その求婚、お断りします!

月椿

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舞踏会が終わってから一週間。
国中が注目する王子達が求婚をする日だ。
フェーズ村では村の入り口から広場までの道の両端に村人達が列を作って、今か今かとそわそわ待ち構えていた。レストとイーリアは広場の一番奥にいる。


「イーリア、緊張し過ぎよ」


イーリアはレストの手をしっかりと握ってぷるぷると震えていた。ずっとそんな感じのイーリアにレストは根気よく声をかけて、何とか緊張を解そうとしている。
いっぱいいっぱいの様子のイーリアが応えることはないようだったが。


「もう、イーリア。大丈夫だから、しっかり───…」

「おぉー!!ほんとに来たぞー!!」


レストの声を遮るように入り口でざわめきが起きた。その声にレストがイーリアから視線をそちらに向けると、自分達が乗った馬車よりも数倍は精巧な作りの真っ白な馬車がゆっくりと入ってきた所だった。
村人達が歓迎の印に花びらを空に向かって投げている。


「イーリア、良かったわね。ちゃんと約束を守ってくださったわよ」

「……うんっ」


やっと笑顔を浮かべたイーリアに喜びと寂しさが混じって、レストは少し涙ぐむ。
馬車は二人の少し前で止まると、従者が丁寧にお辞儀をしてから馬車の扉を開けた。
さらりとした金髪に太陽が反射する。


「ソルフェスト様…」

「イーリア!」


舞踏会の時と変わらない優しい笑みを浮かべながら、ソルフェストが馬車から降りてイーリアの元へと歩いて来た。
そして、イーリアの前でひざまずくとイーリアの左手をそっと手に取る。


「イーリア。舞踏会の時の約束を果たしに来たよ」


甘く溶けそうな眼差しと微笑みを浮かべながらソルフェストはイーリアを見つめる。


「私の妃になっておくれ」


そう言うと、ソルフェストはイーリアの左手の薬指にそっと口づけを落とした。
イーリアは顔を真っ赤にさせながら頷いて、ソルフェストの額にそっと口づけをする。
この国では求婚の時に男性は生涯貴方だけを妻としますという誓いとして薬指に、女性は求婚を受け入れた証として額に口づけをするしきたりがあるのだ。


「ありがとう、イーリア。大切にするよ」

「はいっ」


静かにしていた村人達がソルフェストとイーリアが抱き合うのを見ると、大声で祝福の声と拍手を二人に投げ掛けながら二人を囲んだ。
村長は嬉しさのあまりむせび泣いている。


「おめでとう、イーリア」

「ありがとう、レスト!貴方のおかげよ!」


満面の笑みを向けてくれたイーリアに、レストは頑張って良かったと心から思う。
少し滲んだ涙を手で拭うと、改めて二人に祝福の拍手を送ったのだった。
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