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「ヴォルフ様は行かなくていいのですか」
様子を伺うように、こちらをちらりと見たレフィーナと目が合えば、そんな事を言われた。それに対してヴォルフはレオン達が去っていった方へと視線を移して答える。
「会場までは騎士が配置されているし、少し二人にした方がいいだろう」
「まぁ、そうですね」
ヴォルフの言葉にレフィーナは納得したかのように頷く。
そんなレフィーナを見ながら、さて、どうやって聞こうかとヴォルフは思考を巡らせる。
「あの、薬ありがとうございました。それと、侍女長の事も…」
いろいろと考えていた時に、レフィーナに礼を告げられて、ヴォルフは少し動揺したように金色の瞳を揺らがせた。
これが本来の性格だと思っていても、やはりまだ少し驚いてしまう。
「…別に。お前が礼を言うような事じゃない。俺が勝手にしたことだ」
「じゃあ、お礼も私が勝手に言いたかっただけです」
にこっと笑みを浮かべながら言われた言葉に、思わず言葉に詰まる。
僅かに早くなった胸の鼓動を感じながら、ヴォルフは片手で自身の口を覆う。
もう疑いようもなくレフィーナの素はこれなのだと感じた。今まで悩んだことを思い出しながら、ヴォルフは口元を緩めると口を覆っていた手を外す。
「…やはり、今のお前が素か」
悩んで考えて出した結論が確信に変わる。もう疑いようも無い。
特に反論もなくこちらを見ているレフィーナに言葉を続けた。
「…ドロシー嬢と和解した上で仲良くなっているし、レオン殿下なんてまるきり視界に入っていない。悪役令嬢は演技で、今のお前が素だとしか考えられないだろ…」
ヴォルフの言葉にレフィーナは少し考える素振りを見せてから、肯定するように頷いた。
それを見たヴォルフは思わず色んな感情を込めたため息を付いて、頭を抱えながらその場にしゃがみこんだ。
「間抜けだな、俺は」
令嬢時代から毛嫌いして、身分が剥奪された時は自業自得だと鼻で笑った。自分のしていることも周りのことも、何一つ見えていないのだと馬鹿にさえしていた。それなのに実際はヴォルフの方が何も見えていなかったのだ。まんまとレフィーナの演技に騙されて、母親の影と重ね合わせ嫌って…。
自分の間抜けさを痛感すれば、ふっと自嘲気味な笑みがこぼれた。
その笑みを消すとヴォルフはしゃがんだまま、レフィーナを見上げる。こうなったら全部聞かないとすっきりしない。
「で?」
「はい?」
「どうして、あんな演技をしていたんだ」
「えーと、レオン殿下と結婚したくなかったのと、貴族を辞めたかったからです」
周りに誰もいないことを確認したレフィーナが理由を教えてくれた。
だからわざと自分の評価を下げるように、多くの人の前であんな行動を取っていたのか、とレフィーナの話に納得する。それにレオンと結婚したくなかったのなら、城に来た後の態度も説明がついた。道理でドロシーとレオンを見ても受け流せるわけだ。別にレオンの事が好きではなかったのだから。
ヴォルフは立ち上がると、何故か少し遠い目をしているレフィーナを見つめながら、口を開いた。
「なるほどな。それで、婚約破棄される為に俺にまで暴言を吐いていたのか。…俺が婚約を解消するようにレオン殿下に進言するように」
「…はい。利用して…暴言を吐いてごめんなさい」
「いや、騙された俺が悪い。俺もお前の表面だけを見て、悪口を言ってすまなかった」
スッキリとした気分に、自然に笑顔が浮かぶ。レフィーナの前で笑うのは初めてかもしれないな、なんて思っていれば、レフィーナがこちらをじっと見つめていることに気付いた。
「…なんで、そんなにじっと見つめてくるんだ?」
「目の保養になるかと思いまして」
「は?」
全く予想していなかった答えに、思わずヴォルフは間抜けな声を出してしまった。そんな声を出させたレフィーナは一人で納得したように頷いていて、ヴォルフは首を傾げた。
そんなヴォルフに気付いたレフィーナが付け加えるように言葉を発する。
「ヴォルフ様は顔立ちが整っていますからね」
「…お前の好みの顔なのか?」
自覚は無いが顔が整っているとはそれなりに言われてきた。だが女性にこんな風に面と向かって言われたのは初めてだ。だからなのか、少しからかいたくなってヴォルフはぐっと顔を近づけた。
赤くなるか慌てるか、そんな反応が見てみたかったのだが、そんな期待を裏切ってレフィーナはむしろ遠慮なく顔を眺めてきた。そのせいで思わずヴォルフの方が先にたじろいでしまう。
なんだかまるで、レフィーナの中から別の誰かが見ているような…。そんな風に感じてヴォルフは口を開いた。
「なんか、他人事だな」
「他人事?」
「俺はお前に迫っているのに、お前は迫られている誰かを見ているかのようだ」
「迫っていたんですか?」
「いや、迫っていたというか…からかってたんだが…」
キョトンとしているレフィーナにきまりが悪くなって、ヴォルフは顔を離した。
それからレオン達の事を思い出して、懐中時計を見つめる。レオン達が去ってからそれなりに経っていて、少し慌てた。
「悪いな、もう行かないと。じゃあな」
早口でレフィーナにそう伝えるとヴォルフはその場を急いで離れる。そして、舞踏会の会場でレオン達に合流したのだった。
