上 下
58 / 70
第五章 邪神ミュートレス02

第56話 作戦が決まりました

しおりを挟む


 という事で一番反対していたであろう二人の許可が下りた後、話が消化されていくのは早かった。

 タイムリミットはお父様が呼んだ騎士団たちが来るまで。
 それまでに何とか黒猫を見つけて説得しなければ、彼とは永遠に会えなくなってしまう。

 今回は殺されなかったが、もしかしたら私を転生させた神様に「失敗」とみなされて強制的に新たな周回……三週目が始まってしまうかもしれない。

 今はまだそう苦痛に感じる事は無いのだが、同じ時間を何周も繰り返すのは人間にとって良くない事だろう。おそらく、すごく辛い事になる。

 次があるから、などと甘く考えない方が良いだろう。

 転生した悪役の中身が一味どころか二味も三味も違ってきたら、お兄様やトールの知る私ではなくなってしまうだろうし、転生前の私と同じ人間だとは思えなくなってしまう。

 とりあえず私がお兄様とウルベス様に相談したのは、力が欲しかったからだ。
 と、言ってもその使い方は直接相手と戦闘するためではない。

 説得するまでに、一週目で私が死ぬことになった攻撃……刺殺の一手を防いでもらう為だ。

 見ての通り分かる事だが、邪神の今の姿は猫だ。
 けれど彼は、感情が高ぶると肉体をわずかに変えて、巨大化してこちらに襲い掛かって来るはず。

 前回はそれで、相手の鋭利な爪でグサリとやられたので、それを防いでほしかったのだ。

 それに関する黒猫の変化事は、(つい先ほど説明したように)加護をもらった時に女神様から大体の事情を聞いた……という事で話を通した。

 私の目標はとりあえず、黒猫を説得して殺されないようにする事。

 神様の頼みを聞くまでだと、加護を渡さない事だろう。

 乙女ゲームらしからぬ殺伐とした目的だが、一週目とは違ってこの場には、四人も頼もしい男性が揃っている。

 きっと何とかなるだろう。

 わたしは考えた案を目の前に揃った彼等に話して聞かせた。





「……という事なのだけど」

 ざっと数分かけて話し終えた後。
 内容を聞いた四人は、思い思いの反応を示した。

 お兄様やウルベス様は思いもよらなかったという風にあっけに取られていて、アリオは楽しげにしていて、トールは心配げにしている。

 最初に口を開いたトールは、誰よりも呆れを隠さなかった。

「私はお嬢様を信じるようにしたいのですが……。まさか、そう来ますか。この私にアリオとそれをやれとおっしゃるつもりですか。つまり、私は試されているんですね」

 後に続くのはアリオだ。

「別に良いじゃん、俺は楽しいしそういうの好きだよ。でも直接ついていけないのは残念だな」

 仲間外れにするつもりはないのだが、結果的に彼等は私達から離れる事になってしまった。
 試す為さない云々については、そういうつもりは別に無かったのだが、結果的にそうならざるを得なくなってしまったので、どうにか寛容に考えてもらうしかない。

 アリオが、そんな心中穏やかではない様子のトールを不思議そうに見つめながら訪ねた。

「トールはお嬢の意見の通りにするのが嫌なの?」
「いいえ、そんな事はありません。やりますよ。信頼を挽回する良い機会ですし、それに……お嬢様に他に目を向けろと言われたばかりですしね」
「?」
「考えなくてもよろしい。こちらの話です、アリオの分際でお嬢様に詳しく尋ねようなどとは思わないでください。呪いますよ」
「何だよ、それ。トールはいつも意地悪だな」

 何やらケンカしている様な雰囲気になってしまったが、要訳すれば引き受けてくれたという事で良いのだろう。
 彼らが言い合いをする間に話しかけてくるのはお兄様とウルベス様だ。

「お前ね……、よくそんな事思い付くね」
「ふむ、予想はしていたが、こうも普通ではない説明を受けるとは、さすがアリシャ殿。こちらの度肝を抜くのが上手い」

 反対される、という事ではなさそうだったが、やはり呆れの色が強い。誉められているわけでもないだろう。
 提案して置いて今更だと思うが、やはり少しばかりこの作戦は難しいところがあるかもしれない。

 だが、やるしかないのだ。
 しり込みしている時間はない。
 とにかく、決まったのなら後は行動するだけだ。

 私は自分の言った事が間違っていないと信じる事にする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。

舘野寧依
恋愛
ヤンデレさんにストーカーされていた女子高生の月穂はある日トラックにひかれてしまう。 そんな前世の記憶を思い出したのは、十七歳、女神選定試験が開始されるまさにその時だった。 そこでは月穂は大貴族のお嬢様、クリスティアナ・ド・セレスティアと呼ばれていた。 それは月穂がよくプレイしていた乙女ゲーのライバルキャラ(デフォルト)の名だった。 なぜか魔術師様との親密度と愛情度がグラフで視界に現れるし、どうやらここは『女神育成~魔術師様とご一緒に~』の世界らしい。 まあそれはいいとして、最悪なことにあのヤンデレさんが一緒に転生していて告白されました。 そしてまた、新たに別のヤンデレさんが誕生して見事にタゲられてしまい……。 そんな過剰な愛はいらないので、お願いですから普通に恋愛させてください。

悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!

待鳥園子
恋愛
とある乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったレイラは、前世で幼馴染だったヒロインクロエと協力して、攻略条件が難し過ぎる騎士団長エンドを迎えることに成功した。 最難易度な隠しヒーローの攻略条件には、主要ヒーロー三人の好感度MAX状態であることも含まれていた。 そして、クリアした後でサポートキャラを使って、三人のヒーローの好感度を自分から悪役令嬢レイラに移したことを明かしたヒロインクロエ。 え。待ってよ! 乙女ゲームが終わったら好感度MAXの攻略対象者三人に私が追いかけられるなんて、そんなの全然聞いてないんだけどー!? 前世からちゃっかりした幼馴染に貧乏くじ引かされ続けている悪役令嬢が、好感度関係なく恋に落ちた系王子様と幸せになるはずの、逆ハーレムだけど逆ハーレムじゃないラブコメ。 ※全十一話。一万五千字程度の短編です。

完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!

水鳥楓椛
恋愛
 乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!? 「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」  天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!! 「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」  ~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...