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6 ジークの覚悟
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その日の夜、ジークの部屋を訪ねた私をジークは何もいわずに部屋の中まで招き入れてくれた。
「ジークが部屋に入れてくれたの初めてね」
「……令嬢が使用人の部屋になど来るものではありませんから」
「ふふ、相変わらず固いんだから」
「眠れないんですか?生憎ここには酒類しか無いのですが……」
「意外。ジークもお酒なんて飲むのね」
「そうですね。眠れない夜は特に……」
「お酒、貰ってもいい?」
「ソフィア様には強すぎます」
「ダメかな?」
「……ちょっとだけですよ?」
グラスに注がれる琥珀色のアルコールがグラスに煌めいて美しい。
「綺麗ね。ジークの瞳の色みたい」
「……私と一緒に逃げますか?」
慣れないアルコールを口に含んだ途端そんなことを言ってくるから思わずむせた。
「えっ!ちょっ、ジーク!?」
「ソフィア様が望むなら、全力で逃がして差し上げます」
「私と一緒に来てくれるの?」
「……あなたが望むなら。私は、あなたを愛していますから」
今更そんなことを言ってくるもんだから泣けてくる。
「馬鹿ねジーク。分かってるわ。そんなことできっこないって。一生身分を偽って、知ってる人が誰もいない国で暮らすのも良いかも知れない。ジークが側にいるなら私はどこにいたって幸せになれる」
「だったら……」
「でも、お父様はどうなるの?商会で働く皆は?王家の顔を潰してただで済むとは思えない。私は貴族なんて大嫌いだけど。貴族の責任なんて知るもんかって思うけど。私のせいで大切な人達が苦しむと分かってて逃げるなんてできない」
「ソフィア様……」
「ごめんねジーク。ジークを幸せにするって誓ったのに」
泣き出した私をジークは優しく抱き締めてくれた。
「振られてしまいました。これでも、一世一代の告白のつもりだったんですが……」
「ごめんね……」
「いいんですよ。そんな優しいあなただから、愛してしまったのです」
◇◇◇
目覚めると自室のベッドの上で。ジークの言葉を思い出して何度も泣いた。いままでどんなに告白しても一度も好きだって言ってくれなかったのに。今になって告白してくるジークが恨めしい。こんなことならもっとガンガン迫って、とっととただれた関係にでもなっておけば良かった!
メイドを呼ぶと私の有り様にギョッとされる。泣きはらした目はすっかり腫れているし、なんなら酒臭い。先程から頭が痛くてガンガンする。少ししか口にしていないはずなのにかなり強い酒だったようだ。
水を貰い、泣きはらした目をタオルで冷やすと少し落ち着いてきた。
「ジークは?」
いつもなら私が目覚める頃にお茶を持ってきてくれるのに今日はまだ持ってきていない。
「それが……」
言い澱むメイドに嫌な予感がする。
「朝からお姿が見えなくて、お部屋に伺ったら置き手紙が……」
「置き手紙?どんな?」
「お屋敷を含め、すべての職を辞すると……」
「嘘でしょ……」
「私達も突然のことで、一体どうすればいいのか……」
メイドの言葉に呆然となる。まさかジークは私を置いてひとりで行ってしまったのか。一体どこに?混乱して上手く感情をまとめることもできない。
「お嬢様……」
「ごめん、ひとりにしてくれる?」
「かしこまりました。何かあればお呼び下さい」
沈痛な表情を浮かべて部屋を後にするメイドを呆然と見送ると私はそのままベッドに横たわる。
「ジークの、馬鹿っ……」
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