4 / 7
第3話【異形処刑】
しおりを挟む
そして、下校の時間となる。今日も今日とて何事もなく、平凡で退屈な日々が終わろうとしていた。
マコトは帰り道を真っ直ぐ帰ろうとする。
異臭を感じたのは次の瞬間であった。
鉄のような何かの臭い。普段は感じないであろう得体の知れない臭い。
その臭いの方向を向けば、赤いペンキをぶちまけたような痕跡があった。
そこで一人の男がしゃがんで何かを喰らっていた。それが絶滅危惧種の鳥だと気付いたのは一拍遅れてからだった。男は鳥を食っている。
「・・・・・・おえっ」
思わず、こみ上げる吐き気に呻くと男が動きを止め、ゆっくりとマコトの方へ振り返る。
前髪を無造作に掻き上げたような髪に黒いジャケット──そして、男のギラギラした瞳は明らかに異質であった。男はその瞳でマコトを見据え、口の周りを血で濡らしていた。よく見れば、鳥の前足が口の端からはみ出ている。
男はペッとそれを吐き出すと鳥の死骸を捨てて、マコトに近付く。
マコトは恐怖を感じた。あまりにも現実離れした光景に声も出せない。
「・・・お前、金持っているか?」
そんなマコトの事など知らぬかのように男がマコトに尋ねる。マコトは口を開閉させるが声が出せない。あまりの光景に思考がついていかないのだ。男は言葉を続ける。
「言葉が通じなかったか? 俺は金を持っているか聞いているんだが?」
「も、持ってます!」
ようやく、出てきた言葉にするとマコトは答えると男はニヤリと笑う。明らかに恐喝なのだが、何故か電脳ネットにアクセスが出来ない。
原因は明らかに目の前の男に何かあるのだろうが、理由までは理解出来ない。
「ああ。すまんな。言葉が足らなかった。俺は電脳マネーだったか?──あれが使えない体質でな。こうやって食い扶持を自給自足で生活しているんだが、如何せん生ものばっかりで少々飽きていたところだ。なんでも良いからマトモな飯が食いたいところなんだが、頼めるか?」
男は血に染まった顔でそんな事を告げる。電脳ネットが使えない人間など聞いた事がないが、この時代にかなり苦労している人間なのは解る。
電脳世界へのバイパスのない肉体と言うのが気になったが、このままでは自分にも危害を加えてくるかも知れないと思ったマコトは急いで近くのコンビニで適当な弁当を買ってくる。
そこまでしてからマコトはふと、いまなら逃げられるのでは?と思い、男とは反対の方角へと駆け出す。
男が追ってくる気配はない。しかし、あまりに得体の知れない何かに遭遇し、マコトは混乱した。
深呼吸してなんとか心を落ち着けると早速、電脳ネットにアクセスし、得体の知れない男に恐喝されている事を通報する。
「承認したよ。安全な近隣エリアへのマップを表示するから早く避難してね?」
こんな時でも優しく接してくれるAI教師に安堵しつつ、マコトは表示されたそのエリアを目指して走る。
そこで近くを通り掛かった同じ学生服の女子生徒に気付く。
このままでは自分の代わりにこの女子生徒が標的にされると思い、マコトは女子生徒に駆け寄ろうとする。
「おい」
そこで再び聞きたくない声を聞く事となる。あの男が追ってきたのだ。
男はギラギラした瞳でマコトを見据え、一歩一歩近付く。男は血で濡れた顔で笑う。
そして──
「人間のフリしているつもりだろうが臭いは誤魔化せないぞ」
女子生徒にあらん限りの力で拳を叩き込む。
女子生徒は奇声のような悲鳴を上げ、男の拳で胴体を貫かれるが上半身と下半身が分裂し、カサカサと逃げていく。
男は逃げる女子生徒の下半身からまず、仕留めようと助走をつけて跳躍し、体重と勢いをつけて女子生徒の分断された下半身をグチャリと踏み潰す。
そこから眼球や脳髄、内臓がぶちまけられるがマコトは最早、思考を放棄し、ただ、その場で呆然としていた。
上半身だけになった女子生徒が下半身を失った怒りから変貌したのは次の瞬間であった。
手長と呼ばれる古き怪物であるそれは相方を失い、怒りに身を任せて男に襲い掛かる。
