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その32 君をすべて喰らいつくしてしまいたい

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 ◇◇◇

『あなたはわたくしをどうしたいのですか』

 真面目な顔で問いかけられて思わずむせるフィリクス。

(なっ!?こ、これは私を試しているのか?)

 この世でただ一人の愛する番。運命の恋人。そんなの、食べてしまいたいに決まっている。身も心もすべて己の物にして、魂までも喰らいつくしてしまいたい。魂の欠片すら残さず、未来永劫自分だけのものにするために。

 だが、獣人族でさえ震え上がる竜人族のその恐ろしいまでの欲望と執着を、果たしてアイリスは受け止めてくれるだろうか。アイリスにただ嫌われるだけなのでは?女心を少しは学んだ気になったフィリクスは、慎重に言葉を選ぶ。

「私は、もっと君のことを知りたいんだ。そして、私のことももっと君に知ってもらいたい」

『どうしてですか?わたくしとあなたはなんのかんけいもないのに』

 なんの関係もない……アイリスの口から発せられたその言葉にフィリクスは血反吐を吐きそうになる。

(なんの関係もないだと!アイリスと私が!アイリスと!私が!!!)

 悲しみで胸が張り裂けそうだ。

 後ろで真っ青になって聞いていたマリー達が、

「い、いけません。番様。それ以上は……」

 と静止の声を上げるが、アイリスはフィリクスから目を逸らさずになおも口を動かす。

『わたくしはアスタリアのおうじょ。ドラードこくおうのはなよめです……あなたのはなよめにはなれません』

 持っていたスプーンを静かにテーブルの上に置くフィリクス。そっとアイリスを椅子に座らせると静かに微笑んだ。

「わかったよ。やはり私が間違っていたようだ。いますぐ君の憂いを晴らしてくるから待っていてくれ」

 ざわざわと竜化を始めるフィリクス。部屋の窓が激しく揺れる。

「へ、陛下!何をなさるおつもりですか!?」

「ああ、マリー。悪いがアイリスの食事の続きを頼めるか?私はちょっと用事を片付けてくる。なに、夕食までには戻るから心配はいらない」

 竜化を始めたフィリクスの金の目が、憎しみにギラギラと光る。

「いけません陛下!リリー!サリー!陛下を止めて!」

「い、いや、無理でしょ!」

「私たちに陛下を止められるわけないでしょ!」

「そんなの分かってるわよ!サリーはダイアン様を呼んできて!!!早く!リリーは番様を安全な場所にってああ!!!もうどうしたらいいの!陛下!竜化を抑えてください!!!王宮を壊す気ですか!番様に嫌われますよ!!!」

 マリーの言葉にピクリと反応するフィリクス。竜化して鋭く長く伸びた爪を見てはっとして振り返ると、呆然とした顔でフィリクスを凝視するアイリスと目が合った。

(ああ!怖がらせてしまうかもしれない……)

『りゅう……』
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