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しおりを挟む「…ヴォルフ…」
やがて、レフィーナが小さな声でヴォルフの名を呼んだ。ただ呼び捨てで名前を呼ばれただけなのに、ヴォルフの心が満たされる。金色の瞳を細めて、ヴォルフは口を開く。
「もう一度」
「ヴォル……んっ…!」
恥ずかしそうに名前を呼ぶレフィーナに、ヴォルフは思わず唇を奪う。初めて触れた唇は柔らかく、甘やかなものだった。
触れるだけですぐに離れれば、レフィーナの顔が耳まで赤く染まる。可愛らしいその姿に、ヴォルフの胸がきゅぅと締め付けられた。
ヴォルフは赤くなったレフィーナの耳を、指先でなぞる。
「耳まで真っ赤だな」
「だっ…だって、急に…その、キス…されたから…!」
「嫌だったか?」
「い、嫌ではなかった、です…」
「…可愛いな」
「ん、ヴォルフ…ふっ…」
恋人の可愛らしい姿に我慢できるはずもなく、ヴォルフは甘やかな唇に啄むようなキスを繰り返す。
触れ合うたびに心が満たされ、より愛おしさが増していく。ずっとこうしていたい、なんてわがままな感情まで湧いてくる。
「レフィーナ、好きだ」
「私もヴォルフ、の事が好きです」
溢れる気持ちをそのまま素直に口に出せば、レフィーナも同じ気持ちを返してくれる。その事に満足しながらも、まだ開放する気はない。
「あぁ。じゃあ、次は敬語だな。普通に話せ」
「えっ?」
「敬語で話すたびに…そうだな、キスでもするか。まぁ…俺はそれでもいいけどな」
意地悪そうな笑みを浮かべながらそう言えば、レフィーナが少し不満そうな視線を投げかけてくる。
だが、ここで引き下がるつもりはない。話し方くらいで…と思わなくもないが、敬語で話されると、どうしても距離を感じるのだ。
もっと親しく、もっと近くに、もっと心を許し合いたい。そんな気持ちがヴォルフの胸を搔き乱す。
「……」
「レフィーナ、俺は恋人とは対等でいたい。敬語だと距離を感じる。だから、なしで話して貰いたいんだ」
「分かり……分かった。そう何度もキスされると……その、恥ずかしいし」
「俺はレフィーナとキスできるのが、嬉しいけどな」
「うっ…」
素直な気持ちを伝えれば、レフィーナが顔を背けた。それから、自分に言い聞かせるように何事かを呟き始める。何を呟いているのかと耳を傾ければ、どうやら敬語で話さないように暗示をかけているらしい。
自分のために頑張るレフィーナがいじらしくて、ヴォルフはレフィーナの顎を掬い上げ、再び唇を奪った。
「な、なっ…!?」
「別にそれ以外ではしないなんて言ってないだろ」
「そ、そうですけど!」
驚いたように口をパクパクさせたレフィーナにヴォルフが意地悪く告げれば、レフィーナが抗議するような声を上げる。まだ咄嗟には言葉遣いを直せないらしく、敬語に戻っていた。
「また戻ってるぞ」
「んっ。分かった…!分かったから!」
宣言通りに唇を塞げば、レフィーナがぐいっとヴォルフを引き離した。レフィーナの顔は真っ赤で、ヴォルフはそれを満足そうに見つめる。
そんなヴォルフを見たレフィーナがむっとした表情を浮かべ、口を開く。
「ヴォルフさ…ヴォルフは、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしがるお前が可愛すぎて、それどころじゃないな。因みに分かっているとは思うが、ファーストキスだ」
「…ファーストキスなのは、こっちだって同じなのに…ヴォルフ、だけ普通なのはずるい」
レフィーナの言葉にヴォルフはふっと笑う。普通な訳がない。
レフィーナの唇に触れてから…いや、触れる前から、ヴォルフの心臓は痛いくらいに早く脈打っていた。どこか不満げなレフィーナの手を掴んで、ヴォルフは早い鼓動を刻む胸に引き寄せる。
「普通、か。ほら、触ってみろ」
「早い…」
「当たり前だろ。なんたってファーストキスなんだから、緊張くらいする」
そこまで言えば、さすがに少し照れくさくなって、ヴォルフは視線を逸らした。余裕なんてない。始めから。
でもそんな所をレフィーナに見られたくなくて、余裕があるように振る舞っていただけだ。照れていれば、ふとレフィーナが口を開く。
「ヴォルフ様、可愛いですね」
「へぇ。余裕は戻ったようだな?」
「あっ…」
可愛い、なんて言われるのは男として嬉しくない。鋭さを取り戻した金の瞳でレフィーナを見れば、レフィーナはまた何時ものように話してしまった事に気付いたらしい。咄嗟に唇を隠したレフィーナの手を、簡単に引き剥がして、ヴォルフは唇を塞ぐ。
「レフィーナの唇は甘くて、柔らかくて…何度でもキスしたくなるな」
「…っ!ふ、二人の時は敬語もなしで、名前も呼び捨てにするから、もう今日は部屋に戻って!」
とうとう限界が来たらしいレフィーナに、部屋の外に追い出される。真っ赤な顔はこれ以上は恥ずかしいと、言葉以上に語っている。
少し…いや、かなり残念だが、これ以上は嫌われてしまうかもしれないので、ヴォルフはおとなしく従う事にした。
「…仕方ないな。約束だぞ。…おやすみ、レフィーナ」
そう告げて、ヴォルフは最後にレフィーナの頭にぽんと手を置いてから、自分の部屋へと戻ったのだった。
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