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15.俺はもう駄目かもしれない……

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 愛するマリリンへ

 何がどうなっているのかわからない。あれから俺は、ただひたすら森の中をさ迷っている。全てはそう、リリアナに会うために。

 ああ、勘違いしないでくれ。俺が愛しているのは、今日も明日も明後日も変わらずに君だけだ。

 例え太陽が西から昇っても、この俺の気持ちが変わることなんてない。どうか信じて欲しい。

 だが、このままでは国が滅びてしまうんだ。恐ろしい魔王の手によって。そして、それを止めることができるのは、リリアナ、あいつしかいない。

 勇者の一族として国を支え守り続けてくれた彼らを、俺は尊敬していた。だけど同時に恐れてもいた。その強大すぎるパワーに。信じられるか?あいつ、チーターよりも足速いんだぜ?ちなみに腕力はゴリラ並みだ。

 それだけならまだ我慢できたと思う。でも、目の前で俺の自慢の別荘が粉々に破壊されたとき。ああ俺無理だなって思った。このままだといつかうっかり殺されるなって。

 虫が出てきてびっくりしたからって、まさか別荘ごと破壊するなんて、夢にも思わないだろう?この世の中には、信じられないことがいくつか存在する。あいつは間違いなくその一つだ。

 でも、この力を敵に回す訳にはいかない。味方として何よりも頼もしい能力は、敵になると何よりも恐ろしい力に変わるからだ。

 俺はずっと、魔王に差し出される生け贄みたいなものだった。

 そんな俺を救ってくれたのは、マリリン、君だった。

 リリアナの前で泣きながら震える君を見たとき。生まれて初めて、誰かを守ってやりたいと思った。君の姿が弱い自分に重なったのかもしれない。君のためなら強くなれる。そう、信じられた。

 だがやはり、相手が悪すぎたようだ。王都はすでに公爵の手に落ちた。父がいまどうなっているかはわからない。恐らくもう……

 俺は単身、リリアナを追って最果ての地に来ている。だが……もう、自分がどこを歩いているのかさえ、さっぱり分からなくなってしまった。

 そう、俺は囚われてしまったんだ。この深く終わりのない森の中に……

 最後に思い出すのは、ただ君のことばかり。逢いたい。逢いたい。逢いたい。

 リリアナにあって許しを乞いたかった。魔王を止めて欲しかった。俺は俺なりに、大切なものを守りたかっただけだ。だが、そんなものはただのエゴだな。

 愚かな俺をどうか許して欲しい。そして、君はどうか、俺なんて忘れて幸せになってくれ。

 永遠の愛を君に。リチャード



◇◇◇


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