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王都見物
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国王に目通りする『謁見の儀』は十日後に決まった。その間に礼装を仕立てる必要があったが、一から仕立てていては間に合わない。
それで、アイシスから一着譲ってもらい、それをレンヌ用に仕立て直すことにした。アイシスが自分の屋敷に出入りしている仕立て屋に頼んでくれた。
「後は紋章だけだね」
とアイシスに言われたレンヌはアルテミス1に確認する。
「貴族の紋章は盾に使用するもので、戦場での識別に使われます。その貴族家の象徴になるので、他の紋章と同じものを作ることは禁じられています」
「アルテミス1は、そういう事が得意だろうから図案は任せる」
「了解しました、艦長」
「レンヌ殿、紋章の図案が決まったら紋章官に確認してもらう必要がある。明日にでも紋章官を紹介するから王城に行こう」
せっかくお城まで行くのだから、ついでに王都見物をすることになった。
アイシス伯爵家の二台の馬車にレンヌと子供たちが一緒に乗る。子供たちはアルテミス1特注の服を着て、ご機嫌のようだ。
先に、王城で紋章官を紹介してもらった。紋章の製作には職人を世話してくれると言う。その代わり、三日以内に紋章の図案を持って行くことになった。
お城での用事が終わり王都見物に出発する。前もって、アイリーンから教わった場所に、アイシスが案内してくれるようだ。
一ヶ所目は王都中央広場にある噴水だ。
「後ろ向きにお金を投げ入れると願いが叶うと言われているんだ」
更にアイシスは言う。
「投げ方には決まりがある。お金を右手に持ち左の肩越しに噴水の中に投げ入れるんだ」
それを聞いた子供たちが一斉におねだりをする。
「やりたい」
「面白そう」
「レンヌ父さん、お金ください」
「お金、くだちゃい」
レンヌは近くの屋台で子供たちに食べ物を買い与えた。そして、お釣りの銅貨を一枚ずつ子供たちに渡した。
先ずはアイシスが手本を見せる。後ろ向きに投げ入れられた銅貨は噴水の彫刻に当たって泉の中に落ちた。
「投げる前に願い事を言うんだぞ」レンヌは注意した。
子供たちが噴水の前に並び、口々に願い事を呟いた。そして、一斉に銅貨を投げ入れた。子供たちの銅貨は全て泉の中に入った。
「みんな、きちんと泉の中に入ったぞ。上出来だ」
レンヌが言うと、子供たちは嬉しそうに歓声を上げてレンヌに抱きついた。
レンヌは、抱きつくのを年少組に譲った年長組の頭を撫でた。
次に向かったのは、植物園だ。多種多様の花が咲き乱れる園内を大人二人と子供十人が歩く。
「触れないように」
前もって注意されていた子供たちは触れることなく顔だけを近づけて匂いを嗅いだ。
「うわあ! いい匂い」
「ホントだ、いい匂い!」
やがて、この植物園の名物にもなっている大きな温室に来た。アイシス伯爵家よりも大きい温室の中に入る。
とたんに果物の甘い香りに包まれた。
「凄く、いい匂いがする」
「美味しそうな匂いだわ」
「お腹がへっちゃうよ」
赤や黄色をした色々な形の果実が大小の木にぶら下がっている。子供たちは、あちらこちらを指差しながら歩いた。
温室を抜けると食事処があった。
子供たちが立ち止まって、熱い視線をレンヌに向ける。二十の瞳に訴えかけられてレンヌは言った。
「みんな、中に入るぞ」
子供たちは嬉しい悲鳴を上げてレンヌと一緒に食事処に入った。アイシスは微笑みながらついて行く。
食事が終わって、お腹が満たされた子供たちは眠くなったのだろう。ほとんどの子が、うつらうつらとし始めた。
「よし、みんな帰るぞ。お眠はもう少し我慢しろよ」
「はーい」
「ふぁーい」
