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第一章 ウルベス・ジディアラーツ
第15話 怨霊をとめる方法
しおりを挟むそろそろ体力が尽きそうだ。
貴族令嬢だけあって、子供の頃はともかく最近はあまり運動してない。
疲労で立ち止まってしまったら、追いつかれるのも時間の問題だろう。
「はぁ……はぁ…。ウルベス様、あの……どうしましょう」
「そうだな」
尋ねるふりをしているが、私はウルベス様がこの状況を打開する方法を有しているのを知っている。
ゲームでプレイした初見の時は、この世の理が通じない相手に一体どうやって立ち向かえるのかと思ったものが、そこはちゃんと手段が存在していたのだ。
人里離れた森の奥で暮らすエルフ達は、遠い昔は墓守だった。
エルフの人達の総数を数えた事はないらしいが、今よりもずっと少なかった彼らは、一つの地域に集まって人間達の墓を守り、管理する事で迫害を免れて来たのだとか、そんな歴史があった。
そのため彼等には、死してなお迷える魂達を鎮める力が備わっているのだ
だけれども、ウルベス様はハーフエルフ。
エルフの力を十分に使うことはできない。
ここまで言えばお分かりになるだろう。
ここが分岐点だ。
主人公がどんな選択肢を選ぶかによって、生きてこの状況から脱出できるかどうか分かれてしまう。
成功すれば、無事に怨霊を沈めて霧が晴れ、使用人達とともに屋敷へ帰る事が出来る。
だが失敗すれば、ウルベス様は私を庇って怨霊に取りつかれ、ヤンデレ化して襲い掛かってくるのだ。
そうなってしまえば待っている結末は……。
幼い頃にいじめられたトラウマを元に動物達をけしかけられ。無残に食い殺されるという、そんな凄惨なバッドエンドのみ。
緊張で乾いた喉を意識しながらも、注意深くウルベス様にかける言葉を口にしていく。
「何か迷ってらっしゃるようですわねウルベス様、もしかしてこの状況を打開する方法に心当たりがおありなのではありませんか」
「っ! ああ、そうだ。だが……」
だがウルベス様は、その方法を口にする事を躊躇していた。
彼の葛藤は分からないではない。
幼少の頃にエルフの血のせいでひどい目にあった彼は、その血をちゃんと認められないでいる。
しかし現状は悠長に迷ってはいられない、切羽詰まった状況だ。自分が力を使う以外に方法が無い事は彼も分かっているはずだった。
それでもここで迷いを見せるのは、おそらくウルベス様もある事実に気が付いているのだろう。
方法を試すには、私を危険にさらさなくてはいけないという事を。
魂を鎮める為には足を止める必要がある。
怨霊を何とかできなければ、追いつかれた自分達はどうなるか分からない。
彼は「自分だけならともかく」、と考えているだろう。
婚約者である私を、他人に過ぎないこちらを危険にさらしてしまうのを心配しているのだろう。
分かりにくいウルベス様のその優しさは彼の美徳でもあるが、それはある意味残酷な事だ。
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