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17 王都の情報屋
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「取りあえず今日は帰ってきたばかりで疲れてるから部屋で休むわ。お昼寝したいから夕食の時間になったら起こしてくれる?」
「かしこまりました」
二人に声をかけると部屋に入る。制服からなるべく目立たない地味な洋服に着替えると、私は早速屋敷を抜け出した。まさか帰ってきてすぐに出掛けるとは思うまい。今が一番隙があるのだっ!
アリサは馬車を使うと思っているだろうが実は情報屋のいる場所は屋敷からそれほど遠くない。歩いても十分位でいける距離だ。まんまとアリサを出し抜いた私は意気揚々と歩き出した。
王都でも一二を争うと評判の宿屋。ここが目的地だ。カウンターに顔を出すと顔見知りの従業員が愛想良く挨拶をしてくれる。
「これはソフィア様、いらっしゃいませ。お坊ちゃんにご用ですか?」
「うん。久し振りにラファエルの顔みたくなっちゃって。今いるかな?」
「ええ。お呼びしますね」
「その必要ないよ。そろそろくる頃だと思ってた」
振り返るとちょうど階段からラファエルが降りてくるところだった。豪華な金髪の巻き毛に目の覚めるような碧眼。その名の通り天使そっくりな愛らしい容姿のこの少年こそ、正体不明だが腕は確かと評判の情報屋だ。
実は以前通ってた学校の同級生で、ひょんなことから裏家業を知ってしまった。正体をバラさない代わりにたまに知りたい情報を教えて貰っている。
「ラファ!久し振り!元気だった?」
「君は相変わらず元気そうだね。おいでよ。いい紅茶が手に入ったんだ」
案内されて部屋に入ると軽く溜め息を吐かれる。
「全く、実家に直接情報を聞きにくるなんて君くらいのものだよ」
「いいじゃない。このほうが確実に会えるでしょ」
「はぁ、まあいいけどさ。それよりも聞きたいことはおじさんのこと?ジークのこと?もしくは婚約者のこととか?」
「さすがラファ!もう情報を掴んでるのね!」
「といっても、おじさんとジークが行方不明ってことぐらいだけどね。街でも評判だよ」
「ジークだけじゃなくてお父様まで行方不明扱いなんだ?」
「二人ともその後の姿を見かけた人がいないんだ。消息がぱったり途絶えてるところがおかしいよね……」
自分が意識していなくとも、街を歩いていれば誰かの目には留まるものだ。目撃証言がないということは、どこかに捕らわれてるか、行動を制限されている可能性が否定できない。
「ただ、おじさんもジークも自分の意志で姿を消してるみたいだからね。あの二人が本気で隠れる気なら情報は上がってこないよ」
「そっか、ラファでもそうなんだね」
「まあね。僕は多方向から集まってくる情報を分析してるだけだから」
「じゃあ、ロイスのことは何か分かる?」
「噂の婚約者殿だね。そっちは近衛騎士に連行されたことでかなり噂が広まってるよ」
「ロイスが何かやったのかな?」
「その可能性は低いだろうね。彼、使用人や社交界のご婦人方からは意外と評判良いんだよ。知ってた?高位貴族のご婦人方からは後腐れなく遊べる相手として重宝されてたみたいだし」
「まぁ、害のなさそうな女好きではあるわね。そうなるとやっぱり……家絡みってこと?」
「そっちはかなり悪名が轟いてるからねぇ」
「そうなんだ」
「シリウス伯爵と伯爵夫人には前伯爵夫妻の暗殺疑惑も根強く残ってるしね」
「えっ!?なにそれ……」
「二十年前の嵐の夜に夫婦そろって馬車で崖下に転落したことになってるけど、貴族が普通そんな嵐の夜に馬車で出掛けると思う?」
「そうね……」
「しかも跡継ぎの嫡男は外国で行方不明。その嫡男が見つかるまでという条件で遠縁で子爵家の次男だった現伯爵夫婦が伯爵家に入り込んだんだ」
「伯爵家には嫡男がいたの?」
「ああ、国王陛下の乳兄弟で、なんでも学園を卒業して直ぐに遊学の旅に出たとかで。いまだに消息不明らしいよ」
「もしかして嫡男にも何かしたとか……」
「その可能性も否定できないね。ただ、あくまでも噂の範囲だ。残念なことに目撃証言も状況証拠もない」
「そう……」
(本当かどうかはさておき、そんな噂が流れてたんじゃ社交界での評判が最悪なのも頷けるわ。ロイスも苦労したのね……)
「でも、そのことと今回の事は関係ないよ。何か別の事件があったはずだ。じゃないと近衛騎士が動くのはおかしいからね」
「そっか、そうよね」
「国家の根本に関わる事件が起こったと思って間違いない。例えば、王族の暗殺とかね……」
「王族の暗殺!?」
まさか、そんな……
「も、もしかしてジークが王命を覆すために陛下を殺害しようとして追われてるとか……いやいや、まさかそんな……そ、それで当事者であるロイスが呼ばれたとかっ!?いや、でもそれだと私も呼ばれるはずよね……」
あわあわと慌てふためく私をラファエルが面白そうに見ている。
「ふーん?ジークとは少しは進展したみたいだね」
ニヤリと笑われてハッとする。
「ちょっと!私の情報は持ち出し禁止だからね!?」
「はいはい、わかったわかった」
「絶対よ!?絶対だからね!?」
ラファエルに口止めすると私は宿屋を後にした。結局今時点で有力な情報はないということだった……直ぐに見つかるとは思ってなかったけど、こんなに情報が無いというのも不安がつのる。
「もうー!何がどうなってるのよー!」
思わず叫んだ私の背後から忍び寄る影……
「ようやく見つけましたよ……覚悟はよろしいですね?」
ギギギっと振り返るとそこには完璧にキレてるアリサの姿があった!
「ご、ごめんなさーい!」
「許しませんっ!」
こうして私はアリサによって、あえなく屋敷に強制連行されてしまうのだった。
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