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第四章 邪神ミュートレス01

第45話 とうとう邪神と正面からご対面です

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 その使用人は大声を発して、他の者達に火災が起きた事を知らせてくれる。

「中からお嬢様達の声が。閉じ込められてる! 鍵を持ってこい、急げ!」

 トールが着ていた上着を脱いで炎の上にかぶせれば、さらにその勢いは小さくなっていたが、後々どうなるかはまだ分からない。
 火が燃え移っている他の品々はまだ健在なので、危機的状況は変わらなかった。

「お嬢様、煙を吸いこんではいけません。姿勢を低くして、これを」
「トール……でも」

 かがむ様に言われて、姿勢を低くすれば、その上からさらにトールがこちらの身を護る様にと己のシャツでをかぶせ、くるんでくれた。

「恰好悪い所を見せてしまったんですから、守らせてください。疑った事については、使用人達に後で謝らなければいけませんね」

 つい最近あった出来事で、アリオにしっかりケジメをつけさせたトールだ。
 他人に厳しい彼は自分にもそうだった。

 たとえそれが他から見て分からない事であっても、彼は公平に己を裁くのだろう。

 しばらくすれば、物置のドアがガチャガチャと音を立てて、数秒もしない内に外から乱暴に開かれた。

「良かった」
「これで外に出られますね」

 私はトールに守られるようにして、部屋の外へ転がりでる。

 低い姿勢になって、できるだけ煙を吸わないようにしていたが、トールがかけてくれたシャツを見るとすすだらけだった。

「トールは大丈夫?」
「平気ですよ。お嬢様こそ」

 心配になったが、多少すすけてはいるもののトールも無事の様で、心の底からほっとした。

 物置の中を見てみると、扉側はともかく奥側は真っ赤なになっていた。
 扉が開いた事で、風と共に新鮮な酸素が入ったからだろうか。
 火の回りが結構はやかった。

 だが、そんな灼熱の物置の中から歩み寄って来る存在がいる。
 先程瓶を投げつけてきたあの猫だ。

 ゆっくりと、熱さをまるで感じてないようなその足取りで、その歩みには迷いない。
 あの姿を見てただの猫だと思う人間は誰もいないだろう。

 私の言葉を聞いて、私を殺そうとした犯人が使用人ではないという結論に至ったトールですらも、以前なら実行犯が猫であるという事実を受け入れがたかったはずだ。
 だがそんな時に、計らずともその証拠となるものが向こうから飛び込んできた。
 これで犯人捜しは解決で、別にいると考えるような人間はもう存在しないだろう。

 たた未だに、命の危機は回避未達成で、継続中ではあるが。

 一周目の時に、私を刺殺した黒猫の姿をした最後の攻略対象。

 我が家に住み着いていて、人に中々なつかないあの黒猫。

「二度目だけど、やっぱり邪神なのね……」

 だがその正体は創世神話で語られている邪神ミュートレスだ。

 あの黒猫の正体は最後の攻略対象であり、乙女ゲーム「ラブ・クライシス」でも、この世界でもかなりの重要人物。
 女神ユスティーナの手にかかって、封印されているはずのいにしえの神だったのだ。

 彼は、ここ最近でようやく、長い間力を蓄えて黒猫として活動できるようになり、女神ユスティーナと全ての大元である、争いの原因を作った生命わたし達を憎んでいた。

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