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田中ライコフ

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身の振り方

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 キョウスケとの二度目のセックスから一ヶ月がたった。季節はほんの少し先に進み、今では随分と肌寒い。人肌の恋しくなる季節だな、と叶真は思う。
 あれから叶真の勃起障害は、治るどころか悪化していくばかりだった。
 男も女もいけるバイだったのが、今では女の裸を見てもまったく興奮することがない。アダルトビデオを見ながら自慰しようとしても、気持ちは萎えていくばかりだ。自分好みの可愛い男がネコのビデオを見たときは興奮したものの、以前とビデオの見かたが変わったことに気が付き、愕然とする。可愛い男を抱く想像をして興奮したのではなく、逞しい男に揺さぶられるネコに同調して興奮してしまったのだ。
 あれほどバリタチだと言い張っていたのに、身体はすっかりとネコに開発されてしまったのである。
 それに気が付いてから叶真はしばらくの間自慰すら止めていた。なんとか男として復帰しようと努力もしてみた。だが結果はなにも変わらず、叶真の秘所は本人に逆らうように熱を待ち焦がれている。
「もう、マジでどうしよっかなぁ……」
 あれからキョウスケから連絡はない。二度と会いたくないと思い、電話番号も消そうと思ったのだが、その度に別れ際の悲しい顔をしたキョウスケを思い出し、消せないでいる。そのことは自分でもわけが分からなかったが、あまり深く考えないことにしていた。連絡を取らなければいいことであったし、仮にあったとしても会う気は毛頭ない。キョウスケの顔を忘れたときに消せば問題ないだろう。
 だがそうなると困ったことがセックスの相手だった。キョウスケとはセフレとしてとてもやっていけず、それはすなわち他の男に抱かれるということだ。
「ありえない……けど一生セックスなしもありえない」
 若干ハタチ。大学生の叶真にとって性生活はこれからなのである。
 今もタチに返り咲きたいという気持ちはあった。やはり一方的に嬲られるのは性に合わない。ネコではあったがキョウスケを攻めたとき、確かに満足感があった。
「攻めるネコ……ね」
 本当はタチとして攻めたい。だがそれが叶わない今、攻めるネコとして性欲を満たすしか方法はなかった。それにそうして征服欲を満たしていけば男のプライドも復活し、タチとしての機能も取り戻せそうな気もする。
「しばらくそうするしかないか……」
 そうと決まれば男を探さなくてはいけない。タチの男……といってもキョウスケや自分のような自己主張の激しい男は駄目だ。気の弱い、ネコのような男。
「そんなタチいるのかよ……」
 一ヶ月ほど前までよく利用していたゲイ用掲示板に接続する。叶真の求める男の条件は厳しいものに感じられたが、それは意外にも簡単に見つかった。
 今までタチを漁ることなどなかったため気が付かなかったが、攻められたいけれど自称タチというのは想像以上に多いようだ。
 叶真にとって理解できない性癖ではあったが、むしろ今は好都合だ。さっそく目に付いた男と接触をはかる。性欲を満たしたいために掲示板に集まっている男は、相手の役割さえ確認できると、とんとん拍子で話が進んだ。
 今日の夜に男と会う約束をした叶真は複雑な心境で自室の天井を見上げる。
 相手を攻める立場とはいえ、あくまでネコは叶真だ。ついにキョウスケ以外の男に抱かれるのかと気分は重くなる。自分を犯した以外の男に抱かれるのは、ネコとしての道を歩んでいる気さえした。
「いやいや、タチに戻るためだから」
 気持ちからタチに戻り、ゆくゆくは完全にタチとしての自分を取り戻す。長い道のりではあったがそれしか方法はない。
 男との待ち合わせの時間まで、叶真は何度も溜め息をつくのだった。
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