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〇02 暴虐王子の元へ嫁入りにいきましたが、改心させるのが大変です 01.19
しおりを挟むどうやら私はこの先、とんでもなく不幸な目にあってしまうらしい。
恋愛に興味がなかったから、適当にお見合いをこなしていたら、なんとこの国の暴虐王子の元に嫁ぐことになってしまった。
何それ。
あだ名が不穏すぎる。
王子なのに、暴虐ってどういう事よ。
調べてみたら、嫌な情報ばかりがでてきた。
その人物はこの国の王子なんだけれど、とんでもなく気性が荒いらしい。
何かにつけて怒り狂い、暴れまわる人間だとか。
その暴れっぷりは、「人間じゃなくて邪竜とか暴竜なんじゃないか?」とささやかれるくらいだ。
私の身分は、ただの貴族。普通の貴族令嬢やってます。
その普通のご令嬢が王族と婚約できるのは素晴らしく良い事なんだけれど、全然喜べなかった。
外れくじを強制的につかまされた気分だ。
きっと、皆嫌だったんだろうな。
そんな暴れ王子と婚約するのなんて。
なので私は、仕方なく体を鍛える事にした。
えっ?
なんでって、そんなの決まってるじゃない。
暴れ王子をしつけるためよ。
さて、月日は流れて一か月後。
私はとうとう暴虐で暴君な王子の元へ向かう事になった。
まだ、嫁入り準備って感じで、本格的にお嫁さんになるわけじゃないから、それが救いといえば救いよね。
周囲の人間も私に「やばい相手をおしつけちゃった」みたいな負い目があるからか、妙に親切にしてくれるし。
お城の中を案内されている時は、ずっと不憫な子を見るような視線で労られたわ。
そんなにひどいのかしら。
戦々恐々としていた私は、ほどなくしてその理由を知る事になった。
「お前が俺の妻か! いいか、ここでは俺が一番だ、俺に逆らうなよ」!
これは、ひどい。
たしかに、やばい。
王子、性格が暴虐すぎて!マークが「」の外に飛び出してますよ。
「聞こえてるのかっっっっ! 俺に逆らったら罰を与えると言っただろうっっっっ! くれぐれも、俺の邪魔になるような事をするなっっっっ!」
今度は「っ」が多すぎです。
どれだけ勢いよく喋ってるんですか。
「お れ が こ の し ろ の な か で い ち ば ん つ よ い ん だ か ら な!!」
王子、声が大きすぎて「」内のセリフが距離とってますよ。
あと、建物内に反響してしまっている。
この人、どんだけ人間っぽくないんだ。
私は何も言わずに、ドレスの中に隠し持っていた棒切れをとりだして、無造作に王子へ近づいた。
そして。
ドゴンっ!
軽めに王子をなぐりつけた。
大丈夫、あらかじめ許可はとってる。
こんな王子に嫁ぐ可哀そうな役をこなしながら、同情を引いて言質はとったし。
「んがっ」
ばったり。
王子は白目をむいて、その場にぶっ倒れたけれど、一秒後に復活。
体が丈夫らしい。
「なっ、なにをする貴様ぁぁぁあああああああ!」
私は、棒きれをつきつけて王子に宣言した。
「私の夫となる人間がいつまでも暴れ狂っていては迷惑なのです。ですから、その性根を叩きなおしにきましたわ」
どうやら私には、武術の才能があったらしい。
貴族のお嬢様として育ったのに、これは驚きだ。
鍛えたら、鍛えただけ、腕前が上がっていった。
なので、せっかくの才能を活かしてみる事にしたのだ。
「王子! 理不尽な要求はしない!」
「王子! 高圧的な態度をとらない!」
「王子! 何でもかんでも大声で言えば要求が通ると思わない!」
私は王子が暴虐を尽くそうとするたびに、制裁をくわえて、躾なおした。
初めの頃は王子も調子のってた。
「き さ ま ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ つ っ っ っ」!!!
って感じで。
額に青筋浮かべて、こっちに掴みかかってこようとしてた。
でも私がひょいと避けた時に、窓を突き破って三階から落っこちてからは、ちょっとだけ慎重になった。
たまにひょいっと避けて、家具にぶつかってからも少し大人しくなった。
間抜けな醜態を見せまいとした意地なのだろう。
で、それから少したってからは。
「待ちやがれ! 今日という今日はもう許さんっっっ」!!!
と言う感じになった。
まだ「!」が「」の外に出てるけど
鞭だけじゃなくて、たまに飴を与えたら大人しくなる時間が増えた。
「関係のない人に八つ当たりしなくなって王子は偉いですね」とか「家具に八つ当たりしなくなって優しくなりましたね」、子供にするように褒めた。
馬鹿にしてるのかって思う所だが、王子はある意味子供で純粋だった。
「ふっ、ふん。王族というものは、むやみに力をふりかざしたりはせんのだ」とかたまに恰好付けるようになった。
いや、今まで散々好き勝手に振りかざしていたでしょ、とはさすがに言わなかった。
私、空気読める子。
今までの行いがやばかったから暴虐王子なんてあだ名がつけられたんでしょ。忘れたの?
とも言わなかった。
で、最近は「よくもやってくれたなっっっ!!!」という怒り方。
やっと「!」が「」の中に入ってくれたようだ。
あとは「っ」を減らすだけだ。
最近は叱って制裁を加えようとするたびに、むしろ自分から当たりに来ているように見えるのだけど、変な性癖とかこじらせてたりしないよね?
まあ、大人しくなるならある程度はいいか。
そして、とうとう「俺は怒ったぞっ!!」セリフが一般並みになった。
王子はやっと、人並みの怒り方を身に着けたようだ。
権力を持った人間は我儘になりやすいし、とめる者がすくないから行動が過激になりやすい。
今まで周りにいる人間がきちっと叱ってやらなかったから、そうなってしまったのだろう。
王子は暴虐暴君で暴竜然とした以前と比べると、ただの怒りっぽい人間になった。
でも、その代償が高くついたようだ。
「うむ、さすが俺の嫁だな、俺に新しい世界を見せてくれるとは(顔を赤らめる)」
一か月後。
ベッドの上で縛り付けられた王子がキラキラした瞳をこちらに向けていた。
世継ぎをとかそういう話ではない。
そうだとしたら、立ち位置がおかしいし。
「さあ、さあ、さあ。お前の愛情を今日も俺に叩き込んでくれ。いつものようにきつい制裁を!」
王子はまともな人間になるのではなく、脇道にそれて変態へ進化してしまったようだ。
私は、見なかった事にして部屋から去った。
放置か!
そういう制裁か!?
とか嬉しそうな声が部屋の中から聞こえてきたけど、無視だ無視。
廊下に立つ見張りの兵士が、なんとも言えない同情の視線を向けてくる。
あわせる視線がない。
ごめんなさい、貴方達の主を変態にしてしまった。
私は一体どこで間違えてしまったのだろう。
廊下で一人遠い目をしながらたそがれる私は、かなり後悔しまくった。
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