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第3章 おてんば姫の冒険録

13 悪い子にはお仕置きよっ!

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 ♢♢♢

「おめたち!兄さ達をどこやっただっ!おめ達に頼まれて村を出たもんは一人も戻ってこねーだっ!」

 がくがくと震えつつ、真っ直ぐに冒険者達を睨み付けるトム。トムを面白そうにじろじろ見ていた男達はニヤリと笑った。

「おお、そうだそうだ。やっぱりお前だ。前に村に案内してくれたよな。探してたんだよ」

「おらの質問に答えるだっ!」

 尻尾をピンと立てたままトムは必死に虚勢を張る。まだ森が焼かれる前。森の中で魔物に襲われ、怪我をして動けなくなっている冒険者達を見つけた。村の存在を人間に教えるのは禁忌だったが、このまま放置すればすぐにでも魔物に殺されてしまうだろう。そう思ったトムは迷いつつも冒険者達を村に連れて帰ったのだ。

 人間は恐ろしい生き物だ。獣人を奴隷のように扱う。小さい頃からそう言い聞かされて育った。獣人の村は人間達から必死に逃げてきた獣人達が隠れ住む村だ。だが、心優しい仲間達は、呆れつつも怪我をした冒険者達を追い出すようなことはしなかった。

 トム達の懸命な看護のかいあって、冒険者達は一命を取り留めた。そして、動けるようになった冒険者達は、森の外まで送ってくれ、街でぜひ礼がしたいと言うのだ。もちろん最初は断った。あくまでもやむを得ない処置であり、人間達と馴れ合う気などない。しかし、怪我が癒えたばかりの冒険者達の様子も気になった。そこで、村でも腕利きの若者達が街の近くまで送っていくことになったのだ。

 ―――しかし、そのまま誰も戻らなかった。

「あー、あの獣人達な。今頃戦闘奴隷として働いてるだろうよ」

「なっ……なしてそっただこと……」

「街の近くで仲間達にあってな。ちょうど金も尽きてたから売り飛ばすことにしたんだよ。良い値で売れたぜ?その後もそいつらを探して何人か来たしな」

「全く。自分からやってくるなんて馬鹿な連中でさ」

「う、嘘だっ!兄さ達がおめたちみたいな奴らに遅れを取るわけねーだ!」

 トムが叫ぶと、冒険者達はケラケラと笑い出す。

「お前なぁ、獣人が街で暴れられると思うか?お前達が暴れれば、仲間がどんな目に合うと思う?ますます立場が悪くなるだろうな。お前達は人間様に飼われてるのがお似合いなんだよ。いっちょまえに村なんか作りやがって!この獣がっ」

「そんな……」

「いいからほら、まだガキどもが何匹かいるんだろ?さっさと案内しろよ。ガキじゃあたいした金にはならねーが、ちったあ足しになるだろ」

「お前らなんか、助けなきゃよかった……村に連れて行かなきゃ良かった」

 ポロポロと涙を流すトムの肩をエリックが優しく撫でる。

「いいえ。あなたが行った行為は間違っていませんよ」

「でもっ!……そのせいで兄さ達が……おらの、おらのせいで……」

「悪いのはあなたではありません」

 エリックの言葉にメンバー全員が大きく頷く。

「悪いのはこの屑どもだな」

「ああ、許せねーな」

「恥ずかしくないのかな」

「全く、冒険者の風上にも置けませんな」

 口々に不快感をあらわにする。だが、甘い。

 ―――突如、辺り一面にゴゴゴゴゴゴと、大地を揺るがすような音が響き渡る。

「あーあ……」

「絶対こうなると思った……」

 ビシバシと大きく割れる大地を、ジャイルとミハエルが軽く飛び退いて避ける。

「アデル兄様……どいて」

 かつてない程ドスの効いたティアラの声にアデルが震え上がる。

「ティ、ティアラ!?えっ?お前、ちょっと落ち着け……」

 ゆらりと立ち上る魔力の渦と共に、ティアラの髪がぶわりと広がる。ビリビリと空気まで張りつめていく様子にアデルも息を飲む。

「え、ちょ、これ……」

「やめとけ師匠。怪我するぜ?逃げたほうがいい」

「こうなったときのティアラは手がつけられませんから」

「はっ!?え、お前ら……」

「ああ、師匠は冒険者としてあんま一緒にいないから見たことないのか。こと獣人が絡むと、コイツ人が変わるんだよなぁ……」

「ええ。獣人狩りにきた奴隷商人とか、本気で容赦ないですからね……」

 遠い目をする二人に愕然とするアデル。可愛い妹のこんな姿は見たことがない。その間も岩が舞い上がり大地が破壊されていく。

「前なんか奴隷船ごと破壊してたからな」

「あれはまさに天災でしたね……」

(ひ、ヒイイイイイイイ……)

 突然豹変したティアラに目を白黒させて固まったトムを抱え、エリックも優雅に距離を取る。

「大丈夫。彼女があなたに危害を加えることはありませんよ。絶対に」

 ティアラの厳しい視線が冒険者達を射貫く。

「ヒッな、なんだこの女……」

「ば、化け物……」

 腰を抜かした冒険者達にうっそりと微笑むティアラ。

「悪い子には……お仕置きが必要ね……」
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