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4.ライザの秘めた力
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◇◇◇
「美しいカーテシーを保つためには足の角度が大切ですわ。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げましょう。このとき背筋はしっかり伸ばしたまま挨拶をします。さあ、やってみてください」
「はい!先生!」
「いいですね。大変優雅ですよ。わたくしが今まで教えてきたご令嬢の中でも、ライザ様は大変優秀です」
「あ、ありがとうございます!」
翌日から始まった淑女教育は、ライザにとって目新しいものばかりだった。学ばなければいけないことは山ほどある。けれども、毎日こまねずみのように働いていたライザにとって、自分のために学ぶ機会はとても貴重で、どれも面白いものだった。ダンスやピアノ、刺繍に乗馬と、美しい文字に手紙の書き方。貴族の令嬢として必要なスキルはすべて一流の先生が揃えられており、夢中で習得に励んだライザはめきめきと上達した。
中でもライザが一番驚いたのは、魔法学の時間だった。透明な水晶に手を触れると、自分の持つ魔法属性が浮かび上がる。通常貴族の子女は五才で魔力判定を行うが、ライザは六歳になっても魔力判定を行っておらず、自分にどんな魔力適性があるかなど考えたこともなかった。
「これは……光魔法の適性をお持ちです」
驚いたように目を見開く先生。
「光魔法、ですか」
首を傾げるライザだったが、光魔法は火、風、土、水、闇と続く六つの属性の中でも特に珍しく、強い魔力を持つ貴族の中にもこの属性を持つものは数えるほどしかいないということだった。
「それと、これは、闇魔法ですね。信じられない。相反する二つの属性を持っているなんて!」
「闇魔法……」
言葉の響きに戸惑うライザだったが、魔法学の権威であり、教師として招かれているガイル伯爵は、嬉々として説明してくれた。
「闇魔法も光魔法と同じく希少属性です。相反する属性ではありますが、共通点もあって、光も闇も癒しの魔力を持っているんですよ」
「そ、そうなんですか」
「ええ。光魔法は毒や病などを浄化する力を持ち、闇魔法は深い眠りに誘い、体の持つ回復力や免疫力を高めることができるのです」
「この力を持っていると、お義母様は喜びますか?」
「もちろんですとも!極めれば病気でも怪我でも癒すことができるようになりますよ!このような特別な力を持つ人は、国にとっても特別な存在なのです。きっとお喜びになられますよ!」
(私が、特別な力を持っている……だったらこの力でお義母様に少しでも恩返しができたら……)
◇◇◇
「ライザが光魔法に闇魔法の両属性持ちですって?」
ガイル伯爵に連れられて、ドキドキしながらローズに魔力適性を報告したライザは、険しい表情を浮かべるローズの姿に戸惑った。
「ガイル伯爵、間違いないのかしら」
「ええ、間違いございません。我が国に光属性と闇属性の両属性持ちが生まれるとは!これは大ニュースですよ」
ローズの表情に気付かずに、ガイル伯爵は誇らしげにしゃべり続ける。
「いやはや、私の手で両属性持ちを育てられるとは、まさに光栄の至りです」
「……このことを知る者は?」
「私とライザ嬢だけですが?」
「そう。ではお願いするわ。このことはどうかしばらく内密にしていただきたいの」
「なぜですかっ!すぐさま国王陛下に報告に上がるべきです!」
憤慨する伯爵だったが、
「この子はまだ公爵家に来て間もないわ。今必死で色々なことを学んでいるけれど、国王陛下に謁見するために必要なスキルを身に付けられていないの。陛下の御前に上がれば、きっとおどおどした態度をとってしまうでしょう。子どもとは言え、侮られてしまうわ。礼儀がしっかり身についてから堂々と謁見させたいの。わたくしの親心を分かってくださるでしょう?」
「そ、そういうことでしたら……」
「先生だけが頼りですわ。大切な一人娘ですの。どうかこの子を立派に導いてやってくださいまし」
艶やかににっこり微笑むローズに顔を真っ赤にするガイル伯爵。
「は、はい!大切なお嬢様のことは、この私にお任せください!」
「頼みましたよ。ライザも魔法適性のことはしばらくほかの先生方には内緒。できるかしら?」
「はい!お義母様!」
「いいこね」
───二人が退出した後、一人残ったローズはため息をついた。
「よりにもよって二属性持ちなんて。それも光と闇……やはりあの子は貴方の子どもなのね。ライアン様」
