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9.婚約破棄は突然に
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◇◇◇
「一体どういうつもりですか?もう少しであなただけでなく、シンシアまで死んでいたかもしれないんですよ?」
レオナルドは怒りを隠そうともせず、ライラに詰め寄る。
「レ、レオナルド様。こうして無事でしたし。お姉様の後を勝手に追ったのは私です」
「我がままな振る舞いも大概にしてください!シンシアに何かあったら、私は何をするかわかりませんよ」
自分の都合で勝手に行動するライラの我がままさが、レオナルドには理解しがたかった。こんな女が聖女と呼ばれるなど、腹立たしいと感じるほどだ。
「ごめんなさい、反省してますわ。まさかドラゴンが目の前に現れるとは思わなくて。私が迂闊だったわ。シンシアもごめんなさいね」
だが、あまりにあっさりと謝られて拍子抜けしてしまう。
「そ、そんな。お姉様、頭を上げてください」
おろおろとライラの手を取るシンシア。さすがのライラもドラゴンを相手にするのは怖かったのだろうか。怒り心頭だったレオナルドも、少女相手に少々大人げなかったかと考え直した。
「あ、ああ。まあ、二人とも怪我がなくて何よりだった。今後はこのようなことがないように気を付けていただきたい」
レオナルドの言葉にライラはしおらしく頷いて見せる。
「ええ。二度とこのようなことがないようにしますわ。それで、申し訳ないのですが、火急の用事ができたので、そろそろお暇しようと思いますの」
「そんな、お姉様。もう国に戻られるのですか?」
シンシアが悲し気な声を上げる。せっかく会えたのにもう帰ってしまうのか。国にいたときは姉妹と言えども遠い存在だった姉。もっと色々語り合いたかったと寂しく感じてしまう。
「ずいぶん急だが。大聖女殿はお忙しいだろうから、お引き止めするのも失礼だろう」
だが、レオナルドはライラがいなくなることに正直ほっとしていた。これ以上トラブルを起こす前にとっととお引き取り頂きたいと言うのが本音だ。
しかし、レオナルドが頷いた次の瞬間、
「ええ、シンシアと一緒に帰国しますわ」
にっこり微笑むライラの言葉に耳を疑った。
「は?シンシアと一緒に?」
「ええ。シンシアはナリア王国に連れて帰ります」
ライラはシンシアに改めて向き直ると、にっこりと微笑みかける。
「シンシア。私と一緒に国に帰りましょう」
姉の言葉の真意が分からずに混乱するシンシア。
「お姉様?私はレオナルド殿下の婚約者ですわ。わたくしたちの結婚は政略によるもの。国と国との約束をそう簡単に違えるわけには……」
「この政略結婚は無効よ。シンシアはナリア王国に帰るべきよ」
レオナルドはカッとなって思いっきり机を叩きつけた。
「シンシアは私の婚約者だ!おかしなことを言うのはやめてもらおう!」
政略結婚などどうでもいい。すっかり惚れているのだ。いまさら返せと言われて返せるはずもない。けれどライラは、レオナルドの目をしっかり見たままにやりと笑う。
「シンシアが国外に出されたのは、シンシアがなんのギフトも持たない『名ばかりの王族』だったからよ。でも、シンシアはちゃんとギフトを持っていた。誰よりもナリア王族にふさわしいギフトをね」
「シンシアのギフトだと?馬鹿な。何も持たない役立たずの姫だと言ってきたのはそちらではないか」
吐き捨てるようなレオナルドの声に、シンシアの胸がちくりと痛む。レオナルドの口から役立たずの姫だと言われると、どうしようもなく苦しかった。
だが、ライラの顔をきつく睨みつけたまま、レオナルドは言葉を続ける。
「ギフトなんか必要ない。私が欲しいのはシンシアだけだ。彼女が私の隣で微笑んでさえいてくれたら他には何もいらない。シンシア、私は君を心から愛しているんだ」
「レオナルド様……」
言葉もなく見つめあう二人。だが、ライラはそんな二人の様子を鼻で笑った。
「ギフトを持っている王族の姫を他国に出すなんて、ナリア王国が許すはずないじゃない」
「勝手なことを!」
「シンシア、国に帰って、王族としての義務を果たしなさい。できるわね?」
どれだけその言葉を待ち望んだだろうか。三か月前ならば、アルムール国に来る前ならば、シンシアは涙を流してライラの手を取っただろう。けれども今は、アルムール国を、レオナルドの傍を離れると思っただけで、心臓が張り裂けそうなくらいに痛い。
「……でき、ません。私は、私は、ここに、いたい……」
シンシアの瞳から涙があふれる。
「ギフトなんて、いらない。役立たずのままでいい。レオナルド様のおそばにいたいのです。お姉様……」
「シンシア……」
レオナルドはシンシアをしっかりと抱きしめた。
「君は、役立たずなんかじゃない。そこにいるだけで、私を幸せにしてくれるんだ。君が微笑んでくれるだけで、私は幸せになれる。ずっとこの国で、私の傍で微笑んでいてほしい」
こくこくと声も出せずに泣きながら頷くシンシアと、そんなシンシアを愛おしそうに抱きしめるレオナルド。
(ま、こうなると思っていたけどね)