全員を連れて馬車に戻るとすぐに子供たちは居眠りを始めた。レンヌは静かに窓の外を見ていた。
その時、見るからに豪華な馬車と擦れ違った。
「おや? 珍しい、ミュウレ帝国の馬車だ」
「アイシス伯爵はミュウレ帝国を知っているんですか?」
「ええ、冒険者時代にミュウレ帝国冒険者ギルドの依頼を受けた事があるので」
「えっ! 他国からの依頼も受けるんですか?」
「はい、冒険者に国境は関係ないので」
レンヌたちは帰路についた。
「宰相様、大変です。ミュウレ帝国から先触れが来ました」
ブロッケンは連絡官から封書を受け取った。
『やっぱり来たか! しかし、思ったよりも早かったな』
封書を開封しながら、そう思った。
「なんと! ミュウレ帝国の宰相が、自らお越しになるのか」
ミュウレ帝国ほどの大国になると、よほどの事がない限り宰相は動かない。ましてや、今まで国交どころか、道さえ無かった国なのだ。
『それほどの事だと思っている訳か』
会見の内容は通商だったので、ブロッケンは予想通りだと思った。そのあと、部下に交易商品の選定作業を命じた。
「閣下、王太子のおなりです」
侍従からの報告にブロッケンは少しだけ表情を変えた。
『エイベル侯爵の孫である王太子は祖父の政敵とも言える自分を嫌悪している。それなのに、何の用が有ってきたのか』
「お邪魔しますよ、宰相」
王太子のオスカーから見れば、大叔父に当たる宰相なので蔑ろにはできない。
「これは王太子、貴方から来られるなんて珍しいですね」
「いえ、ちょっと通りかかったものですから」
「それで、どんなご要件でしょうか?」
「先程、ミュウレ帝国から先触れが来たと、小耳に挟んだものですから確認にきました。これでも一応は王太子ですからね。ミュウレ帝国という大国から先触れが来たとなれば興味を持って当然でしょう」
「わかりました。陛下にも進言するので同行してください」
宰相は従者を使って国王への謁見を申し入れた。返事がすぐに返ってきたので、ブロッケンは王太子と共に国王の元に向かった。
王太子は国王の許可をもらって同席した。
「それでは、道ができたから交易したいと言ってきたのか。それだけで、わざわざミュウレ帝国の宰相が来るのか?」
「それは、私は思いましたが、交易をしたいので会見を望むとしか書いてありませんので」
「うむ、とりあえずは会うしかないか」
「相手はミュウレ帝国ですから私も同席します」
宰相が言うと王太子も慌てて発言する。
「それでは私も同席を」
「お前は出なくていい」
国王は王太子を国政に関わらせる気持ちが無かった。
国王との謁見が終わり、王太子は急ぎ外出した。行く先はエイベル侯爵家である。
「侯爵、大変だ」
取次も待たずに王太子は侯爵の部屋のドアを開けた。
「王太子! いくら貴方でもいきなり部屋に乱入されては困ります」
「それどころでは無いんです。ミュウレ帝国の先触れが来たんだ」
エイベルは驚いて椅子から立ち上がった。
「それは、どういうことですかな?」
「道が開通したから我が国と交易したいとの事だった」
「ほう、どうして、それを?」
「今日、城にミュウレ帝国の馬車が入って来たんだ。私はたまたま見つけて、ブロッケンの所に行ったんだ」
「思ったよりも早く行動に出たものだな、ミュウレ帝国も」
話が終わり王太子が帰った後、エイベルは収まりきれぬ感情に苛立っていた。
ミュウレ帝国との交易が開始されれば、あの場所は通商の要所となるのは分かっていた。ロワール王国とミュウレ帝国の両方の商隊から通行税が徴収できることも。
それだけでもかなりの税収の上に物品税も掛ける事ができる。そうなれば莫大な税収が見込めるだろう。
だからこそ、エイベルはあの場所が欲しかった。自分のものに出来なくても、せめて派閥の貴族に与える事ができたなら高額な上納金が期待できたのだ。
