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〇120 高貴な方々がそろいもそろって、聖女な私の肉壁になろうとしています
しおりを挟む目の前で、とんでもない争いが起きていた。
数十人の暗殺者集団が、この国の王子だとか高名な魔法使いだとか名門貴族だとかと戦っている。
前者が敵で、後者が味方だ。
とてもお偉い人たちが、私の味方。
けれど、目の前の景色は、本当はあってはいけないものだ。
私はこの国の有名な聖女。
だから、普段なら護衛に守られて生活している。
けれど。何事も失敗を完全になくすことはできない。
間が悪かったのだ。
人払いをしていたところを襲撃されてしまったので、護衛がかけつけられない状態に陥ってしまった。
部屋の外にはいるにはいるのだが。
扉をたたいて焦ることしかできないだろう。
ここは密室で、部屋に封印魔法がかけられてしまっているから、だから護衛は絶対に私を守れない。
けれど私はまだ生きていた。
なぜなら。
この国の王子だとか高名な魔法使いだとか名門貴族が、私のために戦っているからだ。
それ自体は非常に嬉しいのだがーー
しかし、だからといって高貴な方々を戦わせるわけにはいかないのだーー。
「あのっ、無茶しないでください!」
私のために戦ってくれている彼らは、一人ひとりがこの国の重要人物なのだ。
しかし彼らは言うことを聞いてくれない。
「安心してくれ、君は必ず守り抜く」
「大丈夫ですレディー。わが命に代えてもこの者達を撃退してみせましょう」
「何も心配に思わないで。好きにやってることだから」
彼らは、それぞれ剣で槍で魔法杖で戦っているが、道具がなくなって戦うすべをうしなったら、こちらの肉壁になって命を落としそうなセリフを言ってくる。
私はそんなこと、望んでいないというのに、いったいなぜこんなことにーー。
別の世界に転生したらしい。
それがわかったのは五歳のころだ。
自分の状況を自覚した私は、特に前世で好きだった乙女ゲームの世界でも、小説や漫画の世界でもないことにがっかりした。
前世の知識、ほぼ役に立たないなと思いながら、何の変哲もない日々をすごしていたのだが、様々な創作物を読んでいた私は、誰かの変化に敏感になっていたらしい。
「ああ、このキャラが人間不信になる前に、私だったら手をさしのべて励ましてるのにな」
「うわーん。そんな悲劇があったら闇落ちして当然じゃない。私が傍にいたら、暗黒面なんかに落とさないのに」
「ぎゃあああ。それはフラグ! 早く家に帰って、創作の中の「なんだか嫌な予感がする」は本当に的中しちゃうんだってば」
有名なゲームをプレイしては、自分だったらーーと妄想し。
面白い漫画を読みふけっては、手を差し伸べる方法があるとすればーーと考えていた。
そういうわけなので、家族旅行で王都に向かったとき、ばったり王子に出会ったときはびんびんオタクセンサーが稼働していた。
01 護衛がついてきていないか、確認するしぐさ
02 市場のなんでもない露店に目を引かれる様子
03 王宮がある方を見て、ため息をつく動作
これはあれだな。
王子としての英才教育でストレスためこんでるやつだな、と。
創作ではよくあるキャラクター背景だった。
だから私は、自分の身分を隠している(つもりになっている)王子に協力して、庶民の生活をご紹介。
あれこれ親切にしてあげたのだ。
王子は大変満足してくれたようで。
別れ際に、心いっぱいの笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
一般庶民だけど、旅行できるほどのお金があってよかった、とこの時ばかりは思ったね。
うちの両親、パパの方が元貴族だったらしいけど、駆け落ちで実家を出る時いろいろお金になる物をくすねていたらしいから。
二度あることは三度ある?
