上 下
7 / 50

7 願いの実現

しおりを挟む
 
 ◇◇◇

 元は立派だったであろう多少くたびれた馬車から降りてきたのは、どこか退廃的な雰囲気を感じさせる少年だった。父が美少年と言うだけあって、確かに顔立ち自体は悪くない。しかし、それ以上に暗い目をしていることが気になった。

「ようこそロイス殿。わざわざ御足労いただいて申し訳ない。娘のソフィアです」

「初めまして。ソフィア・アルサイダーです」

「……ロイス・シリウスだ」

「今日は天気がいいので庭に席を用意させました。娘に案内させましょう。後は若い人同士お二人で会話をお楽しみください」

 まさか面倒なバカ息子の相手を私ひとりに押し付ける気!?キッと父を睨みつけるが涼しい顔でスルーされる。後で覚えておきなさいよ!

「こちらへどうぞ……」

 仕方なく渋々庭に案内する。はぁ、早く帰ってくれないかしら。


 ◇◇◇

 二人で庭に用意されたテーブルセットに腰掛けたものの、特に話すこともないので黙々とお茶を飲み続ける。顔合わせは済んだのだからとっとと帰ればいいのに。

 そんなことを考えながらチラリと視線を向けると、無遠慮にまじまじと見られていてイライラしてきた。

「……なにか?」

「夕べは随分お楽しみだったようだな?見えてるぜ?」

 ニヤリと笑いながら自分の首筋をトントンと叩いてみせる仕草にハッとする。

「男だろ?清純そうな顔して女はわかんねーな。まぁ、ロクデナシとアバズレじゃあお似合いか。シリウス伯爵家は二代続いてアバズレの伯爵夫人を娶るわけだ。笑える。それと、さっきからあんたすげー酒臭いぜ?早く帰れって雰囲気も伝わってるしな。こっちもこれ以上酒臭い女といてもつまらねーから帰るわ」

 ガタンと席を立つと本当に帰ろうとする。

「ま、ままま、待って!」

「あん?」

「く、く、首、何かついて……」

「夢中で気付かなかったのか?あんたの男は随分嫉妬深いみたいだな?すげーはっきり所有印つけられてるぜ?」

(ま、まさかジーク!?)
 思わずその場で真っ赤になってしゃがみ込む私を、ロイスは面白そうにのぞき込んでくる。

「ふーん?」

「な、な、なによっ!」

「別に。じゃあな」

「ちょっ!ちょっと待って!」

「まだ何か用?俺も忙しいんだけど?」

「……婚約、断らないの?」

「はぁ?断れる訳ねーだろ?王命だぞ?」

「で、でも!」

「ああ、安心しろよ。別に誰にも言わねーよ」

「……あんたはそれでいいの?」

「いいって?」

「私の身持ちの悪さを王に訴えれば、結婚はなかったことになるかもしれないじゃない。他にもお金を持ってる良家のご令嬢はいくらでもいるでしょう?」

「女を貶める趣味はねーよ。それに、そんな単純な問題でも無さそうだしな……」

「えっ?」

「取りあえず俺から婚約破棄はしない。お前の相手も詮索しない」

「……」

「またな」

 そういい残すと今度は本当に帰ってしまう。思わず茫然と見送ったがそれどころではない。

 私は淑女にあるまじきスピードで階段を駆け上りながら部屋に入ると、姿見の前に立った。

 髪を少し払うと見えるか見えないかの位置。首の横にハッキリと残る赤い印。

「じ、ジークの!バカーーーーー!!!」

思わず大声で叫んだ私は悪くないと思う。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

守銭奴令嬢は、婚約破棄を請け負いました。

三歩ミチ
恋愛
 特待生として貴族学院に在籍するメイディ・ジュラハールは、魔導具を完成させるため、お金が欲しかった。  ある日、アレクという高位貴族に、「婚約破棄」への協力を依頼される。報酬は大金貨十枚。破格の報酬に目がくらんだメイディは、彼が卒業パーティで婚約破棄をするまで、「恋人のふり」をすることとなった。  恋を知らないメイディは、恋とは何かを知るところから、アレクと二人三脚で演じ始める。  打算で始まったはずの関係は、やがて、互いに本当の恋になる。 ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

公爵令嬢のささやかな悩み~浮気な婚約者に別れを告げたら年下腹黒王子に秒で捕まりました~

しましまにゃんこ
恋愛
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっかり自信を失ったエリーゼ。 華奢な彼女は、婚約者に寄り添う胸の豊かな令嬢に対し、敗北感を募らせていた。どうやら婚約者は運命の愛を見つけたらしい。 「この婚約は破棄するしかないわね」 私もできれば愛する人と結ばれたかった。でも、自分には叶いそうにない。惨めさに思わず涙がこぼれる。 とそこに、幼いころともに遊んだ王太子殿下が現れて。 「ねえ、君を泣かせたのは、あいつ?」「僕なら泣かせないのにな」 ぐいぐい迫ってくる殿下の真意は!?エリーゼの恋の行方は!? 小さなコンプレックスに悩む可愛い公爵令嬢と、公爵令嬢の全てを奪いつくしたい見た目天使、中身腹黒な初恋拗らせ王太子殿下の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。

処理中です...