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出会い5

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「恋愛対象にはならないけど女の子は嫌いじゃないからさ、傷つけたり泣かせたりしたくないんだよね」
「それは過去にそういった経験があるということか」
「そういうこと。だからお互いのためにも最初に明言しちゃうの。俺、人に嘘をつくのは嫌いだし」
「そうか」
 それだけ言うと、兵藤はじっと慶の顔を見つめた。兵藤は変な男だと思うが、男前だ。見つめられて悪い気はしなかったが、さすがにまじまじと凝視されれば居心地が悪い。
「……なんだよ」
 しりごみしながら、慶はそう言う。真顔で慶を見つめていた兵藤は、そこでようやく顔を綻ばせた。
「いや、お前は誠実な男だと思ってな」
「誠実……? 俺が?」
「ああ。不誠実な人間ならば、嘘をつくことも人を傷つけることも躊躇わないだろう。どちらも好まないお前は、間違いなく誠実な男だ。俺は誠実な人間は好ましいと思う」
 なんてこそばゆいことを面と向かって言うのだろうか。慶は自分の顔に熱が上るのを感じた。
 だが悪い気はしない。兵藤はどう考えても本心ではないことや、世辞を言えるタイプではないだろう。本気で慶を誠実な男だと褒めてくれているのだ。こそばゆいが、慶にとってそれは嬉しいことだった。
「あ、あはは。なんだよ、兵藤。お前もう酔ってるのか?」
 照れているのを誤魔化すように、慶はグラスに口をつけた。
 真面目で堅苦しく、言葉遣いも妙に古めかしい変な男だ。だが嫌な男ではないと思った。   褒められたからそう思ったわけではない。正面から本音を語る兵藤こそ誠実なのだ。そしてそんな誠実な男が、同性愛者だと告白した自分を避けることもなく、対等に接してくれていることに、安堵に似た喜びを感じていた。
「ほら、もっと飲もうぜ。どうせここでは俺らだけ蚊帳の外なんだし」
 慶は兵藤にグラスを持つように勧める。性格は合わないかもしれないが、もう少し兵藤と話がしてみたいと思った。
「残念ながら俺は下戸だ。だが茶でいいのなら付き合おう。後学のためにも、お前から色々聞きたいこともある」
「それ俺の恋バナってこと? まー、その、お手柔らかにな」
 ここで二人はようやくグラスを合わせた。
カランと耳に心地よい音をたてた兵藤のグラスには、夕陽を濃くしたような色の烏龍茶が入っている。
 兵藤との会話は、慶の想像以上に弾んだ。兵藤からの質問に一方的に慶が答えるだけの会話だったが、それでも慶が嫌な気持ちにならなかったのは、兵藤が予想以上に聞き上手だったからだろう。二人がグラスを空けるペースはどんどん進み、そこで事件は起きた。
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