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27 裏切りの代償

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 ◇◇◇

「お姉様!」

「「「お姉ちゃん!」」」

 駆け寄ってくるキャロルちゃんと子ども達の姿を見てほっとする。騎士達が無事助け出してくれたようだ。

「どうしてそんな無茶をなさったんです……」

 ぐったりとした様子でジークに抱えられている私を見て、ポロポロと涙を流すキャロルちゃん。危ないことはしないって約束したけど、目の前で奪われる命に我慢ならなかった。たとえそれが悪人だったとしても。

「母上……」

 拘束された女を見てロイスがポツリと呟いた。

「あんた、こんなとこで何やってんだよ……」

「その女は王妃殺害の実行犯だ」

 ジークが冷たく言い放つ。

「……はっ?王妃殺害?嘘だろ……」

「本人が認めている」

「なぁ、母上、嘘だろ?あんたはそんなことしてねーよな?」

「う、うう、なんで私がこんな目に合わないといけないのよ。許さない……こんなの間違ってる……」

 ブツブツと呟く様子はどこか異様で。必死に呼び掛けるロイスの声も届いていないようだった。

 ふわりとマントにくるまれて寝かされ、ゆらりと立ち上がると腰の剣に手をかけるジーク。ジークが剣……?あの女がロイスの母親で、王妃殺害の実行犯?ただの誘拐犯じゃなくて?訳がわからない。


「そこをどけ。こいつは今ここで殺す」

「は?嘘だろ……」

「本気に決まってる。王妃である母を殺し、今また私の大切な人まで殺そうとした。どうせ死罪だ。衆人環視の中で処刑されるよりましなんじゃないか?」

(王妃が母……じゃあ、ジークはっ!……)

「待って、待ってくださいジークハルト殿下!」

「どけと言っている」

 訳がわからず混乱する。

「ソフィア様、しばらくお待ちいただけますか?」

「ジーク……」

 頬にふれたジークの手をぎゅっと握ると困ったように微笑むけど、その身体は強張り、震えていた。

 ロイスはぎりっと歯を食いしばると、低く呟いた。

「分かった」

「いい心掛けだ」

 ロイスは女に近付くと騎士達に拘束された女をそっと抱き起こす。

「母上……」

 どこか焦点の合ってない目。相変わらずブツブツと恨み言を言う様子はとても正気のものとは思えなくて。ロイスは女をぎゅっと抱き締めた。

「あんたみたいな馬鹿な女、ほんと見たことねーよ。しょーがねーから俺が一緒にいってやるよ。最後まで面倒みてやるから」

「ロイス……」

「ロイス様……」

 キャロルちゃんが私たちの元に駆け寄ってくる。

「何が、一体どうなってるんですの?ロイス様は……」

 私にも分からない。

「ジーク……」

 目をそらすことなく二人を見つめるジーク。ジークは、本当は……

「ジーク、帰ろう」

「……ソフィア様?」

「私ね、疲れちゃった。キャロルちゃんも大変な目に合ったし、子ども達も大変なの。すぐにお医者さんに見せて欲しいの。ジークは、私のそばにいてくれるんでしょ。このまま抱いていって」

「ソフィア様!」

「お願い、ジーク……」

 ジークは食い入るように私を見つめると、ふっと肩の力を抜いた。

「ソフィア様のお願いなら、断れませんね……いい。その女も連れていけ」

 騎士たちに指示を出すジーク。

「ロイス殿はどうされますか」

 母親をずっと抱き締めたままのロイス。

「……一緒に連れて行ってやれ。乱暴はするな」

「はっ」

 嵐のような一日が終わろうとしていた……
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