様子を伺うように、こちらをちらりと見たレフィーナと目が合えば、そんな事を言われた。それに対してヴォルフはレオン達が去っていった方へと視線を移して答える。
「会場までは騎士が配置されているし、少し二人にした方がいいだろう」
「まぁ、そうですね」
ヴォルフの言葉にレフィーナは納得したかのように頷く。
そんなレフィーナを見ながら、さて、どうやって聞こうかとヴォルフは思考を巡らせる。
「あの、薬ありがとうございました。それと、侍女長の事も…」
いろいろと考えていた時に、レフィーナに礼を告げられて、ヴォルフは少し動揺したように金色の瞳を揺らがせた。
これが本来の性格だと思っていても、やはりまだ少し驚いてしまう。
「…別に。お前が礼を言うような事じゃない。俺が勝手にしたことだ」
「じゃあ、お礼も私が勝手に言いたかっただけです」
にこっと笑みを浮かべながら言われた言葉に、思わず言葉に詰まる。
僅かに早くなった胸の鼓動を感じながら、ヴォルフは片手で自身の口を覆う。
もう疑いようもなくレフィーナの素はこれなのだと感じた。今まで悩んだことを思い出しながら、ヴォルフは口元を緩めると口を覆っていた手を外す。
「…やはり、今のお前が素か」
悩んで考えて出した結論が確信に変わる。もう疑いようも無い。
特に反論もなくこちらを見ているレフィーナに言葉を続けた。
「…ドロシー嬢と和解した上で仲良くなっているし、レオン殿下なんてまるきり視界に入っていない。悪役令嬢は演技で、今のお前が素だとしか考えられないだろ…」
ヴォルフの言葉にレフィーナは少し考える素振りを見せてから、肯定するように頷いた。
それを見たヴォルフは思わず色んな感情を込めたため息を付いて、頭を抱えながらその場にしゃがみこんだ。
「間抜けだな、俺は」
令嬢時代から毛嫌いして、身分が剥奪された時は自業自得だと鼻で笑った。自分のしていることも周りのことも、何一つ見えていないのだと馬鹿にさえしていた。それなのに実際はヴォルフの方が何も見えていなかったのだ。まんまとレフィーナの演技に騙されて、母親の影と重ね合わせ嫌って…。
自分の間抜けさを痛感すれば、ふっと自嘲気味な笑みがこぼれた。
その笑みを消すとヴォルフはしゃがんだまま、レフィーナを見上げる。こうなったら全部聞かないとすっきりしない。
「で?」
「はい?」
「どうして、あんな演技をしていたんだ」
「えーと、レオン殿下と結婚したくなかったのと、貴族を辞めたかったからです」
周りに誰もいないことを確認したレフィーナが理由を教えてくれた。
だからわざと自分の評価を下げるように、多くの人の前であんな行動を取っていたのか、とレフィーナの話に納得する。それにレオンと結婚したくなかったのなら、城に来た後の態度も説明がついた。道理でドロシーとレオンを見ても受け流せるわけだ。別にレオンの事が好きではなかったのだから。
ヴォルフは立ち上がると、何故か少し遠い目をしているレフィーナを見つめながら、口を開いた。
「なるほどな。それで、婚約破棄される為に俺にまで暴言を吐いていたのか。…俺が婚約を解消するようにレオン殿下に進言するように」
「…はい。利用して…暴言を吐いてごめんなさい」
「いや、騙された俺が悪い。俺もお前の表面だけを見て、悪口を言ってすまなかった」
スッキリとした気分に、自然に笑顔が浮かぶ。レフィーナの前で笑うのは初めてかもしれないな、なんて思っていれば、レフィーナがこちらをじっと見つめていることに気付いた。
「…なんで、そんなにじっと見つめてくるんだ?」
「目の保養になるかと思いまして」
「は?」
全く予想していなかった答えに、思わずヴォルフは間抜けな声を出してしまった。そんな声を出させたレフィーナは一人で納得したように頷いていて、ヴォルフは首を傾げた。
そんなヴォルフに気付いたレフィーナが付け加えるように言葉を発する。
「ヴォルフ様は顔立ちが整っていますからね」
「…お前の好みの顔なのか?」
自覚は無いが顔が整っているとはそれなりに言われてきた。だが女性にこんな風に面と向かって言われたのは初めてだ。だからなのか、少しからかいたくなってヴォルフはぐっと顔を近づけた。
赤くなるか慌てるか、そんな反応が見てみたかったのだが、そんな期待を裏切ってレフィーナはむしろ遠慮なく顔を眺めてきた。そのせいで思わずヴォルフの方が先にたじろいでしまう。
なんだかまるで、レフィーナの中から別の誰かが見ているような…。そんな風に感じてヴォルフは口を開いた。
「なんか、他人事だな」
「他人事?」
「俺はお前に迫っているのに、お前は迫られている誰かを見ているかのようだ」
「迫っていたんですか?」
「いや、迫っていたというか…からかってたんだが…」
キョトンとしているレフィーナにきまりが悪くなって、ヴォルフは顔を離した。
それからレオン達の事を思い出して、懐中時計を見つめる。レオン達が去ってからそれなりに経っていて、少し慌てた。
「悪いな、もう行かないと。じゃあな」
早口でレフィーナにそう伝えるとヴォルフはその場を急いで離れる。そして、舞踏会の会場でレオン達に合流したのだった。
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