上 下
10 / 50

10 王室に巣くう悪意

しおりを挟む
 
 ◇◇◇

「暗殺計画には部屋の護衛をしていた衛兵達も関わっていました。もはや誰も、信用出来ませんでした」

「なんてことだ……お前がたったひとりで苦しんでいたというのに。そうとも知らず手をこまねいていたとは。私はなんて愚かだったのだ……」

「私を、探して下さっていたのですか」

「信頼できる手のものに、内密に捜索を依頼しておった……これ以上私から何も奪ってくれるなと、お前の無事だけを毎日祈っておった……」

「父上……」

「もう、どこへもいくな。いいな」

「はい。これからは父上のお側におります」

 父は満足そうに頷くと厳しい表情で衛兵を呼んだ。

「王太子殺害未遂の実行犯だ。ガライアスを今すぐ捕らえよ」

「父上……」

「どうした」

 あまりにも残酷な事実を告げなくてはならない。本当はずっと、隠しておきたかった。誰よりも父のために。父はこの真実に耐えられるだろうか。

「恐らく……王妃暗殺の首謀者でもあります。そして、実行犯は……シリウス伯爵夫人、バーバラです」

「なっ!まさか、そんな。ジョセフィーヌは病で少しずつ弱っていって……」

「そうした毒を、盛られていたのです。毎日毎日少しずつ。最も信頼していた……妹の手によって」

 シリウス伯爵夫人バーバラ。妾腹の娘であるバーバラを母は大切な妹として側に置き、筆頭侍女として取りたて可愛がっていたというのに。

「なんてことだ……ガライアス、バーバラ……どうして、なぜだっ」

 父の悲しみが痛いほど伝わってくる。幼い私を絶望させたその事実が今度は父の心を蝕んでしまうだろう。それでも……

 ◇◇◇


「残念……苦しんで死んでいく様子をみたいと思っていたのに……」

 男たちの声に混じって甲高い女の声が響く。

(この声……バーバラ叔母様!?まさか……)  

「美しかったジョセフィーヌお姉さまも最期は醜くやせ衰えて死んでいったわ。私、あの子を頼むって何度も何度もお願いされたのよ。宝石のように美しい瞳に涙を一杯浮かべて。私に毒を盛られているとも知らずにね」

 クスクスと楽しそうな笑い声が耳にこだまする。

(……そんな……母上……)

「可哀想なジョセフィーヌお姉様!今頃愛する息子と離ればなれになってさぞ寂しがってると思うわ。だからねえ、早く連れて行ってあげましょう。お姉様のところに……」

 甘く囁くようなその声に足が震えた。

(怖い、怖い、怖い!)

 物音一つでも立てたらきっとすぐに見つかってしまう。そう思った私はひたすら息を潜めて誰もいなくなるのを待ち続けた。


 ◇◇◇


 人の気配が消えてしばらくたった後、秘密の部屋から続くトンネルをとぼとぼと歩き始めた。どこに続いているのかは知らなかったが、部屋に戻る気にはとてもなれなかった。

 このままではいつかきっと殺されてしまう。もう誰も信用できない。叔父上も叔母上もあれほど良くしてくれたのは全て偽りだった。

 気がつけば走り出していた。とにかくこの場所から逃げたかった。果てしなく続く暗闇を走って走って。

 ―――――辿り着いた先に天使を見つけたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

守銭奴令嬢は、婚約破棄を請け負いました。

三歩ミチ
恋愛
 特待生として貴族学院に在籍するメイディ・ジュラハールは、魔導具を完成させるため、お金が欲しかった。  ある日、アレクという高位貴族に、「婚約破棄」への協力を依頼される。報酬は大金貨十枚。破格の報酬に目がくらんだメイディは、彼が卒業パーティで婚約破棄をするまで、「恋人のふり」をすることとなった。  恋を知らないメイディは、恋とは何かを知るところから、アレクと二人三脚で演じ始める。  打算で始まったはずの関係は、やがて、互いに本当の恋になる。 ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

公爵令嬢のささやかな悩み~浮気な婚約者に別れを告げたら年下腹黒王子に秒で捕まりました~

しましまにゃんこ
恋愛
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっかり自信を失ったエリーゼ。 華奢な彼女は、婚約者に寄り添う胸の豊かな令嬢に対し、敗北感を募らせていた。どうやら婚約者は運命の愛を見つけたらしい。 「この婚約は破棄するしかないわね」 私もできれば愛する人と結ばれたかった。でも、自分には叶いそうにない。惨めさに思わず涙がこぼれる。 とそこに、幼いころともに遊んだ王太子殿下が現れて。 「ねえ、君を泣かせたのは、あいつ?」「僕なら泣かせないのにな」 ぐいぐい迫ってくる殿下の真意は!?エリーゼの恋の行方は!? 小さなコンプレックスに悩む可愛い公爵令嬢と、公爵令嬢の全てを奪いつくしたい見た目天使、中身腹黒な初恋拗らせ王太子殿下の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

処理中です...