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〇133 婚約破棄されたって、追放されたって平気です。お貴族様のお世話にならなくても、自分の幸せは自分でつかみ取りますから。

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 女手一つで育てられていた私は、平民の少女だとずっと思っていた。

 だが、半分は貴族の血を引いていたらしい。

 私が産まれる前、母は使用人として、とある名家で働いていたらしいが、そこの主人の気まぐれで夜を共に過ごし、私を身ごもったらしい。

 しかし、平民の血と貴族の血が混ざる事は、あってはならない事だと考えられていた。
 貴族と平民の血が交わる事自体が、忌み嫌われていたのだ。

 そのため、母はお腹が大きくならないうちに、使用人の職を辞したという。

 そのため私は、父のいない生活を送っていたが、幸か不幸か幼い頃は大人の事情が分からなかった。

 だからよく他の子供の様に、父がいない事を不思議に思っていた。

「ねぇ、お母さん。どうして私にはお父さんがいないの」
「ごめんね。それはね、難しい話だからもう少し大きくなったから話すわね」

 寂しくはあったけれど、私は母と二人の生活にそれなりに満足していた。

 けれど、別離は唐突にやってきた。

「お前は今日から、うちの子供になるんだ」

 近所の子供達と遊んでいた時、唐突にやってきたお金持ちのおじさん、後に父親だと分かったその男性に、連れ去られてしまったからだ。

 知らない屋敷の中に迎えられた私は、その日に真実を知ってしまった。

 父は、妻に産ませた子供と、その妻を病でなくしたらしい。

 だから、平民の血の混じった私を仕方なく引き取って、貴族の血を絶やさないようにするのだと言った。

「お前は平民の子供だが、その体に流れる血の半分は貴族だ。教育を受ければ少しは使い物になるだろう」
「お母さんとはもう会えないの?」
「会えるわけがないだろう。一滴も貴族の血が流れていない平民なんぞに」

 その日から私は、教育詰めの毎日を送った。

 勉強は厳しくて、教えられた事をおぼえられないと、何度も教師にたたかれた。

 満足の行く結果を出せないと、ご飯ぬきにされたり、倉庫に閉じ込められたりもした。

 そんな日々が続いた私は、なんとかしてその家から抜け出そうとしたけれど、いつも見つかってしまった。

 脱走した事が判明すると、さらに厳しい罰を受ける事になったので、次第に抵抗する気がなくなってしまった。

 やがてそんな私が、婚姻が可能な年齢である十五歳になった時、父から複数の男性を夫にすることを命じられた。

 私が「普通は添い遂げる相手は一人じゃないんですか?」とそう聞くと、父はこちらを蔑むよう目で見つめながら答えてきた。

「我々貴族より劣っている平民の血が、満足に子孫を残せるわけがないだろう。お前はただ恥ずかしくない程度の教養を身につけ、子供さえ残せばよいのだ。余計な事は考えるな」

 その言葉で、父にとって私は、ただの道具なのだと実感した。

 そうして父が選んだ名家の男性とお見合いさせられることになる。

 誰も彼もが、私が平民の子供だった事を知ると、さげすんだ言動になった。

「これからお前の相手をしてやるんんだから、感謝してほしいくらいだ」
「平民なんかは普通、貴族の世界で生きられないんだから、与えられた環境に満足していればいいんだよ」
「薄汚れた血が流れているくせに、恵まれた生活を送ってきたんだ。課せられた役目くらい果たすべきだろう」

