっきり言ってみなさい!」
顔を真っ赤にして憤るドゥーガル。それに対してレメディオスは最初に見せたようないたずらっ子の顔をして返す。
「もちろん、い い こ と だよ?」
「レメ~!貴様!私だって何もしてないのに」
「まあ待て、手にノートとペンを持ってるだろ?いつものあれ、だろ」
怒り心頭のドゥーガルとは対照的に冷静に戻るルシアーノ。さすが戦いのプロは状況判断が早い。
言われたドゥーガルも状況を冷静にみて、何もなかったことがようやく分かったらしく落ち着いてきた。
「何もしてなかったとはいえ、急に保護したところから攫う必要はなかっただろう。」
子どもに諭すようにルシアーノが落ち着いて話すと、レメディオスはむすくれた顔をして反論する。
「だって普通に言ったって絶対に合わせてくれなかっただろ?多少乱暴でもこうして会えたわけだし。僕だって大会に出るんだから異世界人がどんな人物か知っておきたいじゃないか。」
「なっ!お前も大会に出るのか?普段研究しかしてないお前が?」
おや、ルシアーノさんがびっくりした顔は珍しい。
「その普段研究してない人間のおかげで、この領の予算が潤沢にあるってこと忘れてない?ちなみにサトルをさらった方法は新たに開発された「魔導式転送術」のおかげなんですぅ。これのおかげでまたこの領栄えちゃうよね~?」
「な!転送術!もう完成させたのか?」
今度はドゥーガルが驚いた顔をする。この人の普段の凛とした顔と素顔のギャップすごいな。
親しみやすいかも。
「ふふ~。サトルと会うために俺頑張っちゃった。僕だってサトル気に入っちゃったんだもん。大会に出るからね!」
今度はニコニコと純粋無垢な少年の笑顔を浮かべるレメディオス。こうしていれば普通に可愛いのに。
いやいや、何を俺は!
うっかりこの世界のノリに思考が奪われそうになるのを、元に戻しつつ話の続きを聞くことにする。
目の前の3人が皆揃いも揃って美形で、気を抜くと全部受け入れていまいそうになる。
ここは敵地ぞ。我が尻の存亡の危機ぞ。もっと気を引き締めるのだ聡。
「転送術は1000年前の文献でしか存在が知られていない失われた技術。それを新たに開発したとなれば急いで国に報告しなければいかん。」
ドゥーガルが慌てた様子で話す。
「まあ、待て。とりあえずサトルの身を今後どうするか、この先の段取りをこの3人でざっときめちまおう。その後でも、なんならこの一件が終わった後でもいいんじゃねえか。国はお前に文句は言えねえだろ。」
「そうだよドゥーガル。まずは一番大事なサトルについてこの3人で話しあおうよ。」
どうやらこの領の3大権力者がこの俺がベッドに座っている真横で打ち合わせを初めてしまうらしい。
「あ、ところでサトル。」
レメディオスが打ち合わせの準備を急遽始めることになって、バタバタと魔導師団の方達が会議の準備を進めている間話かけてきた。
「何、レメ?」
「サトルは元の世界で何をやっていたの?」
「何って…経理だよ」
「ケイリ?何それ?」
「簿記って知識で、財産とか会社の損益とかを計算する仕事だよ」
「ボキ?カイシャ?へええ~、なんだか興味深いな!もっと聞かせてよ!」
「何も面白いことなんかないぞ?日々数字と睨めっこの地味な仕事だよ。」
「計算できるってのもこの世界ではごく限られた貴族しかできないんだよ!それにこの領、予算はだいぶついてるのになぜか常にジリ貧なんだ。もしかしたらサトルの知識が役に立つかも!」
そういえば俺、この世界にきてから食っちゃ寝ばっかしてて、何も仕事らしいことしてないな。
確かに自分にできることを何か始めた方がいいのかもしれない。
「この後の打ち合わせでドゥーガルに話しておくから、もしできることがあったら…お願いサトル。」
う~ん。このレメさん、いたずらっ子の上におねだりも非常に上手。この子に勝てる気がしない。
「分かったよ。レメ。できることがあったら、な。」
「やった~ありがとサトル。」
にっこり笑うレメさんはやっぱり可愛いな。どこか憎めない。
はっ!いかんいかん!
結局、領主と騎士団長、魔導師団長によるカリトゥス領3大巨頭会議の結果、俺の身柄は一時ドゥーガルの領主屋敷で預かられることとなり、さらにルシアーノとレメの2人もこの一件が終わるまで同じ屋敷で過ごすこととなった。さらにはジナさんも俺のお世話のために屋敷にきてくれることになったのだ!
