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第二章 アリオ・フレイス

第24話 特別公演についてきた猫が若干怪しげです

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 その日は、アリオに教えられた特別な公演の日だった。

 私はさっそく予定を調整して、もろもろの準備を行い、特別講演を見に行く事になった。

 護衛兼使用人であるトールと共に、この間の訪れた建物よりも一回り大きなホールへ入る。

 ホールの隅や舞台の隅には大きな機材……演出用だろう器具がたくさん設置されていた。
 この世界の文明は前世で生きていた私の世界ほどではないのだが、それでもその時代を生きていた者である自分からしても、それらはよく分からない見た目のものだった。

 アリオが努力の天才でのし上がった楽団員なら、共に公演をこなし舞台に華をそえる演出家はそちらの方面での生まれついての天才なのかもしれない。

「何だか変わった照明器具がたくさんあるわね」
「そうですね、配布されたパンフレットの説明によると、有名な舞台演出家が自ら作り出した機械だそうです、都会では名前の知れた演出家で前衛的な試みばかりをされる方だとか……」
「そうなの、すごいわね」

 ところで、と私は当たり障りのないごく普通の説明を受けた後に、このホール入る前……建物の入り口から若干それた所にあった、とある物についてトールに尋ねてみる。

「あの祠って、なんなのかしら。もしかして怨霊が祀られてたりするのかしらね」

 それはあらかじめゲームで知っていた事なのだが、記憶違い予防の為に改めて内容を確認したかったのだ。

「お嬢様、実はその通りだと言われているんです。祀られているというか、鎮めるために、ですけど。事前に調べたところによりますと、数年に一度不審死する役者がいて、付近の住人からは、数十年前にこのホールで自殺した女優の怨霊がそうさせているのではないかという話です。役者の死を防ぐ為にも……」
「も、もういいわ」

 やはり、という思いと共に話を遮る。
 それは一週目とまったく同じで、この場所は怨霊の住みついている呪われしスポットらしかった。

 最後まで聞けなかったが、確かめようとした勇気の分だけでも誉めて欲しい。

 しかし気が重くなる。
 ウルベス様の時もそうだが、攻略対象のイベントをやろうとするとやたらと怨霊と関わる事になるので嫌になりそうだった。

 それには一応理由があるのだが、だからと言って思い切りよく行動できるはずがない。
 進んで自分から死んだ人間と関わりたいと思う人など、いやしないだろうから。

「だけど、今回もあの屋敷の猫はついてきましたね。いつもはまったくこちらに見向きをしようともしないのに」

 ここにはいないが実は、屋敷の周囲に住み着いている猫がついてきていた。
 馬車の屋根かどこかに隠れていたのかもしれない。乗物から降りた時以来見ていないが、帰りの事を考えればそう遠くには行っていないはずだろう。

「そうね。ひょっとしたらあの子、音楽が好きなのかもしれないわね」
「そういえばウルベス様はフルートを嗜まれるとかお聞きになりましたが。いやまさか、猫に芸術は分かりませんよ」
「そうかしら」

 今回も、というのは実は前回もついてきていたのだ。
 帰りがけに馬車の屋根でくつろいているのをトールが発見して驚いた、という成り行きだ。

 でこぼこ道とか曲がり角とかでよく振り落とされなかったと思ったのだが、その猫の事を詳しく知れば当然だろうと後に思う事になる。

 今は時期ではないので、正体が気になったとしてもそっとしておくしか出来ないが。
 
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