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王都編35
しおりを挟むグライスの一件から四日後。
レストは窓際の作業机でベール作りに勤しんでいた。カルトもシアラも居らず、静まり返った部屋でせっせと手を動かす。
「………はぁ…」
思わず出たため息にレストは手を止める。
あの一件以来、毎日時間が空く度にレストを訪ねて来ていたルナシークが、今日は朝から来ないのだ。もうお昼も過ぎていた。
「仕事が忙しいのかな…?」
グライスの処理もあって仕事が忙しいのかもしれない、と考える。
因みにグライスは王室専属医師を解雇され、疫病が深刻な村へと派遣されたらしい。
問題を起こしたものの医者としての実力は確かなので、村で治療に専念させることにした、と真っ黒な笑みでルナシークが話していた。
「あの時のルナシーク様…黒かったなぁ…。……自分で会いに行こうかな」
ルナシークの事を考えてそわそわしてしまうレストは、そう呟くと椅子から立ち上がる。
たまには自分で会いに行ってもいいはずだ。
コンコンッ
「はい?」
「失礼致します」
「あ、シアラさん」
ノックをして入ってきたシアラは物凄くニコニコしている。その機嫌がよさそうなシアラにレストは首を傾げた。
何か良いことでもあったのだろうか。
「レスト様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「え?えっと…今からルナシーク様の所に行こうかと…」
「まぁ!そうでしたか!ですが、ルナシーク様は今、忙しいと思いますよ」
「あ…やっぱり仕事が忙しいの?」
レストの問いには答えず、シアラは嬉しそうな笑みを浮かべている。
仕事が忙しいならば会うのは無理そうだ、とレストは考えてシアラの用を聞くことにした。
「それなら、時間空いてるわ」
「そうですか!では、少し歩きますがついて来て頂けますか?」
「えぇ、分かったわ」
レストは頷くと簡単に作業机を片付けると、シアラの後に続く。覚えのある道順にレストはきょろきょろと周りを見渡した。
「あれ?この道って…」
「ふふっ、どこへ向かうか分かってしまいましたか?」
「えぇ、舞踏会の会場よね?」
レストが答えたところで丁度、会場へと続く扉の前に到着した。
しかし、今日は何か催しがあるとは聞いてないし何だろうかとレストは首を傾げる。
シアラは迷いなく扉を開けて、レストに入るように促した。
「何もないようだけど…」
「はい、今日はここの使用予定はありませんので」
「じゃあどうしてここに?」
「用があるのはこちらですよ」
会場を横切って行くシアラについていけば、あの人目を避けるバルコニーの前で足を止める。
シアラが丁寧な動作でカーテンを開けると、レストは促されてバルコニーへと足を踏み入れた。
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