男はガードするが、手長と呼ばれる怪物の鋭い爪で腕に引っ掻き傷が出来る。
明らかに異質なその化け物に男は愉快げに笑う。マコトはただ傍観する事しか出来なかった。手長がもう一度、腕を振るう。
「おっるあああぁぁぁっっ!!」
男は吠えると振るわれる手長の腕を掴み、ゴキンと鈍い音を立てて、へし折る。
手長から絶叫が上がる。明らかに人間のそれではない悲鳴。
それを無視して男はもだえる手長の腕を掴み、手長の背中に足を添えて力任せに引っ張り出す。
激痛にもだえる手長。その手長を愉快げにいたぶる男。
そして、ついに手長の腕が限界を超え、鈍い音と共に引き千切られる。
両腕を失って、芋虫の如く這う手長に男はゆっくりと歩み寄り、手長の後頭部を掴んでアスファルトの地面に何度も叩き付ける。
その間、男は血に酔うかのように愉快げに笑い続けた。やがて、顔面が原型を留めていない手長が脱力する。
眼球がはみ出し、下に向かってズルリとこぼれる。その眼球を引き千切ると男はあろう事か、それを口に含み、咀嚼して飲み込む。
「不味いな。やっぱり、失敗した養殖なだけあるか・・・」
男は独り呟くとグチュリと音を立てて手長の頭部を叩き潰し、呆然とするマコトに歩み寄る。
そして、マコトが持っていたコンビニ袋を奪うとマコトの肩を軽く叩いて「ありがとうな」と呟いてから、その場を去って行く。
残されたマコトは未だに理解が追い着いていなかった。追い着ける訳もない。
遠くでサイレンが鳴り響き、ようやく嵐が去ったのに気付くとマコトはその場で胃の中のものを吐き出した。何もかもが現実離れしている。
謎の男による異形生物の公開処刑。観客は平凡な高校生のマコト一人。
異質な空間に残され、現実から非現実だと思っていた事を目撃し、マコトの中でドロドロとした感情がこみ上げてくる。
機械仕掛けの神の悪戯か、それとも悪魔の囁きか・・・マコトの平凡で退屈な日常はその日、些細な出会いにより心のトラウマを残して音を立てて崩れるのであった。
マコトは帰り道を真っ直ぐ帰ろうとする。
異臭を感じたのは次の瞬間であった。
鉄のような何かの臭い。普段は感じないであろう得体の知れない臭い。
その臭いの方向を向けば、赤いペンキをぶちまけたような痕跡があった。
そこで一人の男がしゃがんで何かを喰らっていた。それが絶滅危惧種の鳥だと気付いたのは一拍遅れてからだった。男は鳥を食っている。
「・・・・・・おえっ」
思わず、こみ上げる吐き気に呻くと男が動きを止め、ゆっくりとマコトの方へ振り返る。
前髪を無造作に掻き上げたような髪に黒いジャケット──そして、男のギラギラした瞳は明らかに異質であった。男はその瞳でマコトを見据え、口の周りを血で濡らしていた。よく見れば、鳥の前足が口の端からはみ出ている。
男はペッとそれを吐き出すと鳥の死骸を捨てて、マコトに近付く。
マコトは恐怖を感じた。あまりにも現実離れした光景に声も出せない。
「・・・お前、金持っているか?」
そんなマコトの事など知らぬかのように男がマコトに尋ねる。マコトは口を開閉させるが声が出せない。あまりの光景に思考がついていかないのだ。男は言葉を続ける。
「言葉が通じなかったか? 俺は金を持っているか聞いているんだが?」
「も、持ってます!」
ようやく、出てきた言葉にするとマコトは答えると男はニヤリと笑う。明らかに恐喝なのだが、何故か電脳ネットにアクセスが出来ない。
原因は明らかに目の前の男に何かあるのだろうが、理由までは理解出来ない。
「ああ。すまんな。言葉が足らなかった。俺は電脳マネーだったか?──あれが使えない体質でな。こうやって食い扶持を自給自足で生活しているんだが、如何せん生ものばっかりで少々飽きていたところだ。なんでも良いからマトモな飯が食いたいところなんだが、頼めるか?」
男は血に染まった顔でそんな事を告げる。電脳ネットが使えない人間など聞いた事がないが、この時代にかなり苦労している人間なのは解る。
