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〇85 言葉にならなかった気持ち
しおりを挟むかつて一人の少女が存在していた。
その少女には想い人がいて、その胸には熱い恋心が秘められていた。
その熱は、どんな鉄も溶かす激しい炎が生み出した物だった。
けれど、少女の愛の告白がなされることはなかった。
告白を決心した彼女は、その決意を胸に宿したまま、家を出て不慮の事故にあってしまった。
少女は決して帰られない。
死者は言葉を語らない。
告白されるはずだった少年は、声が枯れるほど泣き叫び、自らに愛情を示す勇気が無かった事を責めた。
告白の相談を受けていた親友は、涙が枯れるほど泣き続け、胸の内に秘めた片思いの感情ゆえに親身になれなかった己の行動を悔いた。
そんな彼等を宙から見下ろす一人の少女は、何も語らない。
何も語れない。
少年を慰める気持ちも。
親友を励ます気持ちも。
この世にない体では、言葉にする事ができなかった。
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