まだ二度目だけど。
私のオタクセンサーは数か月後に、またまた反応。
魔法使いの男の子が、奴隷になって馬車でえっちらおっちら運ばれている場面にでくわしてしまった。
他の子供たちも一緒に乗せられていたんだけど、あきらかにその子だけすごい子ですオーラが違うんだよね。
見つけたときは仰天したよ。
たまたまお小遣いかせぎできのこ採取のために出かけていなかったら、遭遇しなかったんだから。
様子を見ている私の前で、奴隷商人たちはひと休憩。
子供たちが入った馬車から目を離して、一服しているところだった。
この世界のたばこは、私がいた元の世界のものほどいい品物っぽくはないんだよね。
だから、けっこうよくむせてるし、よくない成分でも入ってるのか、目がうつろになっていた。
そこでどうしたか。
まずちょっと迷ったよ。
奴隷がいないとなりたたない社会ってのも分かる。
この世界にはこの世界のルールがあるってことも。
でも、私は子供の体だから精神も子供メンタルになってるっぽいし、目の前でしくしく泣いてる子供たちがいたら見捨てられなかったんだよ。
だから行き当たりばったり的に手をさしのべてしまった。
こっそり近づいて、おんぼろ小屋のカギをあれこれ。ちょうどやばい酸を出すキノコを間違えて採取していたから、それを利用してカギを破壊。
子供たちを逃がすことに成功。
大脱走した子供たちは、実はちゃんとした契約を結んで奴隷になった子供たちではなかったようだ。
なので、後日親元に送り届けられたらしい。
件の魔法使いくんもそうだった。
帰る日になったとき「あなたは命の恩人です。ありがとうございました」と言われて、握手を求められた。
そして、ついに三度目だ。
その頃には聖女としての力に覚醒していたので、聖女育成施設であるパレスにて修行をすることになっていた。
私は荷造りをしながら地元を離れる準備をしていたのだけどーー。
お買い物のお手伝いをすることになって、商店へでかけたら、名門貴族っぽい男の子とばったり遭遇。
どうやら、観光の後に馬車にのりそこねて、家族に置いていかれてしまったようだ。
そんなことある?
って思ったけど、彼には双子のお兄さんがいたらしい。
そのお兄さんが、「ちゃんと馬車にのった?」の確認に二人分の返事をして忙しい両親の認識をごまかし、馬車を進めさせてしまったようだ。
兄弟喧嘩でこんなことになるなんて思わなかった、そう名門貴族くんは嘆いていたな。
でも、これなら簡単だ。
聖女としての支度金をもらっていたので、馬車に乗せて送るだけですむのだから。
三度目は楽にすみそうでよかったなーと思っていたら、まさかの出来事。
雨季が到来して足止めに。
馬車は当分の間動かなくなってしまった。
名門貴族くんには知り合いがいないため、仕方なく私たちの家にご招待。
断り切れなかった。
だって、町のお偉いさんより、私の家が良いってだだこねて、泣き出したんだもん。
あれこれしている間にさらに問題が、近くの川が氾濫してそこらじゅうが浸水してきたのだ。
逃げ遅れたものたちが大勢いる中、私は権力者に頭を下げられて、病院に待機することになった。
すでに力には覚醒していたから、けが人が出たときの為にーーだったのだろう。
予想は的中。
数時間後、水害でけがをした人たちが次々に運び込まれてきたため、私は寝る間も惜しんでその人たちのために力を使い続けた。
限界が分からずに、やりすぎてぶっ倒れ、一時間くらい気絶したのは恥ずかしい思い出だ。
けれどそれが名門貴族くんにはいい刺激になったようだ。
若干わがままで、泣き虫なところがあった彼は「君みたいに人を助けるような立派な人物になりたい」と言って、そのあと変わっていったそうだ。
もちろん雨季が終わった後は、ちゃんと馬車で帰っていった。
そんなこんななエピソードを経て、大人になってから彼らと再会。
紆余曲折を経たのちに、こんな状況が目の前に出現したのだ。
「心優しい彼女を亡き者にしようだなんて、国の上に立つものとして許せないな!」
「彼女は大切な人だ。貴様らなんかに、命の恩人をやらせはしない!」
「君たちが彼女を殺そうとするなら、一切手加減なんてしてやらないよ!」
彼らはほんと、肉壁でもいいみたいな勢いで私のために戦っている。
実際何度か私に攻撃が来たときは、かばってるし。
やめてくださいといっても、絶対やめてくれない返事しか返ってこないし。
はあ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
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