上 下
1 / 50

1 政略結婚は突然に!?

しおりを挟む
 
 ◇◇◇

「お願いジーク!助けて!」

 部屋に帰るなり涙目で叫んだ私に、ジークは午後のお茶の用意をしていた手を止め、困ったように微笑んだ。

(はぁ、今日も最高にかっこいい……)

 優雅に微笑むジークは、窓から差し込む太陽の光に照らされて一枚の絵のように美しい。思わずうっとりと見とれてしまう。

 眉目秀麗容姿端麗。サラサラと煌めく白金の髪に琥珀のように美しい金の瞳は、見慣れているはずの私でも思わず見とれてしまうぐらい美しい。

 品のある顔立ちや優雅な立ち居振る舞いは王侯貴族と言っても通用するだろう。

「今日は一体どうされましたか。旦那様からのお手紙に何か嫌なことでも書いてありましたか」

(はっ!いけない!ジークがかっこよすぎて手紙のこと忘れちゃうところだった)

 我に返った私は手に持った手紙をヒラヒラと振りながら盛大に溜め息を付いてみせた。

「……それが聞いてよ。お父様が、急に私のこと政略結婚させるって言い出したの」

「それは……一大事ですね」


 ◇◇◇

 ことの始まりは一年前。ラピス王国王都で手広く商売をしていた我がアルサイダー家は、有り余る財力に目を付けられ男爵位を賜ることになった。

 いわゆる『成り上がり男爵家』だ。普通なら平民から貴族になるのは名誉なことなのかもしれない。

 がっ、しかしっ!裕福ではあるが気楽な商家の一人娘から何かと面倒な貴族の御令嬢にジョブチェンジしなければならなかった私としてはたまったもんではない。

 しかもそれまで通っていた学校を退学させられ、貴族の子女が通う全寮制の貴族学園に放り込まれることになったのだ。正直絶望しかなかった。

 何しろ貴族のつき合いというのは死ぬほど面倒くさい。口を開けば見栄とプライドを賭けた札束の殴り合いや歴史と伝統と言う名の血統自慢。

 決して本音では話してくれない令嬢たちとの腹の探り合いにもいい加減うんざりだ。

 そのうえいきなり政略結婚しろなんて冗談ではない。
 
「ひどいと思わない?私にはちゃんと好きな人がいるのに、他の男性に嫁げだなんて!」

 なにしろ人生をともに歩みたい相手はすでに目の前にいるのだ。小さな頃から大好きな私だけの王子様。大好きなジーク。

「貴族家では政略結婚も珍しくありませんからね……お逢いしてみたら意外と良い方かもしれませんよ?」
 
 ただ、いまのところ全く相手にされていないのが問題だ。

「ひどい!ジークは私が他の人のお嫁さんになっちゃってもいいの?」

「私に決定権はありませんから……」

「ジークの馬鹿!嫌い!」

「困りましたね……可愛い私の天使、どうかご機嫌を直してください」

 思いきりふくれっ面をする私を、困ったように笑いながらよしよしとなでるジーク。もう16歳になるというのに完全に子ども扱いだ。

◇◇◇

 ジークは10年前のある日、ふらりとうちの屋敷に迷いこんできた。当時12歳だったジークが語ったのは自分の名前と年齢だけ。正直謎多き男だと思う。

 しかし、完全実力主義を掲げるアルサイダー商会ではジークのように過去を語らない人は珍しくない。

 孤児院出身者も多く、身よりのない子どもや没落貴族、駆け落ちなど、いわゆる「訳あり」の人に働く場を提供することも珍しくないからだ。

「過去は変えられないけど未来はいつだって変えられるんだよ」が口癖の父の影響が大きいのだろう。本人が語らない過去を詮索する人もいない。

 ジークには子供とは思えないほどの思慮深さと物事の本質を見抜く鋭い感性があり、みるみるうちにその才能を開花させた。

 類い希な商才を持つ彼を父は大いに気に入り、今や父の懐刀と言える存在になっている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。 そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。 前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...