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エルフの救出に行く

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「館長、目標の空域に到着しました。どこに着艦しますか?」
 アルテミス1からの通信がレンヌのインカムに入った。
「ギルマス。別邸に着きましたが、どこに降ろしますか?」
「そうだな、どうせ乗り込むんだ。いっそ敷地の中にでも降ろしちまえ」
「了解」
 口元を隠して小声でレンヌは言った。
「だそうだ、アルテミス1」
「了解しました。ちょうど屋敷の前に広い庭があるので、そこに着艦します」
「ギルマス、屋敷の前庭に降ります」
「おう」と言って立ち上がったゴランは、椅子の横にあった大きな斧を持ち上げた。

 音も振動も無く揚陸艦が着艦して、壁が開く。外の景色を見てゴランが驚く。
「おお、本当に着いていやがる。間違いなく領主の別邸だ」
 レンヌとゴランが降りると、揚陸艦はすぐに浮上してステルス状態になった。
 それを見ていたゴランは、また驚いた。
「消えた!」

 屋敷の中から複数の人が飛び出して来た。
「何者だ!」
 執事長のバルダーが大きな声で誰何する。
「ロワール王国冒険者ギルド『トリニスタン支部』のギルドマスター、ゴランだ。領主様に用がある。取り次いでくれ」
「同じく冒険者ギルド2級冒険者のレンヌだ」と言って、銀色のカードを提示した。
 燕尾服を着た品のある中年男性が前に進み出た。
「これはゴラン様、前触れの無いとつぜんのお越しとは少し礼儀を欠きませんか?」
 口の端を少しだけ吊り上げたバルダーが、兵士に囲まれても平然としているゴランに言う。
「礼儀を欠いているのは、トリニスタン辺境伯爵の方だ」とレンヌが叫んだ。
 その言葉に反応して感情を露わにしたバルダーが、語気を強めながらに言う。
「馬鹿なことを。2級とはいえ、一介の冒険者の分際で無礼極まりない。お帰り願おう」
「そうはいかねえんだな、これが。どうしてもと言うなら押し通るぜ」
 ついに感情を爆発させたバルダーは叫んだ。
「ゴラン、貴様。冒険者ギルドのマスターごときが、高貴な辺境伯爵様に無礼を働こうと言うのか」
「いや、犯罪者に会うのに無礼も何もねえんだよ。さっさと取次やがれ!」
 ゴランの強気な姿勢に、怪訝な表情を見せたバルダーは兵士たちに命令した。
「ゴラン、お前。気が狂ったか? お前たちこの狼藉者を取り押さえろ」

 トリニスタン辺境伯爵の私兵がゴランとレンヌを囲んで槍を向けた。その数、二十名。
「館長、攻撃許可を申請します」
 アルテミス1が静かに言った。

 揚陸艦には武装が無いので、アルテミス1はすでに二機の武装大型ドローンをステルス状態で展開していた。

「アルテミス1、しばらくは待機だ」
「館長、了解しました」

 ゴランが兵士たちを威嚇する。
「お前たち。誰に武器を向けているのか、分かっているんだろうな」
 ゴランの脅迫めいた言葉に兵士たちがたじろいだ。その様子を見て、バルダーは叫んだ。
『倒すのは容易いが、できれば怪我をさせたくない』と、ゴランは思っていた。
 兵士たちの様子を見ていたバルダーが痺れを切らす。
「ええい! 怯むな。早く捕えろ」
 と言われても、相手は世に聞こえた二つ名を持つ『道無しのゴラン』である。兵士たちは微動だにできなかった。

 そのとき、レンヌがゴランに言った。
「ここは、任せてください。ギルマスだと手加減しても大怪我をさせてしまうので」
「策が有るんだな。分かった任せる」
 レンヌは万が一にも兵士を傷つけたくないと思い、アルテミス1に指示をだした。

「アルテミス1、手を出すなよ」
 そのあとレンヌは動きを止めて、言葉を付け加えた。
「『手はだしていません。レーザーを出しただけです』と言うのも無しだぞ」
「チッ!」という音が聞こえた。
「舌打ち? 合成音声だから舌など無いから、わざわざ音声を作ったのか!?」
「アルテミス1!」
 と、一応『注意』のつもりでレンヌはアルテミス1の名前を呼んだ。
「申し訳ありません、館長。最近、疑似人格が暴走気味なのです。メンテナンスを要請します」
「わかった、その件はまた後で話そう」
「了解しました」