ひっそりと呟いたその言葉に、答えるものは誰もいなかった。
「美しいカーテシーを保つためには足の角度が大切ですわ。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げましょう。このとき背筋はしっかり伸ばしたまま挨拶をします。さあ、やってみてください」
「はい!先生!」
「いいですね。大変優雅ですよ。わたくしが今まで教えてきたご令嬢の中でも、ライザ様は大変優秀です」
「あ、ありがとうございます!」
翌日から始まった淑女教育は、ライザにとって目新しいものばかりだった。学ばなければいけないことは山ほどある。けれども、毎日こまねずみのように働いていたライザにとって、自分のために学ぶ機会はとても貴重で、どれも面白いものだった。ダンスやピアノ、刺繍に乗馬と、美しい文字に手紙の書き方。貴族の令嬢として必要なスキルはすべて一流の先生が揃えられており、夢中で習得に励んだライザはめきめきと上達した。
中でもライザが一番驚いたのは、魔法学の時間だった。透明な水晶に手を触れると、自分の持つ魔法属性が浮かび上がる。通常貴族の子女は五才で魔力判定を行うが、ライザは六歳になっても魔力判定を行っておらず、自分にどんな魔力適性があるかなど考えたこともなかった。
「これは……光魔法の適性をお持ちです」
驚いたように目を見開く先生。
「光魔法、ですか」
首を傾げるライザだったが、光魔法は火、風、土、水、闇と続く六つの属性の中でも特に珍しく、強い魔力を持つ貴族の中にもこの属性を持つものは数えるほどしかいないということだった。
「それと、これは、闇魔法ですね。信じられない。相反する二つの属性を持っているなんて!」
「闇魔法……」
言葉の響きに戸惑うライザだったが、魔法学の権威であり、教師として招かれているガイル伯爵は、嬉々として説明してくれた。
「闇魔法も光魔法と同じく希少属性です。相反する属性ではありますが、共通点もあって、光も闇も癒しの魔力を持っているんですよ」
「そ、そうなんですか」
「ええ。光魔法は毒や病などを浄化する力を持ち、闇魔法は深い眠りに誘い、体の持つ回復力や免疫力を高めることができるのです」
「この力を持っていると、お義母様は喜びますか?」
「もちろんですとも!極めれば病気でも怪我でも癒すことができるようになりますよ!このような特別な力を持つ人は、国にとっても特別な存在なのです。きっとお喜びになられますよ!」
(私が、特別な力を持っている……だったらこの力でお義母様に少しでも恩返しができたら……)
◇◇◇
「ライザが光魔法に闇魔法の両属性持ちですって?」
ガイル伯爵に連れられて、ドキドキしながらローズに魔力適性を報告したライザは、険しい表情を浮かべるローズの姿に戸惑った。
「ガイル伯爵、間違いないのかしら」
「ええ、間違いございません。我が国に光属性と闇属性の両属性持ちが生まれるとは!これは大ニュースですよ」
ローズの表情に気付かずに、ガイル伯爵は誇らしげにしゃべり続ける。
「いやはや、私の手で両属性持ちを育てられるとは、まさに光栄の至りです」
「……このことを知る者は?」
「私とライザ嬢だけですが?」
「そう。ではお願いするわ。このことはどうかしばらく内密にしていただきたいの」
「なぜですかっ!すぐさま国王陛下に報告に上がるべきです!」
憤慨する伯爵だったが、
「この子はまだ公爵家に来て間もないわ。今必死で色々なことを学んでいるけれど、国王陛下に謁見するために必要なスキルを身に付けられていないの。陛下の御前に上がれば、きっとおどおどした態度をとってしまうでしょう。子どもとは言え、侮られてしまうわ。礼儀がしっかり身についてから堂々と謁見させたいの。わたくしの親心を分かってくださるでしょう?」
「そ、そういうことでしたら……」
「先生だけが頼りですわ。大切な一人娘ですの。どうかこの子を立派に導いてやってくださいまし」
艶やかににっこり微笑むローズに顔を真っ赤にするガイル伯爵。
「は、はい!大切なお嬢様のことは、この私にお任せください!」
「頼みましたよ。ライザも魔法適性のことはしばらくほかの先生方には内緒。できるかしら?」
「はい!お義母様!」
「いいこね」
───二人が退出した後、一人残ったローズはため息をついた。
「よりにもよって二属性持ちなんて。それも光と闇……やはりあの子は貴方の子どもなのね。ライアン様」
ひっそりと呟いたその言葉に、答えるものは誰もいなかった。
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