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第一章 ウルベス・ジディアラーツ

第9話 婚約者様は本当は優しい人です

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 楽器で演奏してくれない……という事は、つまりそういう事だ。
 私はウルベス様に、それほど好かれてない。
 私は導くために行動しているのであって彼等を攻略するつもりはまったくないのだが、分かっていた事でも落ち込みそうになる。

「……」
「どうかしたか、婚約者殿?」
「あ、いいえ」

 視線を落として俯いていたら、ウルベス様に気遣われてしまった。

 この調子ではいけない。
 もともと、途中参加で好感度が一定以上ある状態なのに、贅沢を言うなんて罰が当たってしまうだろう。
 私は意識をそらすために、他の話題を投下する事にした。

「ええと。あ、そうですわ。このあいだ友人に貰った遠方からのお土産があるんですけど……」

 そこで私はさりげなさを装って席を立ち、しかし意気込みながら、その友達から送られてきたお土産という品物の元へ早足で移動していく。
 だが、その数秒後に少しだけふらついてしまった。

「あっ……」

 かろうじて転ぶ事は無かったが、ウルベス様にはかなり心配をかけてしまったようだ。

「っ! 大丈夫か?」

 席を立った彼が慌てて近づいてくる。
 この部屋に来るまでに、つい最近まで病気で寝込んでいたという事を話してしまっていた。なので彼は、私がふらついたのはそのせいだと思ったのだろう。
 ウルベス様は気遣わしそうにこちらに駆け寄って来た。

「すまない、婚約者殿があまりにも元気でいるので、病み上がりだという事を忘れていた」
「いえ、大した事はありませんわ、大丈夫です。心配をおかけしてしまってすみません」

 普段はとっつきにくくて、一見すれと怖い印象を抱きかねない彼だが、病人を無下に扱えないという事はゲームの内容からでも分かっていた。
 ウルベス様は、誰よりも心優しい人間なのだ。

「昨日お兄様が屋敷へ帰っていらしたので、少しはしゃぎ過ぎたみたいです。何か悪い病気でもうつしてしまってはいけませんわ。やはりウルべス様はお帰りになられた方が良いかもしれませんね」
「ここまで来ておいて、それはないだろう。そんな事をしては、さすがに私でも心苦しい。もっとも婚約者殿が一人になりたいというのなら、退席させてもらうが」

 そうやって意地の悪い言い方をしているものの、ウルベス様のその言葉に悪意はないはず。
 彼はただ、善意を相手に伝えるのがものすごく下手なだけなのだ。

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