 レンヌは兵士たちを見回して言った。
「さて、皆さん。怪我はさせませんが、痛みはあります。痛い目を見たくない人は今すぐに退いてください」
 兵士は一人も動かない。レンヌは改めて言った。
「お仕事とは言え、感服しました。でも、大義はこちらに有るのです。押し通らせてもらいます」

 レンヌはパラライザーを抜いた。そして、ゴランを避けながらコマのように回転して周囲に放った。
「うぎゃあ!」
「うわ!」
「痛い!」
 バタバタと倒れていく兵士たちを見てゴランはため息を漏らした。
「凄えな、お前。これも魔法なのか?」
 本当の事を言っても理解してもらえないと思ったレンヌは曖昧に答えた。
「ええ、まあ。そんなもんです」
「煮え切らない答えだが、まあいい。とりあえず先に進むぞ」

 呆然と立ち尽くすバルダーを置き去りにして、二人は館に乗り込んだ。玄関の扉を開け放って中に入ると、そこは大きな広間だった。正面に左右に分かれた階段が見える。二階の廊下まで見える吹き抜けになっていた。その二階の廊下をメイドや執事たちが奥に向かって走っていく。それとは逆に兵士が階段に殺到し、一階の広間の奥からも兵士たちが出て来た。

「ちょっと多いか」
 ゴランが言う通り兵士の数は多い。
『ざっと見て、五十人を越えているか?』とレンヌは思った。
「おい、レンヌ」
「なんでしょう? ギルマス」
「さっきのやつ、まだ使えるのか? あれだけの威力だから魔力切れになってないかと思って」
「大丈夫ですよ。百人でも二百人でもいけます」
「凄えな、お前! じゃあ、頼むわ」

「でも、階段で使うと落ちて怪我をさせるかも?」
「そうだな。その可能性はあるな」
「そうだ、ちょっと待ってください」
 レンヌは少しだけゴランから顔を背けた。
「アルテミス1、裏庭に人はいるか?」
「館長、サーモグラフィシステムで探索の結果、生命反応はありませんでした」

 兵士が階段を下りようとしているのを見て、レンヌは熱線ブラスターで階段の下を射った。広間の床板が一瞬で燃え、大きな穴が空く。
「止まれ! 動くと怪我をするぞ」 
 兵士たちは硬直したように動きを止めてレンヌを見ている。

「窓から離れて、ガラスが割れるかもしれないから」
 兵士たちは動いていいのか迷っているようだった。
「ギルマス、お願いします」
「おめえら、さっさと動け、怪我をしたいのか?」
「皆の者、向こうの廊下に移動するのだ」
 トリニスタン辺境伯爵が漸く声をかけて全員が窓から遠のいた。

 全員が広間を囲む二階の廊下へと移動したのを、レンヌは確認してからアルテミス1に命令した。
「アルテミス1、大型ドローンの主砲で裏庭の地面を射て、ただし、加減はしろよ」
「了解しました。加減して主砲を発射します」

 とつぜん、裏庭が激しく光った。そして、同時に衝撃音が響き、大きな振動で家が揺れた。衝撃でガラス窓が震え、複数のガラスが割れた。悲鳴が起こり、兵士たちは動揺した。全員の視線が裏庭に集まる中、トリニスタンだけがレンヌたちを睨んでいた。

「ゴラン、いったいどういうつもりだ?」
「どうもこうもない。囚えているエルフを出してもらおうか。ご領主様」
「知らん、エルフなど見たこともない」
「アルテミス1、館をスキャンして不審な場所がないか調べろ」
 一分もかからないうちにアルテミス1から返事がきた。
「地下に大きな空洞が有ります。そこに二つの人型の生命反応もあります」





「ギルマス、地下にいるようです」
「確かなのか?」
「間違いありません」

「トリニスタン辺境伯爵、知らないと言うなら地下室を見せてくれ」
「な、なぜ。地下室のことを?」
「こりゃあ、当たりだな」
 そう言って、レンヌの顔を見たゴランは小さく笑った。

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