 そういって、私と関係をもとうとせまってくる。

 何とかして彼らを拒絶するものの、いつまでそれが続けられるのか分からないのが怖くてたまらなかった。。

 けれど、一人だけ違う人間がいた。

「今まで大変だっただろう。でも、俺の前では、強がらなくていいんだ」

 お見合いをした人の中に、平民だったという事実を知っても、初めて蔑まなかった男性がいたのだ。

 その人も、元平民の私と似たよう経緯で貴族になったらしい。

 私は、自分の気持ちを分かち合える人間と出会えた事が嬉しかった。

 似たような環境で過ごしていたせいもあってか、すぐに彼とは意気投合していった。

 恋に落ちるなら、このような人とが良いとも思った。

 彼も同じ気持ちでいたのか、七回目に出会ったその日、彼と気持ちを確かめ合った。







 自由な世界で、共に生きたい。
 そう考えた私は、ある芝居を打つことにした。

 それは、わざと不名誉な事をして、貴族の家から追放される事だ。
 牢屋に入るまでにはいかないように調整しなければならないのが難しいところだったが。

 しかし、やり方は分かっていた。

 貴族はなによりも、「人からどう思われるか」を気にしている。

 散々見下されてきた私にとっては、くだらない事だが、貴族は体裁や見栄などが大事なのだ。

 だから、平民である事を精一杯宣伝し、わざとマナーがなっていない所を見せつけ、教養がないご令嬢を演じつづけた。

 外で恥をかくたびに家での罰が厳しくなったが、後の事を思えば乗り越えられた。

 その頃には私は、鼻もちならない貴族の男性と婚約をかわしていた(父に気に入られた男性だが、当然の様に平民を差別している)。

 いくら複数の男性と関係をもたせようと考えていても、それは裏での事。

 表での体面を気にする父は、私の婚約者として一人の男性を絞らざるをえなかったのだろう。

 だから、私はその婚約者の前でも愚かな女を演じ続けた。

「満足に挨拶もできないのか、程度が知れるな」

「食事の最中に食器の音をこうもやかましく立てられるとは、さすが平民だな」

「贈り物のセンスも最悪だ。ゴミなんて贈りやがって。嫌がらせかと思ったぞ」

 そのかいあってか、無事に婚約破棄されることになった。

 父はその時点でかなり、怒り心頭になっていたが、まだかろうじて理性が残っていたようだ。
 その時点では、私を手放さなかった。

 罰として、冬の寒い日にバルコニーの外に出されて、一晩中放置されたときは死にかけはしたが、そこまでやるならあと一歩なのだと、自分を励まして乗り切った。

 一方、私がこうしている間にも、同じ境遇のあの男性も、あの男性なりに頑張っていたらしい。

 平民らしく愚かにふるまい。

 無事にまわりから幻滅されているようだった。

 彼と会える事は少ないが、同じ境遇の物が戦っているのだと思うと、心強かった。







 そして、とうとう決定的な出来事を起こす事ができた。

 それは、父が大切にしていた、亡き妻と子供の大切な品物を、うっかりを装って破壊した事だ。

 死人となってしまった彼らがどんな人間か分からなかったので、遺品となる品物を壊す事には罪悪感が湧いたが、この屋敷で過ごし続ける未来を思うと、行動しないという選択肢はなかった。

「もう我慢ならん。これ以上お前をこの屋敷に置いておく事ができん。私の目のつくところもうろつくな。出ていけ。ここから追放してやる。どこかで野垂れ死んでしまえ」

 少し行き過ぎたのか。そのあたりの領地から追放されてしまったが、望んだ通りの結果になって満足だ。

 もう二度とこの名ばかりの父と顔を合わせる事が無いなら、一地方に行けなくなったくらいどうって事ない。

 婚約破棄されたって、追放されたって平気だ。お貴族様のお世話にならなくても、自分の幸せは自分でつかみ取りる。

 私は、母の行方を調べながら、遠くの地でやり直すことに決めた。

 小さい頃に平民として過ごしてきた経験があるおかげで、平民の生活に戻っても戸惑う事がすくなかったのが幸いだろう。

 一度、元住んでいた場所に顔を出したが、私達が住んでいた家はなくなって残念な思いをした。

「あの、ここに住んでいた母、女性はどうしましたか?」
「ああ実はね」

 近所の人に聞くと母は、どこかの家の使用人として働きに出たとかいう話だ。

 けれど、それがどこかは分からないらしい。

 仕方なしに、生活の事を考えながら、母を探すことにした。

 その後、数年かけて生活の基盤を整えた私は、商人として働く事になった。

 生活雑貨を扱ったり、珍しい薬や、収集家の希少品などを取り扱っている。

 たまに、希少品好きの貴族を相手にする時は、(嫌々ながらも貴族の屋敷で勉強した)礼儀作法や知識などが役に立った。

「お嬢さん、おひとつ購入してもいいですか」

 そして、そんな生活の中で出会ったのはある二人だ。

 気品のある老婦人と、一人の平民の男性。

 どちらも見覚えのある二人。

 一人は鏡で見た私の顔に似ている女性。
 もう一人は、あの過酷な貴族の世界で、唯一私に優しく接してくれた人。

 彼の願いも、私と同じく果たされたようだ。

 貴族でなくなった彼は、過去に出会った時よりも穏やかな表情で話しかけてきた。

「まさか俺の屋敷に、君のお母さんが働いていたとはね。娘と会うために、嫌な職場に戻るなんて、君のお母さんは大した人だよ」

 私はそのできすぎた奇跡に感謝した。

 これだけでも十分だと言うのに。

 でも、その時の私は思わなかった。

 さらに数年後にこの場にいる三人が同じ家族になるなんて奇跡が起こるとは。

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