ライラはあまりの甘さに、ケッと吐き捨てるように舌を出した。
「一体どういうつもりですか?もう少しであなただけでなく、シンシアまで死んでいたかもしれないんですよ?」
レオナルドは怒りを隠そうともせず、ライラに詰め寄る。
「レ、レオナルド様。こうして無事でしたし。お姉様の後を勝手に追ったのは私です」
「我がままな振る舞いも大概にしてください!シンシアに何かあったら、私は何をするかわかりませんよ」
自分の都合で勝手に行動するライラの我がままさが、レオナルドには理解しがたかった。こんな女が聖女と呼ばれるなど、腹立たしいと感じるほどだ。
「ごめんなさい、反省してますわ。まさかドラゴンが目の前に現れるとは思わなくて。私が迂闊だったわ。シンシアもごめんなさいね」
だが、あまりにあっさりと謝られて拍子抜けしてしまう。
「そ、そんな。お姉様、頭を上げてください」
おろおろとライラの手を取るシンシア。さすがのライラもドラゴンを相手にするのは怖かったのだろうか。怒り心頭だったレオナルドも、少女相手に少々大人げなかったかと考え直した。
「あ、ああ。まあ、二人とも怪我がなくて何よりだった。今後はこのようなことがないように気を付けていただきたい」
レオナルドの言葉にライラはしおらしく頷いて見せる。
「ええ。二度とこのようなことがないようにしますわ。それで、申し訳ないのですが、火急の用事ができたので、そろそろお暇しようと思いますの」
「そんな、お姉様。もう国に戻られるのですか?」
シンシアが悲し気な声を上げる。せっかく会えたのにもう帰ってしまうのか。国にいたときは姉妹と言えども遠い存在だった姉。もっと色々語り合いたかったと寂しく感じてしまう。
「ずいぶん急だが。大聖女殿はお忙しいだろうから、お引き止めするのも失礼だろう」
だが、レオナルドはライラがいなくなることに正直ほっとしていた。これ以上トラブルを起こす前にとっととお引き取り頂きたいと言うのが本音だ。
しかし、レオナルドが頷いた次の瞬間、
「ええ、シンシアと一緒に帰国しますわ」
にっこり微笑むライラの言葉に耳を疑った。
「は?シンシアと一緒に?」
「ええ。シンシアはナリア王国に連れて帰ります」
ライラはシンシアに改めて向き直ると、にっこりと微笑みかける。
「シンシア。私と一緒に国に帰りましょう」
姉の言葉の真意が分からずに混乱するシンシア。
「お姉様?私はレオナルド殿下の婚約者ですわ。わたくしたちの結婚は政略によるもの。国と国との約束をそう簡単に違えるわけには……」
「この政略結婚は無効よ。シンシアはナリア王国に帰るべきよ」
レオナルドはカッとなって思いっきり机を叩きつけた。
「シンシアは私の婚約者だ!おかしなことを言うのはやめてもらおう!」
政略結婚などどうでもいい。すっかり惚れているのだ。いまさら返せと言われて返せるはずもない。けれどライラは、レオナルドの目をしっかり見たままにやりと笑う。
「シンシアが国外に出されたのは、シンシアがなんのギフトも持たない『名ばかりの王族』だったからよ。でも、シンシアはちゃんとギフトを持っていた。誰よりもナリア王族にふさわしいギフトをね」
「シンシアのギフトだと?馬鹿な。何も持たない役立たずの姫だと言ってきたのはそちらではないか」
吐き捨てるようなレオナルドの声に、シンシアの胸がちくりと痛む。レオナルドの口から役立たずの姫だと言われると、どうしようもなく苦しかった。
だが、ライラの顔をきつく睨みつけたまま、レオナルドは言葉を続ける。
「ギフトなんか必要ない。私が欲しいのはシンシアだけだ。彼女が私の隣で微笑んでさえいてくれたら他には何もいらない。シンシア、私は君を心から愛しているんだ」
「レオナルド様……」
言葉もなく見つめあう二人。だが、ライラはそんな二人の様子を鼻で笑った。
「ギフトを持っている王族の姫を他国に出すなんて、ナリア王国が許すはずないじゃない」
「勝手なことを!」
「シンシア、国に帰って、王族としての義務を果たしなさい。できるわね?」
どれだけその言葉を待ち望んだだろうか。三か月前ならば、アルムール国に来る前ならば、シンシアは涙を流してライラの手を取っただろう。けれども今は、アルムール国を、レオナルドの傍を離れると思っただけで、心臓が張り裂けそうなくらいに痛い。
「……でき、ません。私は、私は、ここに、いたい……」
シンシアの瞳から涙があふれる。
「ギフトなんて、いらない。役立たずのままでいい。レオナルド様のおそばにいたいのです。お姉様……」
「シンシア……」
レオナルドはシンシアをしっかりと抱きしめた。
「君は、役立たずなんかじゃない。そこにいるだけで、私を幸せにしてくれるんだ。君が微笑んでくれるだけで、私は幸せになれる。ずっとこの国で、私の傍で微笑んでいてほしい」
こくこくと声も出せずに泣きながら頷くシンシアと、そんなシンシアを愛おしそうに抱きしめるレオナルド。
(ま、こうなると思っていたけどね)
ライラはあまりの甘さに、ケッと吐き捨てるように舌を出した。
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