ホットココア・ラブ

御手洗

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12月24日(日)

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朝目が覚めまずスマホをチェックすると、見知らぬ名前から連絡が来ており、寝起きでぼーっとしていた頭が一気に覚醒した。

改めて開いて確認すると、染谷葵という名前から"朝いつもココアを頼んでるものです。連絡遅くなってすみません"というメッセージが来ていた。

とりあえず気持ち悪いとは思われていないみたいで安心した。

"全然大丈夫。俺の方こそいきなりあんなことしてごめん。"と返信すると、直ぐに既読のマークがついたので今か今かと彼から返信が来るのを待ちわびる。


しばらくして、ピコンという音ともに、"いや、それは全然大丈夫です。…あの、あってお話したいことがあるんですけど今日って空いてますか?"というメッセージが送られてきた。

今日はクリスマスパーティーがあるけれど、別にキャンセルしてしまえばいいだろう。何せこっちは俺の2ヶ月の片思いが掛かっているのだから。

"うん、空いてる。いつものコーヒーショップに今から来れる?"とだけ返信し、出掛ける準備を始めた。


***

店に入ると彼が既に席に座って待っていたので急ぎ足で彼の席に向かう。
いつもは俺が店に居て待っている側だったのでなんだか新鮮に感じた。

「ごめん、待った?」

「いえ、俺も着いたばっかなんで」

「良かった。あ、飲み物だけ頼んできてもいいかな?」

流石に自分が働いているところとはいえ、何も頼まずに居座るのも気がひけるため彼に尋ねた。

「あ、どうぞ遠慮なく」

レジの方に向かうと、幸い日曜の朝だったため客は全くおらず並ばないで直ぐに買うことができた。
一つ深呼吸をし、気合いを入れたところで彼の席の方へと戻る。 

「お待たせ。」

彼の目の前の席に座り、コーヒーを一口飲む。彼の話したいことというのが気になって仕方ないが、急かすことはせずにとりあえず今日の天気など当たり障りのない会話で彼が話す準備ができるのを待つ。しばらくして、決心したように彼が口を開いた。

「えっと、その、俺がほぼ毎日このコーヒーショップ通ってるのは多分気づいてると思うんですけど…それで…ココア買いに来るのも目的の1つなんですけど、」

次の言葉を中々言い出すことができないのか、一息ついた後に彼が続ける。

「一番は辻岡さんに会いに来るためだったっていうか…あの、俺の勘違いだったら無かったことにして貰っていいんですけど…俺も、ずっと辻岡さんのこと気になってて」

「勘違いじゃないよ」

半ば彼の言葉を遮るように答えた。

「俺もずっと可愛いな、って気になってた。」

俺の本気が伝わるように、彼の目を真っ直ぐに見て続ける。

すると、彼の顔がみるみるうちに赤く染まるからああ、可愛いなあと思ってしまった。


「この後って何か予定ある?」

「な、ないです」

「じゃあ今日1日デートしよっか」


***

コーヒーショップを出た俺たちは映画館やショッピングモールなどのある複合型施設にやってきた。
クリスマスイブということもあって何処に行っても混んではいたが、それでも始めてこうして彼と過ごす時間の嬉しさから周りのことはあまり気にならなくなっていた。彼も段々と緊張がほぐれていったのか少しずつ笑顔を見せてくれる回数が増え、思わず此方まで微笑んでしまった。髪は金髪に染めているのにどうやらシャイなようで、そのギャップがまた可愛いなと思った。




映画を見たり食事をしたりゲーセンに行って遊んだりしているとあっという間に夜になってしまい、外に出た頃には真っ暗になっていた。

確かこの近くで今ならイルミネーションがやってるはずだということを思い出し、彼に少し歩こっか、と声を掛けた。

歩いている間に、彼が実際は高校生なのだということを知った。平日の朝に私服でいるからずっと大学生かと思っていたが、私服登校オーケーな学校に通っているらしい。こうしてまた今まで何も知らなかった彼のことを一つ知ることができ嬉しくなる。

しばらくそうして歩いていると辺り一面がイルミネーションで囲まれた広場に着いた。イルミネーションなんて久しぶりに見たけどやっぱ綺麗だな、と思って眺める。

彼の方をちらり、と確認すると彼も同じことを思っていたようですっかりイルミネーションに夢中になっていた。

俺はというと、イルミネーションで照らされた彼の顔が綺麗だな、ともはやイルミネーションそっちのけでじっと彼の横顔を見つめてしまっていた。彼も気づいたのか此方を振り返った。

「すごい綺麗ですね…!」

「うん、喜んでくれてよかった」

まさか昨日まではクリスマスイブにこんなロマンチックな場所に彼と来ることになるとは思ってもみなかった。というか未だにこの現実離れした空間も手伝って夢なんじゃないかとすら思う。

けれど、これは確かに現実で、今までずっと片思いし続けていた男の子はこのイルミネーションの中で俺に笑いかけてくれているのだ。
幸せすぎて死にそう、ってこういうこと言うんだろうなと思いながら彼との時間を目一杯楽しんだ。


***

「今日は本当にありがとうございました、すごい楽しかったです!」

「うん、俺も」

もう時間も遅いので高校生だと言う彼を家まで送って、家の前でお互いに向かい合う。

「明日もココア頼みに行くので…」

「うん、待ってる」

「えっと…ま、また明日!」

そう告げた彼が此方に近づいて来たかと思えば、次の瞬間にはチュッという音と共に何かが頬に触れる感触を感じ、そしてまた次の瞬間には彼はもう目の前からいなくなっており、扉がばたんと閉まる音だけが響いた。

彼に頬にキスされたのだ、と理解したのはそれからしばらく経ってからのことだった。


「可愛すぎんだろ…」

ようやく何が起こったか把握した時には彼のあまりの可愛さに思わずその場で少し座り込んでしまった。




明日また彼に会えるんだ、今度はただの客と店員以上の関係で。
その事実を改めて実感し、にやけそうになる頬を必死で抑えながら、自分も帰ろう、と自分の家へと向かった。
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