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5.公爵令嬢の裏事情
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◇◇◇
「なあ、ティーナ、お前の望みは何だ?」
王宮の執務室でマクバリー公爵は頭を抱えていた。再婚相手の連れ子である義娘のティーナは、その美しい見た目と洗練された所作から社交界の薔薇と言われている。当然ティーナに懸想する令息は多く、婚約の申し込みは後を絶たない。だが、ティーナはそのどれも突っぱねていた。ティーナがなかなか首を縦に振らないことから憶測が憶測を呼び、疑心暗鬼に陥った恋に溺れた令息たちがあちこちで決闘をしてはティーナの婚約者の座を争う始末。
娘をなんとかしてくれ!という声に「そんなの知るか!」と返してはいるが、いい加減うんざりしていた。義理とはいえ、年頃の娘を持つ父親とはこんなに大変なのか。世の父親たちに同情する。いや、俺に同情して欲しい。本当に、親の心子知らずとはこのことだな。
「あらお父様、そんなの簡単な答えですわ。わたくしは贅沢が好き。楽しいことが好き。そして、それをすべて叶えてくれる力のある男性が好きですわ。お父様のような男性なら喜んで結婚いたしますのに」
これだから。早くに母親を亡くしたからと甘やかしたのが悪かったのか。いい加減親離れして欲しいものだ。娘という生き物はいつ親離れするんだ。
「俺とお前は親子だ」
「まあ、血のつながりはありませんでしょう?」
「それでもだっ!お前のことをくれぐれも頼むと、亡くなったお前の母親に頼まれたんだっ!」
「お母様もどうせ頼むなら『ティーナを嫁に貰ってやってくれ』って頼んでくれたらよかったのに」
「ぶっ!ご、ごほっ、ティーナ!いい加減にしろ!」
思わずむせたマクバリー公爵をみて、ティーナはふふっと悪戯っぽい顔で微笑む。
「ねえ、お父様。それでは私を隣国に留学させてくださいな。この国にいてはどの殿方を見てもお父様と比べてしまうわ」
「隣国に?駄目だ。お前も知っているだろう。ラグランドが我がトットランドに対してどんな仕打ちをしたか。両国の親善のためにと断腸の思いで嫁がせた妹がどんな辛い目にあったか。そんな国にお前を行かせるなんてとんでもない」
「あら、でも、お父様の大切な妹の忘れ形見であるジェームズ王子を奪還したいんでしょう?しつこく刺客を送っている割にろくな成果が上がっていないと聞きましたわ」
「くっ。あの野蛮な国と違って、我が国は事を荒立てずに平和的に取り戻すつもりなんだ」
「あらあら、でも、ぐずぐずしてるとジェームズ王子が暗殺されてしまうかもしれませんわよ?」
「お前が心配しなくても、すでに手は打ってある!」
最初の男児を産めず、次期後継者争いで負けた妹は王妃の手の者に殺されたに違いない。殺されないまでも、精神的に追い詰められていたのは確かだ。妹の生んだ第二王子であるジェームズは、これまでスペアとして王妃でも手が出せない存在だった。しかし、王妃が生んだ第三王子が無事七歳の誕生日を迎えた今、そのスペアの価値は無くなったと思っていいだろう。
速やかに奪還しなければ。けれど学園に送り込んだ者はことごとくアーロンの婚約者であるリアナ・カレットの手によって阻まれていた。おそらくこちらの動きに気付いているのだろう。あのぼんくら王子にはもったいない、頭の切れる女だ。
「アレクは確かに腕の立つ男だけど、護衛のためにジェームズ殿下のお傍を離れられないでしょう?それに王太子を罠にはめたいなら、私の方が適任ではなくて?わたくしに任せてくださいな。悪いようにはしませんから」
ティーナが見惚れるような笑顔で微笑む。
「わたくしの魅力にあらがえる男など、いませんわ」
「なあ、ティーナ、お前の望みは何だ?」
王宮の執務室でマクバリー公爵は頭を抱えていた。再婚相手の連れ子である義娘のティーナは、その美しい見た目と洗練された所作から社交界の薔薇と言われている。当然ティーナに懸想する令息は多く、婚約の申し込みは後を絶たない。だが、ティーナはそのどれも突っぱねていた。ティーナがなかなか首を縦に振らないことから憶測が憶測を呼び、疑心暗鬼に陥った恋に溺れた令息たちがあちこちで決闘をしてはティーナの婚約者の座を争う始末。
娘をなんとかしてくれ!という声に「そんなの知るか!」と返してはいるが、いい加減うんざりしていた。義理とはいえ、年頃の娘を持つ父親とはこんなに大変なのか。世の父親たちに同情する。いや、俺に同情して欲しい。本当に、親の心子知らずとはこのことだな。
「あらお父様、そんなの簡単な答えですわ。わたくしは贅沢が好き。楽しいことが好き。そして、それをすべて叶えてくれる力のある男性が好きですわ。お父様のような男性なら喜んで結婚いたしますのに」
これだから。早くに母親を亡くしたからと甘やかしたのが悪かったのか。いい加減親離れして欲しいものだ。娘という生き物はいつ親離れするんだ。
「俺とお前は親子だ」
「まあ、血のつながりはありませんでしょう?」
「それでもだっ!お前のことをくれぐれも頼むと、亡くなったお前の母親に頼まれたんだっ!」
「お母様もどうせ頼むなら『ティーナを嫁に貰ってやってくれ』って頼んでくれたらよかったのに」
「ぶっ!ご、ごほっ、ティーナ!いい加減にしろ!」
思わずむせたマクバリー公爵をみて、ティーナはふふっと悪戯っぽい顔で微笑む。
「ねえ、お父様。それでは私を隣国に留学させてくださいな。この国にいてはどの殿方を見てもお父様と比べてしまうわ」
「隣国に?駄目だ。お前も知っているだろう。ラグランドが我がトットランドに対してどんな仕打ちをしたか。両国の親善のためにと断腸の思いで嫁がせた妹がどんな辛い目にあったか。そんな国にお前を行かせるなんてとんでもない」
「あら、でも、お父様の大切な妹の忘れ形見であるジェームズ王子を奪還したいんでしょう?しつこく刺客を送っている割にろくな成果が上がっていないと聞きましたわ」
「くっ。あの野蛮な国と違って、我が国は事を荒立てずに平和的に取り戻すつもりなんだ」
「あらあら、でも、ぐずぐずしてるとジェームズ王子が暗殺されてしまうかもしれませんわよ?」
「お前が心配しなくても、すでに手は打ってある!」
最初の男児を産めず、次期後継者争いで負けた妹は王妃の手の者に殺されたに違いない。殺されないまでも、精神的に追い詰められていたのは確かだ。妹の生んだ第二王子であるジェームズは、これまでスペアとして王妃でも手が出せない存在だった。しかし、王妃が生んだ第三王子が無事七歳の誕生日を迎えた今、そのスペアの価値は無くなったと思っていいだろう。
速やかに奪還しなければ。けれど学園に送り込んだ者はことごとくアーロンの婚約者であるリアナ・カレットの手によって阻まれていた。おそらくこちらの動きに気付いているのだろう。あのぼんくら王子にはもったいない、頭の切れる女だ。
「アレクは確かに腕の立つ男だけど、護衛のためにジェームズ殿下のお傍を離れられないでしょう?それに王太子を罠にはめたいなら、私の方が適任ではなくて?わたくしに任せてくださいな。悪いようにはしませんから」
ティーナが見惚れるような笑顔で微笑む。
「わたくしの魅力にあらがえる男など、いませんわ」
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