「それにしても、憎きはあのレンヌとか言う冒険者。トリニスタンの時と言い、今回の事と言い、悉く儂の邪魔をする」
エイベルは苛立ちを抑える事ができなかった。執務室にガラスの割れる音が響いた。
それで、アイシスから一着譲ってもらい、それをレンヌ用に仕立て直すことにした。アイシスが自分の屋敷に出入りしている仕立て屋に頼んでくれた。
「後は紋章だけだね」
とアイシスに言われたレンヌはアルテミス1に確認する。
「貴族の紋章は盾に使用するもので、戦場での識別に使われます。その貴族家の象徴になるので、他の紋章と同じものを作ることは禁じられています」
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「了解しました、艦長」
「レンヌ殿、紋章の図案が決まったら紋章官に確認してもらう必要がある。明日にでも紋章官を紹介するから王城に行こう」
せっかくお城まで行くのだから、ついでに王都見物をすることになった。
アイシス伯爵家の二台の馬車にレンヌと子供たちが一緒に乗る。子供たちはアルテミス1特注の服を着て、ご機嫌のようだ。
先に、王城で紋章官を紹介してもらった。紋章の製作には職人を世話してくれると言う。その代わり、三日以内に紋章の図案を持って行くことになった。
お城での用事が終わり王都見物に出発する。前もって、アイリーンから教わった場所に、アイシスが案内してくれるようだ。
一ヶ所目は王都中央広場にある噴水だ。
「後ろ向きにお金を投げ入れると願いが叶うと言われているんだ」
更にアイシスは言う。
「投げ方には決まりがある。お金を右手に持ち左の肩越しに噴水の中に投げ入れるんだ」
それを聞いた子供たちが一斉におねだりをする。
「やりたい」
「面白そう」
「レンヌ父さん、お金ください」
「お金、くだちゃい」
レンヌは近くの屋台で子供たちに食べ物を買い与えた。そして、お釣りの銅貨を一枚ずつ子供たちに渡した。
先ずはアイシスが手本を見せる。後ろ向きに投げ入れられた銅貨は噴水の彫刻に当たって泉の中に落ちた。
「投げる前に願い事を言うんだぞ」レンヌは注意した。
子供たちが噴水の前に並び、口々に願い事を呟いた。そして、一斉に銅貨を投げ入れた。子供たちの銅貨は全て泉の中に入った。
「みんな、きちんと泉の中に入ったぞ。上出来だ」
レンヌが言うと、子供たちは嬉しそうに歓声を上げてレンヌに抱きついた。
レンヌは、抱きつくのを年少組に譲った年長組の頭を撫でた。
次に向かったのは、植物園だ。多種多様の花が咲き乱れる園内を大人二人と子供十人が歩く。
「触れないように」
前もって注意されていた子供たちは触れることなく顔だけを近づけて匂いを嗅いだ。
「うわあ! いい匂い」
「ホントだ、いい匂い!」
やがて、この植物園の名物にもなっている大きな温室に来た。アイシス伯爵家よりも大きい温室の中に入る。
とたんに果物の甘い香りに包まれた。
「凄く、いい匂いがする」
「美味しそうな匂いだわ」
「お腹がへっちゃうよ」
赤や黄色をした色々な形の果実が大小の木にぶら下がっている。子供たちは、あちらこちらを指差しながら歩いた。
温室を抜けると食事処があった。
子供たちが立ち止まって、熱い視線をレンヌに向ける。二十の瞳に訴えかけられてレンヌは言った。
「みんな、中に入るぞ」
子供たちは嬉しい悲鳴を上げてレンヌと一緒に食事処に入った。アイシスは微笑みながらついて行く。
食事が終わって、お腹が満たされた子供たちは眠くなったのだろう。ほとんどの子が、うつらうつらとし始めた。
「よし、みんな帰るぞ。お眠はもう少し我慢しろよ」
「はーい」
「ふぁーい」
全員を連れて馬車に戻るとすぐに子供たちは居眠りを始めた。レンヌは静かに窓の外を見ていた。
その時、見るからに豪華な馬車と擦れ違った。
