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そんなヴォルフとレイのやり取りには、気付いていないであろうフィーリアンが口を開く。
「レイ。部屋に戻るぞ。その侍女の方も仕事があるんだ。邪魔をしてはいけない」
「……はぁい。ねぇ、レフィーナ」
「はい、何でしょう」
「好きな人作っちゃ駄目だよ?」
ようやくレフィーナから離れたかと思えば、レイがちらりと視線をヴォルフに向けながらそんな事を言いだした。完全にヴォルフの事を牽制している発言に、思わず口端を引きつらせる。
一方、そんな事を言われたレフィーナは、戸惑った様子を見せていた。
「僕がレフィーナをお嫁さんに貰うんだからね!迎えにくるまで余所見しちゃ駄目だよ!」
「レイでん……っ!」
顔を赤らめたレイが、無防備なレフィーナの唇の端に軽く触れるキスをした。子供の可愛らしいキス、程度のものだが、ヴォルフの中でぐるぐると嫌な感情が一瞬にして湧き上がってきた。そんなヴォルフにレイが挑発するような視線を向けてくる。
正直、今すぐレフィーナから引き離して二度と近づくな、と言いたいところだが、相手はプリローダの王族でありまだ子供だ。余裕がない、なんて思われたくもないので、ヴォルフは衝動をぐっと抑え込んだ。
ヴォルフがそんな風に表情には出さずに堪えていれば、ぎょっとした様子のフィーリアンが声を上げて、レイをレフィーナから引き離した。
「す、すまない。駄目だろ、レイ!女性にそんな事をしたら!」
「レフィーナは僕がお嫁さん貰うんだもん。好きならキスしてもいいでしょ」
「あ、あのなぁ…」
レイの言葉に参ったようにフィーリアンが頭に手を当てて、深い溜め息を付いた。レイはそんなフィーリアンから離れると、ヴォルフの前へとやって来る。下から睨みつけるような視線をヴォルフに向けながら、レイが口を開く。
「レフィーナに手を出したら駄目だからね!」
挑むように指を突きつけられながら言われた言葉に、ヴォルフは無言を返した。もちろんいくら隣国の王子の言葉だとしても、ヴォルフは聞く気はない。
口を開けば余裕のない嫉妬丸出しの発言をしそうなので、ただ黙ってレイを見下ろしていれば、フィーリアンが申し訳なさそうにレフィーナに話しかける声が聞こえてきた。
「すまない、弟が…」
「い、いえ、口の端でしたし、子供のしたことですからお気になさらず」
「まったく…すっかり貴方を気に入ってしまったようだ…。おまけに彼をライバル扱いして…。もしや、彼とお付き合いを?」
「い、いいえ!違います!」
レフィーナがレイの事を子供だとしか思っていない事に、すこし嫉妬のもやもやが薄れる。しかし、ヴォルフとの交際を力いっぱい否定したのには、密かに傷ついた。ヴォルフの中にある恋慕の気持ちを伝えたわけでも無いので当たり前なのだが、やはり現段階ではヴォルフと同じ感情をレフィーナが抱いていないのが分かって落ち込む。
レイはレイで子供扱いには不服そうだったが、レフィーナがヴォルフの事を何とも思っていないのが分かったので、そのことに対しては嬉しそうだ。
「さぁ、レイ。もう戻るぞ」
「…はぁい。じゃあね、レフィーナ」
フィーリアンに連れられたレイはレフィーナに何度も手を振り、最後に姿が見えなくなる寸前でべっとヴォルフに舌を出して去って行った。
その姿にヴォルフの苛立ちが最高潮に達して、とうとう低い声で言葉を吐き出す。
「………あの、ガキ…」
「はい?どうしました、ヴォルフ様?」
苛立ちのままに吐き出した言葉は、どうやらレフィーナには届かなかったようだ。
きょとんとした表情のレフィーナの方を向くと、自然とふっくらとした唇に視線が移る。今すぐこの唇を奪って、レイの記憶を上書きしてしまいたい。しかし、そんな事をすればレフィーナには嫌われるだろう。
首を傾げているレフィーナの頬に、ヴォルフは右手を添えた。先程のキスを思い出して、ヴォルフは嫉妬を含んだ苛立ちから眉を寄せる。そして、頬に添えた右手の親指の腹でレイの触れた部分を拭い始めた。
少しでもレイの残した感触が消えるように、という気持ちからか自然と拭う指に力が入る。
「無防備すぎだ」
「ちょっ、まっ…痛い、です…!それに、拭わなくても…!」
「……少し黙ってろ」
拭わなくても、というレフィーナの言葉にヴォルフの苛立ちが増す。
自分以外の誰かに触れさせないで欲しい。触れた場所をそのままにしておきたくない。そんな独占欲とも言える感情を押さえながら、気の済むまでレフィーナの唇を拭ってから手を離した。
異性としてあまり意識されていないのは悔しいし、この関係をもどかしいとも思う。しかし、焦って告白しても、ヴォルフの気持ちは届かないだろう。今は、まだこの気持を自分の中に留めておくべきだ。
それにしても、とヴォルフは諦めたのかされるままになっていたレフィーナに少し呆れる。無防備過ぎてすぐに唇を奪えてしまいそうだ。ヴォルフを信用しているのか、ヴォルフがそんな感情を持っていないと思っているのか…あるいはその両方か…。ヴォルフは無理やりする気は無いので良いが、他の男だったのなら…そう考えると、ヴォルフは無防備なレフィーナの事が心配になった。
