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〇46 気に入らない同僚の聖女を虐めていたら、国が滅んでしまった
しおりを挟む私は聖女の中では一番大きな力を持つ存在だった。
誰もが私を認め、尊敬していた。
私の浄化の力にかなうような聖女なんて、他にはいないと思っていた。
けれど、ある日そんな私の力をうわまわるような人間があらわれた。
年下なのに、新米なのに、その少女はとても才能にあふれていた。
その人間は、まさしく天才の見本のような少女だった。
努力をしなければ上達しなかった私とは違う。
血反吐を吐くほど頑張らなければ成果を出せなかった私とは違う。
その少女は、何もしなくても、自然と強大な力を操る事が出来た。
その人物がきて、はじめて浄化の力を使った時、私は震えていた。
あまりにも強大すぎる力を前にして、恐怖していたのだ。
そして、私の居場所がなくなってしまう。
そう思った。
危機感が膨れ上がった。
今まで作って来た、私を支えていた足場が、崩れていくような感覚がした。
その想像はすぐに現実になった。
今まで私によせられていた信頼は、尊敬は全部なくなってしまった。
代わりにあの、天才の新人聖女に向けられてしまった。
皆があの子を褒めている。
皆があの子だけを見ている。
それを見て私は、猛烈な嫉妬心を抱いた。
そして、早くあの新人聖女を追い払わなければ、と思った。
だから私は、その聖女をとことん、虐めるようになった。
あることない事いいふらし、彼女の名を貶め、彼女の邪魔をした。
仕事の邪魔をしたり、持ち物をかくしたり、壊したり。
思いつく事はなんでもやった。
そうやって、足をひっぱり続けてどれくらいたっただろうか。
いつも平然としていた彼女は、ついに屈する事がなかった。
私の苦労は、実らなかった。
その時は。
彼女はその力を国の王に見いだされて、婚約を結ぶまでになっていた。
その頃にはもはや、彼女は新人ではなくなっていて、知らないものなどいないほどの大聖女になっていた。
彼女の力を認める者達は、聖女達だけではない。
国中の人間が、彼女を褒めたたえ、尊敬し、称賛した。
私はとうとう彼女の心を折る事ができなかった。
敗北した、とそう思った。
だからせめて、彼女が城へ引っ越す前に、部屋を荒らしておこうと思った。
全て壊してしまおうと思った。
私は愚かだった。
何も持ってはいかせやしない。
ここであったものを、何一つ。
輝かしい思い出の品物なんて。
そんな事を思う私は、きっと人間として救いようのないクズだったのだろう。
私は、彼女が使っていた部屋に入った。
ぜんぶ壊すつもりで。
そこに侵入した。
けれど、私の視界には何も映らない。
そこには何もなかった。
移動させたとかそういった痕跡はなかった。
引っ越しの用意をしていたようには見えなかったのだから。
だから、最初からなかったのだろう。
その部屋には。
仕事に必要な道具しか。
私は、何を見ているのか分からなかった。
彼女は名誉にも、称賛にも興味がなかったらしい。
もらったはずの栄誉の品は何一つ残っていなかった。
勲章も、賞状も。何一つ。
代わりにそこにあったのは、聖女育成施設であるこの場所の闇の記録だった。
この国の地下にひっそりとあるらしい秘密の収容施設では、孤児の子供を集めて、聖女の力をうえつけるための実験が行われていた。
たくさんの子供が死んだ。
苦しんで、無念の内に。
それはただのデータからでも分かる事だった。
だがその実験では、一人だけ成功例が出たらしい。
それが、私の知っているあの天才の少女だ。
けれども。
その子供は、生還を喜んだりしなかった。
救う必要のない世界に絶望して、この国の終焉を願っていた。
「あれほどの嫌がらせを一人が行ったとは思えない。人の足を引っ張る者達が大勢いるはず。だから、この世界を、救う価値などないと判断した。苦労してたどりついた国の中心でもそれは同じ。国の要人達も、実験の中止を聞き入れてはくれない。私を権力を強化するための道具としてしか見ていなかった」
どこかで鐘がなりひびく音がした。
国中になりひびくその金は、結婚式が行われる度になる、祝いの鐘だった。
今日、この時間に行われる結婚式は一つしかない。
彼女とこの国の王子の、結婚式。
国中の者達が幸せを祝福する中で、絶望したとある聖女がその国を亡ぼすために、力を使った。
この国で一番力の強い聖女だ。
その気配が、私にもわかった。
聖なる力が爆発的に膨れ上がる。
きっと、想像できないほどの大惨事になる。
白い光が全てを消し飛ばしていく中で、私は自らの行いを後悔していた。
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