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スパイがあの中にいる?
新たな情報に私はめまいを起こしそうになった。
密室殺人。嘘をつく魔法使い。怪しい軍関係者。そしてスパイだ。
もうなにがなんだか分からない。
しかし冷静になって考えてみれば納得もできた。魔法使い達がシモン・マグヌスを殺す動機は希薄だった。一位を取るためと思っていたが、それだとリスクが大きすぎる。
しかし敵国イガヌのスパイだとすれば話は別だ。
イガヌからすれば隣国である我がネルコの動向は常に気にしているはずだ。
そして我が国が強大な兵器を手に入れようとすればそれを阻止しようとするのは安全保障の観点から至極当然と言える。
植民地問題でも後手に回るイガヌからすれば我々が更に力を付けるのは看過できない。
だからスパイを使ってシモン・マグヌスを殺した。
いや、正確に言えばイガヌにとっての危険人物を排除したのだろう。なにせ魔法使いは自分の研究を明かしたがらないから当日になるまで誰が危ないかは分からないのだから。
しかしそうなると怪しいのは……。
「サイラス・ヤングで決まりだろう」
ローレンスはそう断言した。私もそれに内心同意する。
彼は嘘をついていた。それは彼がイガヌのスパイだったから。新たな情報によってその謎があっさりと解け、気分が幾分落ち着いた。
しかしシャロンは違った。一喜一憂することなく、むしろ新たな情報を得て冷静さを増していた。
「断言するのはまだ早いわ」
「なぜですか? 彼はシモンと会っていた。そして我々に嘘をついている。これはもう自白したようなものですよ」
「まだそれが真実とは分からないでしょ? イヴリン・ウッドがスパイだったら嘘をついてサイラスに罪をなすりつける気かもしれないわ」
それを聞いて私達はハッとした。たしかにあり得る。敵内部を混乱させるのはスパイの常套手段だ。
シャロンはやれやれと小さく息を吐いた。
「そもそもその秘密情報部とやらは信頼できるの? 可能性の話をしているならスパイなんてどこにでもいるでしょ?」
私はかぶりを振った。
「彼らが上に進言したのならほぼ間違いないとみていいです。よっぽどの確信がなければ人を動かしません。今回も疑惑を段階的に精査してから発信しているはずです。疑惑は随分前からあったかもしれませんが、それが本当だと確信するなにかを得たのでしょう」
ローレンスは「自分もそう思います」と頷いた。
シャロンは顎に細い人差し指を当てた。
「そう。ならスパイはあの中にいる。その想定でもう一度彼らに会いに行きましょう」
そう言うとシャロンは再び私に両手を伸ばした。
私は今日何度目か分からない抱っこをした。疲れてきたのか、それとも今軽く食べたからかは分からないが少し重く感じる。
そう思った矢先、シャロンはムッとして私を見上げた。
私は慌てて笑顔を作り「さあ、行きましょう」と言って食堂を後にした。
新たな情報に私はめまいを起こしそうになった。
密室殺人。嘘をつく魔法使い。怪しい軍関係者。そしてスパイだ。
もうなにがなんだか分からない。
しかし冷静になって考えてみれば納得もできた。魔法使い達がシモン・マグヌスを殺す動機は希薄だった。一位を取るためと思っていたが、それだとリスクが大きすぎる。
しかし敵国イガヌのスパイだとすれば話は別だ。
イガヌからすれば隣国である我がネルコの動向は常に気にしているはずだ。
そして我が国が強大な兵器を手に入れようとすればそれを阻止しようとするのは安全保障の観点から至極当然と言える。
植民地問題でも後手に回るイガヌからすれば我々が更に力を付けるのは看過できない。
だからスパイを使ってシモン・マグヌスを殺した。
いや、正確に言えばイガヌにとっての危険人物を排除したのだろう。なにせ魔法使いは自分の研究を明かしたがらないから当日になるまで誰が危ないかは分からないのだから。
しかしそうなると怪しいのは……。
「サイラス・ヤングで決まりだろう」
ローレンスはそう断言した。私もそれに内心同意する。
彼は嘘をついていた。それは彼がイガヌのスパイだったから。新たな情報によってその謎があっさりと解け、気分が幾分落ち着いた。
しかしシャロンは違った。一喜一憂することなく、むしろ新たな情報を得て冷静さを増していた。
「断言するのはまだ早いわ」
「なぜですか? 彼はシモンと会っていた。そして我々に嘘をついている。これはもう自白したようなものですよ」
「まだそれが真実とは分からないでしょ? イヴリン・ウッドがスパイだったら嘘をついてサイラスに罪をなすりつける気かもしれないわ」
それを聞いて私達はハッとした。たしかにあり得る。敵内部を混乱させるのはスパイの常套手段だ。
シャロンはやれやれと小さく息を吐いた。
「そもそもその秘密情報部とやらは信頼できるの? 可能性の話をしているならスパイなんてどこにでもいるでしょ?」
私はかぶりを振った。
「彼らが上に進言したのならほぼ間違いないとみていいです。よっぽどの確信がなければ人を動かしません。今回も疑惑を段階的に精査してから発信しているはずです。疑惑は随分前からあったかもしれませんが、それが本当だと確信するなにかを得たのでしょう」
ローレンスは「自分もそう思います」と頷いた。
シャロンは顎に細い人差し指を当てた。
「そう。ならスパイはあの中にいる。その想定でもう一度彼らに会いに行きましょう」
そう言うとシャロンは再び私に両手を伸ばした。
私は今日何度目か分からない抱っこをした。疲れてきたのか、それとも今軽く食べたからかは分からないが少し重く感じる。
そう思った矢先、シャロンはムッとして私を見上げた。
私は慌てて笑顔を作り「さあ、行きましょう」と言って食堂を後にした。
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©2019 新菜いに
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