「レイ。部屋に戻るぞ。その侍女の方も仕事があるんだ。邪魔をしてはいけない」
「……はぁい。ねぇ、レフィーナ」
「はい、何でしょう」
「好きな人作っちゃ駄目だよ?」
ようやくレフィーナから離れたかと思えば、レイがちらりと視線をヴォルフに向けながらそんな事を言いだした。完全にヴォルフの事を牽制している発言に、思わず口端を引きつらせる。
一方、そんな事を言われたレフィーナは、戸惑った様子を見せていた。
「僕がレフィーナをお嫁さんに貰うんだからね!迎えにくるまで余所見しちゃ駄目だよ!」
「レイでん……っ!」
顔を赤らめたレイが、無防備なレフィーナの唇の端に軽く触れるキスをした。子供の可愛らしいキス、程度のものだが、ヴォルフの中でぐるぐると嫌な感情が一瞬にして湧き上がってきた。そんなヴォルフにレイが挑発するような視線を向けてくる。
正直、今すぐレフィーナから引き離して二度と近づくな、と言いたいところだが、相手はプリローダの王族でありまだ子供だ。余裕がない、なんて思われたくもないので、ヴォルフは衝動をぐっと抑え込んだ。
ヴォルフがそんな風に表情には出さずに堪えていれば、ぎょっとした様子のフィーリアンが声を上げて、レイをレフィーナから引き離した。
「す、すまない。駄目だろ、レイ!女性にそんな事をしたら!」
「レフィーナは僕がお嫁さん貰うんだもん。好きならキスしてもいいでしょ」
「あ、あのなぁ…」
レイの言葉に参ったようにフィーリアンが頭に手を当てて、深い溜め息を付いた。レイはそんなフィーリアンから離れると、ヴォルフの前へとやって来る。下から睨みつけるような視線をヴォルフに向けながら、レイが口を開く。
「レフィーナに手を出したら駄目だからね!」
挑むように指を突きつけられながら言われた言葉に、ヴォルフは無言を返した。もちろんいくら隣国の王子の言葉だとしても、ヴォルフは聞く気はない。
口を開けば余裕のない嫉妬丸出しの発言をしそうなので、ただ黙ってレイを見下ろしていれば、フィーリアンが申し訳なさそうにレフィーナに話しかける声が聞こえてきた。
「すまない、弟が…」
「い、いえ、口の端でしたし、子供のしたことですからお気になさらず」
「まったく…すっかり貴方を気に入ってしまったようだ…。おまけに彼をライバル扱いして…。もしや、彼とお付き合いを?」
「い、いいえ!違います!」
レフィーナがレイの事を子供だとしか思っていない事に、すこし嫉妬のもやもやが薄れる。しかし、ヴォルフとの交際を力いっぱい否定したのには、密かに傷ついた。ヴォルフの中にある恋慕の気持ちを伝えたわけでも無いので当たり前なのだが、やはり現段階ではヴォルフと同じ感情をレフィーナが抱いていないのが分かって落ち込む。
レイはレイで子供扱いには不服そうだったが、レフィーナがヴォルフの事を何とも思っていないのが分かったので、そのことに対しては嬉しそうだ。
「さぁ、レイ。もう戻るぞ」
「…はぁい。じゃあね、レフィーナ」
フィーリアンに連れられたレイはレフィーナに何度も手を振り、最後に姿が見えなくなる寸前でべっとヴォルフに舌を出して去って行った。
その姿にヴォルフの苛立ちが最高潮に達して、とうとう低い声で言葉を吐き出す。
「………あの、ガキ…」
「はい?どうしました、ヴォルフ様?」
苛立ちのままに吐き出した言葉は、どうやらレフィーナには届かなかったようだ。
きょとんとした表情のレフィーナの方を向くと、自然とふっくらとした唇に視線が移る。今すぐこの唇を奪って、レイの記憶を上書きしてしまいたい。しかし、そんな事をすればレフィーナには嫌われるだろう。
首を傾げているレフィーナの頬に、ヴォルフは右手を添えた。先程のキスを思い出して、ヴォルフは嫉妬を含んだ苛立ちから眉を寄せる。そして、頬に添えた右手の親指の腹でレイの触れた部分を拭い始めた。
少しでもレイの残した感触が消えるように、という気持ちからか自然と拭う指に力が入る。
「無防備すぎだ」
「ちょっ、まっ…痛い、です…!それに、拭わなくても…!」
「……少し黙ってろ」
拭わなくても、というレフィーナの言葉にヴォルフの苛立ちが増す。
自分以外の誰かに触れさせないで欲しい。触れた場所をそのままにしておきたくない。そんな独占欲とも言える感情を押さえながら、気の済むまでレフィーナの唇を拭ってから手を離した。
異性としてあまり意識されていないのは悔しいし、この関係をもどかしいとも思う。しかし、焦って告白しても、ヴォルフの気持ちは届かないだろう。今は、まだこの気持を自分の中に留めておくべきだ。
それにしても、とヴォルフは諦めたのかされるままになっていたレフィーナに少し呆れる。無防備過ぎてすぐに唇を奪えてしまいそうだ。ヴォルフを信用しているのか、ヴォルフがそんな感情を持っていないと思っているのか…あるいはその両方か…。ヴォルフは無理やりする気は無いので良いが、他の男だったのなら…そう考えると、ヴォルフは無防備なレフィーナの事が心配になった。
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