47 / 70
第四章 邪神ミュートレス01
第45話 とうとう邪神と正面からご対面です
しおりを挟むその使用人は大声を発して、他の者達に火災が起きた事を知らせてくれる。
「中からお嬢様達の声が。閉じ込められてる! 鍵を持ってこい、急げ!」
トールが着ていた上着を脱いで炎の上にかぶせれば、さらにその勢いは小さくなっていたが、後々どうなるかはまだ分からない。
火が燃え移っている他の品々はまだ健在なので、危機的状況は変わらなかった。
「お嬢様、煙を吸いこんではいけません。姿勢を低くして、これを」
「トール……でも」
かがむ様に言われて、姿勢を低くすれば、その上からさらにトールがこちらの身を護る様にと己のシャツでをかぶせ、くるんでくれた。
「恰好悪い所を見せてしまったんですから、守らせてください。疑った事については、使用人達に後で謝らなければいけませんね」
つい最近あった出来事で、アリオにしっかりケジメをつけさせたトールだ。
他人に厳しい彼は自分にもそうだった。
たとえそれが他から見て分からない事であっても、彼は公平に己を裁くのだろう。
しばらくすれば、物置のドアがガチャガチャと音を立てて、数秒もしない内に外から乱暴に開かれた。
「良かった」
「これで外に出られますね」
私はトールに守られるようにして、部屋の外へ転がりでる。
低い姿勢になって、できるだけ煙を吸わないようにしていたが、トールがかけてくれたシャツを見るとすすだらけだった。
「トールは大丈夫?」
「平気ですよ。お嬢様こそ」
心配になったが、多少すすけてはいるもののトールも無事の様で、心の底からほっとした。
物置の中を見てみると、扉側はともかく奥側は真っ赤なになっていた。
扉が開いた事で、風と共に新鮮な酸素が入ったからだろうか。
火の回りが結構はやかった。
だが、そんな灼熱の物置の中から歩み寄って来る存在がいる。
先程瓶を投げつけてきたあの猫だ。
ゆっくりと、熱さをまるで感じてないようなその足取りで、その歩みには迷いない。
あの姿を見てただの猫だと思う人間は誰もいないだろう。
私の言葉を聞いて、私を殺そうとした犯人が使用人ではないという結論に至ったトールですらも、以前なら実行犯が猫であるという事実を受け入れがたかったはずだ。
だがそんな時に、計らずともその証拠となるものが向こうから飛び込んできた。
これで犯人捜しは解決で、別にいると考えるような人間はもう存在しないだろう。
たた未だに、命の危機は回避未達成で、継続中ではあるが。
一周目の時に、私を刺殺した黒猫の姿をした最後の攻略対象。
我が家に住み着いていて、人に中々なつかないあの黒猫。
「二度目だけど、やっぱり邪神なのね……」
だがその正体は創世神話で語られている邪神ミュートレスだ。
あの黒猫の正体は最後の攻略対象であり、乙女ゲーム「ラブ・クライシス」でも、この世界でもかなりの重要人物。
女神ユスティーナの手にかかって、封印されているはずの古の神だったのだ。
彼は、ここ最近でようやく、長い間力を蓄えて黒猫として活動できるようになり、女神ユスティーナと全ての大元である、争いの原因を作った生命達を憎んでいた。
0
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
砂糖のかわりに恋愛を
藍条森也
恋愛
※規約変更に伴い、『NTRれたあたし。元カレの結婚式に出たら、なぜか、ざまぁしてしまった』に、カクヨムで公開していた恋愛短編を追加し、現代恋愛短編集としました。内容は同じです。
※『カクヨム』にても公開。
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
私が悪役令嬢? 喜んで!!
星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。
神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。
だったら悪女を演じてやろうではありませんか!
世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる