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「ドロシー!!」

「レオン殿下!!」


 明かりに近寄れば、ドロシー達の姿が見えてレオンが声を上げた。レオンの声に気がついたドロシーが強張っていた表情を緩めて、レオンに駆け寄って行く。
 レオンもまた強張っていた表情を緩めて、自身の胸に飛び込んできたドロシーをしっかりと受け止めた。

 それを横目に見ながら、ヴォルフはレフィーナの姿を探した。すぐに見つけたレフィーナは怪我などもなさそうで、一先ず胸を撫で下ろす。
 それからレフィーナに向かって足を踏み出せば、レフィーナもまたヴォルフに近づこうと足を踏み出した。しかし、レフィーナがヴォルフの元に来ることはなかった。


「……っ!!」


 レフィーナの背後を取ったベルグがレフィーナの腰に腕を回して引き寄せる光景が飛び込んでくる。その光景にヴォルフの胸から黒い感情が溢れ出した。
 
 ───俺のものに触れるのも、奪うのも許さない…!
 
 レンやアードに感じた嫉妬などとは比べ物にならないくらい強い感情に、支配される。
 そんな独占欲と嫉妬にまみれた感情に従うように、ヴォルフはすばやく二人との距離を詰め、ベルグからレフィーナを取り戻す為に剣を振り抜いた。

 その剣はベルグの短剣によって防がれ、キィンと金属のぶつかる高い音が辺りに響く。

 ベルグに対する黒い感情と、嫌がっているレフィーナを早く助けなければという感情が混じりあってヴォルフは焦れる。


「レフィーナを放せ」


 低くうなるような声で言えば、ベルグが挑発するかのように片方の口端を引き上げて笑う。
 片手で短剣を握るベルグに、ヴォルフは容赦なく力を加える。そうすれば、さすがに片手では辛くなったのかベルグの手がレフィーナから離れ、ヴォルフはその隙を逃さずレフィーナの腕を掴んで自身の胸へと引き寄せた。


「あーあ、さすがナイトサマ」

「ヴォ、ヴォルフ様…」

「レフィーナ…」


 自分の腕の中に収まったレフィーナに、ヴォルフの胸から黒い感情が消える。縋るように服を掴むレフィーナの手が小さく震えている事に気づいて、ヴォルフは労るように、安心させるように優しく自身の手で包み込んだ。
 そうすれば、レフィーナが安堵したように息を吐き出した。

 そんなレフィーナにヴォルフの胸が痛んだ。命令で仕方なかったとはいえ、レフィーナには怖い思いをさせた。
 抜いていた剣を鞘に収めて、せめて少しでも安らげるようにと、ヴォルフは優しくレフィーナの背をポンポンと軽く叩く。


「ちょっと!どういう事ですの!?何でっ!」

「ああん?」

「何でその二人は逃がして、私はこんな屈辱を受けなければならないの!?」


 突然ミリーの声が聞こえ、ヴォルフは初めてミリーが地面に転がされている事に気がついた。すぐに状況を判断しなければならなかったのに、レフィーナとベルグを見たらすっかり冷静さを失っていた。
 反省しながら、ミリーを見れば、レオンがドロシーと共に近づいてくる。
 さすがにもう何かがおかしいことには気づいているのだろう。レオンが困惑したように声を上げる。


「そうだね。私もどういう事か知りたいな」

「レオン殿下っ!私…私っ!見てください!私、その二人にめられたのですわ!」


 レオンの姿を見つけたミリーがまるで被害者かのように、ドロシーとレフィーナを悪役に仕立て上げる。それが無駄なことだという事にも気づいていないようだ。
 そんなミリーにベルグの監視につけていたアードが呆れたように声をかけた。


「そんな訳ないじゃん。ドロシー様とレフィーナちゃんは俺達が無理やり連れてきたんだし」

「なっ…!」

「…アード…。アンにはアードが裏切り、ドロシー達を誘拐したと聞いている。だけど…ヴォルフは取り乱していないね?」

「そりゃ、取り乱すわけねぇだろ。今回の事、全部知ってるんだしよ」

「ヴォルフ様…?」


 レオンやドロシー、そしてレフィーナの視線がヴォルフに向けられる。ヴォルフがここに来てから取り乱したのは、レフィーナがベルグに抱きしめられた時だけだ。
 レナシリアの命令とはいえ、騙していた事を申し訳なく思いながらヴォルフは口を開いた。


「…実は…王妃殿下のご命令で…」

「は?母上?」


 予想外の事だったようで、レオンが呆然としたような声を上げた。そんなレオンにベルグが腕を組んで口を挟む。


「そーだよ。怖い女だぜ、あれは」

「ちょっと待って。意味がわからない」

「この誘拐は王妃サマの命令でやったんだよ」

「だから、それが分からないんだよ。何で貴方達にそんな事を命令する必要がある?それに、そもそもいつ母上と接点が?」


 かなり困惑した様子のレオンは頭を振っている。レオンからしたら意味の分からない事ばかりだろう。
 巻き込まれたドロシー達も、状況がつかめていないミリーもレオンとベルグの話に耳を傾けている。


「あー、あんたらの結婚式が終わった直後ぐらいに、王家の諜報員ちょうほういんに俺達は捕まったんだよ。んで、王妃サマに出された選択が二つ。投獄されて処刑を待つか、王妃サマに協力した後、組織を解散して足を洗うか。ってな」


 ベルグの話にレナシリアからもたらされた情報が嘘だったと知り、レオンは眉を寄せた。
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