あの紅茶美味しかったから、飲めるのが地味に嬉しい…。
今後の予定だが、1週間後に俺のお披露目式及び女神への報告の儀式を行うことになった。3人の話を聞いていると、どんどん話が大きくなっていくことにかえって怖くなってきてしまった。
特に予算。1000人以上も人を集めて、臨時食堂やトイレの開設、儀式の費用などなど考えていくと背筋がさむくなる。俺はお金が出ていくことに恐怖を抱く性格だったのを忘れていた。
ちなみに俺の趣味はネット銀行の残高を毎晩見ることだ。
で、俺の元いる世界での能力がようやく生かせる機会に恵まれた。ドゥーガルの頼みでもある、カリトゥス領予算の会計処理を頼まれた。
久々の規模の大きい仕事に胸がときめく。オラ、ワクワクしてきたぞ!の気分だ。
ああ~誤解されるようなことを…
「いいところとはどんなところだったのだ!はっきり言ってみなさい!」
顔を真っ赤にして憤るドゥーガル。それに対してレメディオスは最初に見せたようないたずらっ子の顔をして返す。
「もちろん、い い こ と だよ?」
「レメ~!貴様!私だって何もしてないのに」
「まあ待て、手にノートとペンを持ってるだろ?いつものあれ、だろ」
怒り心頭のドゥーガルとは対照的に冷静に戻るルシアーノ。さすが戦いのプロは状況判断が早い。
言われたドゥーガルも状況を冷静にみて、何もなかったことがようやく分かったらしく落ち着いてきた。
「何もしてなかったとはいえ、急に保護したところから攫う必要はなかっただろう。」
子どもに諭すようにルシアーノが落ち着いて話すと、レメディオスはむすくれた顔をして反論する。
「だって普通に言ったって絶対に合わせてくれなかっただろ?多少乱暴でもこうして会えたわけだし。僕だって大会に出るんだから異世界人がどんな人物か知っておきたいじゃないか。」
「なっ!お前も大会に出るのか?普段研究しかしてないお前が?」
おや、ルシアーノさんがびっくりした顔は珍しい。
「その普段研究してない人間のおかげで、この領の予算が潤沢にあるってこと忘れてない?ちなみにサトルをさらった方法は新たに開発された「魔導式転送術」のおかげなんですぅ。これのおかげでまたこの領栄えちゃうよね~?」
「な!転送術!もう完成させたのか?」
今度はドゥーガルが驚いた顔をする。この人の普段の凛とした顔と素顔のギャップすごいな。
親しみやすいかも。
「ふふ~。サトルと会うために俺頑張っちゃった。僕だってサトル気に入っちゃったんだもん。大会に出るからね!」
今度はニコニコと純粋無垢な少年の笑顔を浮かべるレメディオス。こうしていれば普通に可愛いのに。
いやいや、何を俺は!
うっかりこの世界のノリに思考が奪われそうになるのを、元に戻しつつ話の続きを聞くことにする。
目の前の3人が皆揃いも揃って美形で、気を抜くと全部受け入れていまいそうになる。
ここは敵地ぞ。我が尻の存亡の危機ぞ。もっと気を引き締めるのだ聡。
「転送術は1000年前の文献でしか存在が知られていない失われた技術。それを新たに開発したとなれば急いで国に報告しなければいかん。」
ドゥーガルが慌てた様子で話す。
「まあ、待て。とりあえずサトルの身を今後どうするか、この先の段取りをこの3人でざっときめちまおう。その後でも、なんならこの一件が終わった後でもいいんじゃねえか。国はお前に文句は言えねえだろ。」
「そうだよドゥーガル。まずは一番大事なサトルについてこの3人で話しあおうよ。」
どうやらこの領の3大権力者がこの俺がベッドに座っている真横で打ち合わせを初めてしまうらしい。
「あ、ところでサトル。」
レメディオスが打ち合わせの準備を急遽始めることになって、バタバタと魔導師団の方達が会議の準備を進めている間話かけてきた。
「何、レメ?」
「サトルは元の世界で何をやっていたの?」
「何って…経理だよ」
「ケイリ?何それ?」
「簿記って知識で、財産とか会社の損益とかを計算する仕事だよ」
「ボキ?カイシャ?へええ~、なんだか興味深いな!もっと聞かせてよ!」
「何も面白いことなんかないぞ?日々数字と睨めっこの地味な仕事だよ。」
「計算できるってのもこの世界ではごく限られた貴族しかできないんだよ!それにこの領、予算はだいぶついてるのになぜか常にジリ貧なんだ。もしかしたらサトルの知識が役に立つかも!」
そういえば俺、この世界にきてから食っちゃ寝ばっかしてて、何も仕事らしいことしてないな。
確かに自分にできることを何か始めた方がいいのかもしれない。
「この後の打ち合わせでドゥーガルに話しておくから、もしできることがあったら…お願いサトル。」
う~ん。このレメさん、いたずらっ子の上におねだりも非常に上手。この子に勝てる気がしない。
「分かったよ。レメ。できることがあったら、な。」
「やった~ありがとサトル。」
にっこり笑うレメさんはやっぱり可愛いな。どこか憎めない。
はっ!いかんいかん!
結局、領主と騎士団長、魔導師団長によるカリトゥス領3大巨頭会議の結果、俺の身柄は一時ドゥーガルの領主屋敷で預かられることとなり、さらにルシアーノとレメの2人もこの一件が終わるまで同じ屋敷で過ごすこととなった。さらにはジナさんも俺のお世話のために屋敷にきてくれることになったのだ!
あの紅茶美味しかったから、飲めるのが地味に嬉しい…。
今後の予定だが、1週間後に俺のお披露目式及び女神への報告の儀式を行うことになった。3人の話を聞いていると、どんどん話が大きくなっていくことにかえって怖くなってきてしまった。
特に予算。1000人以上も人を集めて、臨時食堂やトイレの開設、儀式の費用などなど考えていくと背筋がさむくなる。俺はお金が出ていくことに恐怖を抱く性格だったのを忘れていた。
ちなみに俺の趣味はネット銀行の残高を毎晩見ることだ。
で、俺の元いる世界での能力がようやく生かせる機会に恵まれた。ドゥーガルの頼みでもある、カリトゥス領予算の会計処理を頼まれた。
久々の規模の大きい仕事に胸がときめく。オラ、ワクワクしてきたぞ!の気分だ。
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