「おや? 珍しい、ミュウレ帝国の馬車だ」
「アイシス伯爵はミュウレ帝国を知っているんですか?」
「ええ、冒険者時代にミュウレ帝国冒険者ギルドの依頼を受けた事があるので」
「えっ! 他国からの依頼も受けるんですか?」
「はい、冒険者に国境は関係ないので」
レンヌたちは帰路についた。
「宰相様、大変です。ミュウレ帝国から先触れが来ました」
ブロッケンは連絡官から封書を受け取った。
『やっぱり来たか! しかし、思ったよりも早かったな』
封書を開封しながら、そう思った。
「なんと! ミュウレ帝国の宰相が、自らお越しになるのか」
ミュウレ帝国ほどの大国になると、よほどの事がない限り宰相は動かない。ましてや、今まで国交どころか、道さえ無かった国なのだ。
『それほどの事だと思っている訳か』
会見の内容は通商だったので、ブロッケンは予想通りだと思った。そのあと、部下に交易商品の選定作業を命じた。
「閣下、王太子のおなりです」
侍従からの報告にブロッケンは少しだけ表情を変えた。
『エイベル侯爵の孫である王太子は祖父の政敵とも言える自分を嫌悪している。それなのに、何の用が有ってきたのか』
「お邪魔しますよ、宰相」
王太子のオスカーから見れば、大叔父に当たる宰相なので蔑ろにはできない。
「これは王太子、貴方から来られるなんて珍しいですね」
「いえ、ちょっと通りかかったものですから」
「それで、どんなご要件でしょうか?」
「先程、ミュウレ帝国から先触れが来たと、小耳に挟んだものですから確認にきました。これでも一応は王太子ですからね。ミュウレ帝国という大国から先触れが来たとなれば興味を持って当然でしょう」
「わかりました。陛下にも進言するので同行してください」
宰相は従者を使って国王への謁見を申し入れた。返事がすぐに返ってきたので、ブロッケンは王太子と共に国王の元に向かった。
王太子は国王の許可をもらって同席した。
「それでは、道ができたから交易したいと言ってきたのか。それだけで、わざわざミュウレ帝国の宰相が来るのか?」
「それは、私は思いましたが、交易をしたいので会見を望むとしか書いてありませんので」
「うむ、とりあえずは会うしかないか」
「相手はミュウレ帝国ですから私も同席します」
宰相が言うと王太子も慌てて発言する。
「それでは私も同席を」
「お前は出なくていい」
国王は王太子を国政に関わらせる気持ちが無かった。
国王との謁見が終わり、王太子は急ぎ外出した。行く先はエイベル侯爵家である。
「侯爵、大変だ」
取次も待たずに王太子は侯爵の部屋のドアを開けた。
「王太子! いくら貴方でもいきなり部屋に乱入されては困ります」
「それどころでは無いんです。ミュウレ帝国の先触れが来たんだ」
エイベルは驚いて椅子から立ち上がった。
「それは、どういうことですかな?」
「道が開通したから我が国と交易したいとの事だった」
「ほう、どうして、それを?」
「今日、城にミュウレ帝国の馬車が入って来たんだ。私はたまたま見つけて、ブロッケンの所に行ったんだ」
「思ったよりも早く行動に出たものだな、ミュウレ帝国も」
話が終わり王太子が帰った後、エイベルは収まりきれぬ感情に苛立っていた。
ミュウレ帝国との交易が開始されれば、あの場所は通商の要所となるのは分かっていた。ロワール王国とミュウレ帝国の両方の商隊から通行税が徴収できることも。
それだけでもかなりの税収の上に物品税も掛ける事ができる。そうなれば莫大な税収が見込めるだろう。
だからこそ、エイベルはあの場所が欲しかった。自分のものに出来なくても、せめて派閥の貴族に与える事ができたなら高額な上納金が期待できたのだ。
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