電脳世界へのバイパスのない肉体と言うのが気になったが、このままでは自分にも危害を加えてくるかも知れないと思ったマコトは急いで近くのコンビニで適当な弁当を買ってくる。
そこまでしてからマコトはふと、いまなら逃げられるのでは?と思い、男とは反対の方角へと駆け出す。
男が追ってくる気配はない。しかし、あまりに得体の知れない何かに遭遇し、マコトは混乱した。
深呼吸してなんとか心を落ち着けると早速、電脳ネットにアクセスし、得体の知れない男に恐喝されている事を通報する。
「承認したよ。安全な近隣エリアへのマップを表示するから早く避難してね?」
こんな時でも優しく接してくれるAI教師に安堵しつつ、マコトは表示されたそのエリアを目指して走る。
そこで近くを通り掛かった同じ学生服の女子生徒に気付く。
このままでは自分の代わりにこの女子生徒が標的にされると思い、マコトは女子生徒に駆け寄ろうとする。
「おい」
そこで再び聞きたくない声を聞く事となる。あの男が追ってきたのだ。
男はギラギラした瞳でマコトを見据え、一歩一歩近付く。男は血で濡れた顔で笑う。
そして──
「人間のフリしているつもりだろうが臭いは誤魔化せないぞ」
女子生徒にあらん限りの力で拳を叩き込む。
女子生徒は奇声のような悲鳴を上げ、男の拳で胴体を貫かれるが上半身と下半身が分裂し、カサカサと逃げていく。
男は逃げる女子生徒の下半身からまず、仕留めようと助走をつけて跳躍し、体重と勢いをつけて女子生徒の分断された下半身をグチャリと踏み潰す。
そこから眼球や脳髄、内臓がぶちまけられるがマコトは最早、思考を放棄し、ただ、その場で呆然としていた。
上半身だけになった女子生徒が下半身を失った怒りから変貌したのは次の瞬間であった。
手長と呼ばれる古き怪物であるそれは相方を失い、怒りに身を任せて男に襲い掛かる。
男はガードするが、手長と呼ばれる怪物の鋭い爪で腕に引っ掻き傷が出来る。
明らかに異質なその化け物に男は愉快げに笑う。マコトはただ傍観する事しか出来なかった。手長がもう一度、腕を振るう。
「おっるあああぁぁぁっっ!!」
男は吠えると振るわれる手長の腕を掴み、ゴキンと鈍い音を立てて、へし折る。
手長から絶叫が上がる。明らかに人間のそれではない悲鳴。
それを無視して男はもだえる手長の腕を掴み、手長の背中に足を添えて力任せに引っ張り出す。
激痛にもだえる手長。その手長を愉快げにいたぶる男。
そして、ついに手長の腕が限界を超え、鈍い音と共に引き千切られる。
両腕を失って、芋虫の如く這う手長に男はゆっくりと歩み寄り、手長の後頭部を掴んでアスファルトの地面に何度も叩き付ける。
その間、男は血に酔うかのように愉快げに笑い続けた。やがて、顔面が原型を留めていない手長が脱力する。
眼球がはみ出し、下に向かってズルリとこぼれる。その眼球を引き千切ると男はあろう事か、それを口に含み、咀嚼して飲み込む。
「不味いな。やっぱり、失敗した養殖なだけあるか・・・」
男は独り呟くとグチュリと音を立てて手長の頭部を叩き潰し、呆然とするマコトに歩み寄る。
そして、マコトが持っていたコンビニ袋を奪うとマコトの肩を軽く叩いて「ありがとうな」と呟いてから、その場を去って行く。
残されたマコトは未だに理解が追い着いていなかった。追い着ける訳もない。
遠くでサイレンが鳴り響き、ようやく嵐が去ったのに気付くとマコトはその場で胃の中のものを吐き出した。何もかもが現実離れしている。
謎の男による異形生物の公開処刑。観客は平凡な高校生のマコト一人。
異質な空間に残され、現実から非現実だと思っていた事を目撃し、マコトの中でドロドロとした感情がこみ上げてくる。
機械仕掛けの神の悪戯か、それとも悪魔の囁きか・・・マコトの平凡で退屈な日常はその日、些細な出会いにより心のトラウマを残して音を立てて崩れるのであった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる